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15.正体①

 カシスの誕生日パーティーが何事もなく終わり、数日後にはカシスとデートもできた私の元に、情報屋から一通の手紙が届いた。


「違法取引の現場を突き止めた⁉︎」


 どうやらあの情報屋はかなり有能だったようで、手紙にはフィズという組織ついて記されていた。


「えっと、次に行われる取引の日は……今から三日後!」


 早速私はカシスに協力を仰ごうとしたが……。


「ごめん、メアリー。その日はどうしても外せない用があるんだ」


 いつも私の誘いは絶対に断らないカシスに、初めて断られてしまう。

 きっとそれほど大切な用なのだろう、無理強いはできない。


「……わかった」

「まさか一人で行くとは言わないよね?」


 思わずギクッとしたが、すぐ笑って誤魔化す。


「そんな危険なところ、さすがに一人で行きたくないよ……あはは」


 もちろんこの機会を逃すわけにはいかない。

 きっとカシスにはすぐバレてしまうだろう。

 しかし行かないとは言っていない。嘘吐きと責められることもないはず。

 私もずる賢くなったものだ。


「うん、だから絶対行かないようにね。助けてあげられないから。悪い男に捕まって、悪いことをされても知らないよ」


 もっと念を押してくると思ったが、この話はそれで終わる。

 絶対に突き止めてやると意気込んだ。



◇◇◇


 三日後。

 私は前回のように男装をして、目的地へと向かう。


(あそこかな……)


 そこは昼でも薄暗い、悪人や乞食などが集う廃れた地帯の一角にあった。


(この家で違法取引が行われている……家の前には見張りが二人か)


 どれだけ警備が厳重なのかがよくわかった。

 体つきのいい、いかにも強そうな男の人たちが門番のように家の前に立ち、警戒体制に入っている。


(これをすり抜けないといけないのか……うーん)


 こういう時、全員を眠らせる特別な能力でもあったらいいのに……と異世界ならではの能力を期待してしまう。

 残念なことにこの世界には魔法といった特殊能力が存在しない。

 もし存在したら最大限活かしたのにと思いながら、タイミングを待つ。

 いっそのこと裏口でも探そうかと思い、立ち上がったその時……近くにあった石に足が当たり、音を立ててしまう。


「誰だっ⁉︎」

「やば……!」


 変に動こうとしたせいでバレてしまい、慌てて逃げる。

 しかし相手は男性で足が速く、あっという間に追いつかれてしまう。


(待って、私かなり絶体絶命じゃ……)


 屈強な男性が剣を振りかざすタイミングで、思わず目をきつく閉じた直後、キインと甲高い音が響く。


「……え」


 足の力が抜けて尻もちをついたが、一向に痛みは襲ってこない。

 代わりに私の目の前には、ローブを被っている男性の姿があった。

 その手には剣が構えられていて、私を助けてくれたのだとわかった。


「なっ、貴方は……!」


 私を狙っていたはずの男たちは慌てて剣をしまい、頭を下げ始めた。


(どういうこと……?)


 状況が読めずにいると、助けてくれた男性が口を開く。


「君たちは今すぐ持ち場に戻れ」

「しかしその者は怪しい動きをしており……」

「彼女は客人だ。丁重に扱うようにとあの方も仰せだ」

「し、失礼いたしました!」


 安心したのも束の間、話を聞く限り彼らは仲間のようで、再び命の危険を感じる。

 そんな私をよそに、ローブ姿の男性が振り返った。


(わあ……すごく綺麗な顔)


 その男性は小説に出てくる主要キャラに負けず劣らず美しい容姿をしていた。

 歳はカシスと同じぐらいだろうか。美青年という言葉がぴったりである。


(いや、それより今の状況をなんとかしないと……!)


 急いで逃げようと思ったが、腰が抜けて立ち上がることすらできない。

 ここで剣を立てられたらもう終わりだ。


「立てますか?」


 しかし男性は剣を戻し、私と目線を合わせるように膝をつく。

 そこに敵意が感じられず、戸惑ってしまった。


「えっと……」


 何度も立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。


「あの……すみません。手を貸していただけませんか?」


 何をしているんだと思われそうで恥ずかしく、諦めて助けを求める。

 しかし相手は戸惑ったかと思うと、なぜか剣の鞘を差し出してきた。


(これを、掴めと……)


 なんだか汚いもの扱いされているようで、少し傷ついてしまう。

 それともシンプルに嫌われているのだろうか。


「すみません、見知らぬ人間に触れられるのなんて嫌ですよね……やっぱり自分で」

「そ、そんなことありません! ただメアリー・ジョゼット伯爵令嬢様に少しでも触れてしまうと、俺の身が危険と言いますか……」

「え……どうして、名前」


 今の私は男装していて、側からみれば正体などわからないはず。

 それこそずっと監視でもしていない限り……。


「もしかして貴方、ジェランダ公爵家の手下ですか⁉︎」


 私に付き纏う相手といえばジェランダ公爵家しか考えられない。

 思わず警戒したが、相手の焦りは増していた。


「ち、違います! 俺はフィズの人間で、今から貴女様にお会いしていただきたい方がいるのです!」


 フィズの、人間……?

 それはそれで戸惑ってしまう。

 だって私はフィズに関しては情報屋に頼んだだけで一切関与していないし、今回が初めてだ。

 それなのにすでに私の存在がバレているということは……裏社会の二つの大きな組織に狙われていたってこと?


(情報屋によるとフィズもやっていることはジェランダ公爵家と何ら変わりない……極悪非道な組織で、かなり危険だったはず……)


 警戒していると、それに気づいた相手の男性がローブを脱ぎ始めた。

 藍色の髪が露わになり、紫の瞳は真っ直ぐ私を捉えていた。

 彼からはどこか高貴さが滲み出ているが、貴族出身者だろうか。

 

「名乗るのが遅くなり申し訳ありません。俺はブランデーと申します。貴女様に決して害はなさないことを約束するので、どうか信じていただけませんか?」


 私に跪いて許しを乞う姿はとても演技には思えない。


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