17.正体③
「さっきからブランデーのことばかり見すぎだよ」
「ご、ごめんなひゃい……」
「まあ、君は何も知らないからそんな風にブランデーを見られるのだろうけれど」
意味深な言葉に、気になって首を傾げる。
「どういう意味……?」
「メアリーの行動をずっと俺に報告してくれていたのがブランデーなんだよ」
「……え」
私の行動……って、もしかして私の監視をしていたのがブランデーさんだということだろうか。
「あ、貴方だったのですか⁉︎ いつもいつも私の邪魔していたのは……!」
カシスに命じられていたのはわかっているが、それでも私の頑張りが一瞬で無駄になった時の絶望は計り知れない。
「も、申し訳ありません……! 決してメアリー・ジョゼット伯爵令嬢様に対して悪意があったわけではなく……」
「だからそのフルネーム呼びやめていただけませんか⁉︎」
「それは……」
ブランデーさんにジリジリと詰め寄ろうとする私を、カシスが止めに入る。
「メアリー、ブランデーが困っているよ」
「だってこんな呼び方、すごく慣れないっていうか……」
「うん、けれど許してあげて? ブランデーは俺の言うことを守っているだけだから」
「カシスの言うこと?」
「そうだよ。必要以上にメアリーに近づくなって俺が強く言っているから」
つまり、ブランデーさんの態度がよそよそしいのは……カシスの命令ということ?
「どうしてそんなこと……」
「メアリーはすぐ他の男に靡くからね」
「そ、そんなことない! 私はカシスに一途だよ……!」
「それに、ブランデーは多くの女性を虜にしてしまう容姿と性格をしているからね。君も見ただろう? この見た目なのに、あの女性慣れしていない純粋なところ」
カシスの言葉に思わずうんうんと頷く。
なるほど。ブランデーさんの魅力は、カシスも認めるほどのようだ。
「取引相手が女性であれば、ブランデーを出せば大抵上手くいくし、俺もブランデーを見て色々と勉強させてもらっているよ」
「え……じゃあやっぱり照れるブランデーさんを見て、カシスと重なったのはそういうこと?」
「多分そうじゃないかな。あの恥ずかしがる姿は、効果抜群だからね」
他人の表情を見て自分に落とし込むなんて……早々できないだろう。
「恐るべしカシス……」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
ニコニコと笑うカシスを前に、それ以上は何も言えなくなる。
「まあそんなブランデーも、一度ヘマをしたけれど」
「うっ……」
カシスの一言に、ブランデーさんの顔色が変わる。
「ヘマ……?」
「知らないうちに誰かにつけられていて、正体がバレそうになったらしいんだ。結局相手の尻尾は掴めたの?」
「申し訳ありません……未だに行方がわからず」
私はブランデーさんにつけられていても全くわからなかったのに……そんなブランデーさんを上回る相手なんて、一体何者だろう。
「それにしても……まさかフィズの裏にいるのがカシスだったなんて。じゃあブラッド様に言えないなあ」
もし正体がカシスだと知れば、より険悪なムードになってしまうだろう。
これ以上二人の間に亀裂が走っては困る。
「どうして? 君のためなら、いくらでも囮になるよ」
「ダーメ。そんな危険な真似、させられないよ」
「君は危険な真似をしようとしたのに?」
「うっ……それは」
「俺、言ったよね。悪い男に捕まって、悪いことをされても知らないよって」
なんだか嫌な予感がして、一歩後ろに退く。
「カシスは悪い男の人じゃないでしょう?」
「俺は今、どうしたら君が危険な真似をしなくなるか考えているけれど……辱めるのが一番早い気がするんだ。どう思う?」
カシスの言葉に全力で首を横に振る。
「そ、そんなことをしなくてもちゃんと反省します……!」
さすがにブランデーさんの前で迫られるのは恥ずかしい。
もちろん人前じゃなければいい、ということではないけれど。
「そ、そもそもブランデーさんをつけたた相手ってジェランダ公爵家の人たちじゃないの?」
「ああ、それは違うと思うよ」
「どうして言い切れるの……?」
「ブラッド・ジェランダにね、フィズの正体をチラつかせたらすぐ食いついてきたんだ。もしジェランダ公爵家にバレていたら、こんな誘いに乗らないだろうし。早速今日会うことになっているのだけれど、時間的にそろそろだね」
「なっ……!」
あまりの急展開に頭が追いつかない私をよそに、カシスは話を続けた。
「もちろん俺の正体は明かしていないよ。今日は相手の真意を探るのが目的で、ブランデーに対応してもらう予定なんだ。俺たちは隠れて話を聞いていよう」
「えっと、じゃあもうすぐブラッド様が来る……? その、ここで争いが起こったりしない?」
「一人で来るのを条件にしているから大丈夫じゃないかな。相手の方が圧倒的に不利だからね」
いったいそこまでしてブラッド様が敵対するフィズに近づきたい理由は何なのだろう。
気になったが、話を聞かない限りはわからない。
「じゃあブランデー、頼んだよ」
「承知いたしました」
その後すぐにブランデーさんは着替え、あとはブラッド様を待つだけとなった時、タイミングよく彼がやって来た。




