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16.正体②

「……わかり、ました」


 簡単に気を許してしまう私も私だが、助けてくれたのも事実だ。


「ありがとうございます……!」


 相手は安心したような表情を浮かべ、その姿がどこか愛らしい。


(こんな美青年がもし貴族だったら、絶対に社交界で注目の的だろう。やっぱり平民なのかな)


 相手の顔をマジマジと見つめていると、恥ずかしそうに視線を逸らされてしまう。

 このピュアな反応がつい乙女心をくすぐられた。


(なんか今の反応、照れくさそうにするカシスに似ていたなあ。気のせいだろうけれど)


 カシスを思い出して小さな笑みをもらす。


「では行きましょう。メアリー・ジョゼット伯爵令嬢様」

「あの、そのフルネーム呼びは何とかなりませんか……?」

「申し訳ありません。そう呼ばないと危険なので……」

「危険……」


 歯切れの悪い回答にヤキモキする。


「そういえば、今から誰にお会いするのですか?」

「それは……その、首領……ですかね」

「首領って、もしかして……組織のトップ、なんてことはないですよね」

「いえ、合っています。ですが俺から言えるのはこれぐらいで……申し訳ありません」


 何だか先ほどからたくさん謝られている気がする。

 立場上、言えないことも多いのだろうけれど……それでも組織のトップだなんて聞いていない。


「あの、本当に私、捕まりませんか……?」

「必ず大丈夫だとお約束します」


 今更逃げたところですぐ捕まるのは目に見えているため、大人しくついていく。

 先程私を襲おうとした門番の男たちに何度も頭を下げられながら家の中へと入り、やってきたのは地下室だった。

 家の外観や一階とは違い、地下は綺麗に整備されている。


「では、俺の後に入ってきてください」

「わかりました……」


 地下の突き当たりにある扉の向こうに首領はいるようで、ブランデーさんはノックして中へと入っていく。


(首領って怖い人なのかなあ……体も大きくて屈強なイメージがあるけれど)


 一瞬足がすくんだが、意を決して部屋の中へと入る。


「無事に保護して連れてきました」

「それはよかった。ありがとう」


 ブランデーさんが話した後に聞こえてきた柔らかな声に、思わず私は足を止める。


(嘘……この声って)


 聞き間違えるはずがない。

 数え切れないほど、誰よりもそばで聞いてきた心地の良い……カシスの声を。

 勢いよく顔を上げると、変装姿のカシスがデスクの前に座っていた。


「か、カシス⁉︎」

「君の無謀なところは一生変わりそうにないね」

「どうしてここにいるの⁉︎」


 状況が理解できず、ついカシスに詰め寄ってしまう。


「ひどいなあ。君がフィズの正体を突き止めたがっていたから、姿を現してあげたのに」

「じゃ、じゃあ……この組織の裏で手を引く貴族って……ヴィクシム公爵家なの⁉︎」


 国に忠誠を誓うヴィクシム公爵家が、まさか裏社会に進出しているとは思わなかった。


「ああ、公爵家は一切関与していないよ。ただ俺が暇潰しで作っただけで」

「え……暇、潰し……?」


 私の反応を見てカシスは面白がりながらも、説明してくれる。


「何か面白いことはないかなって考えた時に思いついたんだ。ジェランダ公爵家が牛耳る裏社会に、正体不明の組織が力を持ち始めたらどうなるかと考えただけでワクワクしたよ」

「じゃあ本当にカシスが、この組織を作って……」


 情報屋によると、フィズもやっていることはジェランダ公爵家と何ら変わりない。

 極悪非道で、多くの悪事を働いている。


(本当に……?)


 ふと芽生えた違和感は、これまで長い間カシスを見てきたからこそのものだろう。


(どうしてこのタイミングでカシスは明かしたんだろう)


 どうしても信じられない。

 カシスが人を道具のように扱い、時には傷つけるなんて。今のカシスは特に。


「ねえカシス、本当なの?」

「何のこと?」

「本当に、悪事に手を染めているの? 私はカシスの口から聞くまで信じないよ」


 カシスとは信頼関係を築いてきたつもりだ。

 ここにきて明かしてくれた理由が必ずあると思い、真っ直ぐカシスを見つめてそう尋ねて。


「メアリーは俺を信じているんだね」

「そうだよ。カシスはこんな悪事、絶対にしないって」


 私の反応が変わらないのを見て、カシスはふっと笑みをもらす。


「メアリーの言う通りだよ」

「じゃあ……」


 カシスが認めたのを見て安心していると、ブランデーさんが話を遮るように口を開いた。


「そうなのです! カシス様は表向き、奴隷の売買や禁止商品の違法な取引をされていることになっていますが、実際は奴隷たちを孤児院に送ったり養子にするための仲介に入ったり、違法取引のルートを押さえて被害が出ないようにしたり、裏社会の人間が力を持ちすぎないよう牽制したりと裏社会の整備をしている、誰よりも聡明で強く美しい素晴らしいお方で……」

「ブランデー、話しすぎだよ」

「し、失礼しました……!」


 先程までのクールな雰囲気を漂わせていたブランデーさんはどこへやら、今は目をキラキラと輝かせながら熱弁していて、もはやカシスに対して崇拝のレベルに到達していそうな勢いだ。

 カシスに注意されて恥ずかしそうにする姿は、萌えが詰まっていて可愛い。


(なんだか忠犬みたい)


 ついついブランデーさんを見てニコニコしていると、カシスに頬を軽くつねられた。



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