18.正体④
私とカシスはうまく隠れてブランデーさんとのやり取りを聞く。
「本当にお前がこの組織のトップなのか?」
ブランデーさんと対面するなり、ブラッド様は警戒しながら口を開いた。
「はい、そうです」
ブランデーさんは微笑みながらサラッと嘘を吐き、その姿もどこかカシスと重なる部分があった。
(それにしても……本当に大丈夫なのかな)
ソワソワしながら見守っていると、ブラッド様が突然剣を抜いてさブランデーさんに襲いかかる。
すぐに反応したブランデーさんと剣が交わり、甲高い音が部屋に響いた。
「いきなり襲いかかるのは無礼ではないでしょうか」
さらに剣術はブランデーさんの方が上手だったようで、ブラッド様を押していた。
(カシスがそばに置くだけあって、実力は本物なんだ。強くて格好良いのに、小説に出てこないのが不思議なくらい……うん?)
ここでふと違和感を抱く。
カシスは恐らく小説の続編で、悪役キャラとして登場する。
しかしカシスは一人でフリップ様の行く手を阻むのかと。
(もし小説でもフィズという裏組織が存在して、ジェランダ公爵家が倒れた後に裏社会を牛耳っていたとしたら……)
止まらない妄想劇。
小説の続編でカシスは裏社会のトップに君臨し、右腕が今と同じブランデーさんだとしたら。
それはもうフリップ様にとって最大の敵となるだろう。
(やっぱり続編も読みたかった! まさかブランデーさんも悪役側になるなんて……)
ブランデーさんはブラッド様をいつの間にか力で圧倒していて、彼の首元に剣を突きつけていた。
「それで、ご用件は?」
ブランデーさんの実力を見て安心したのか、ブラッド様は大人しくソファに腰を下ろす。
「そもそもお前たちが俺を誘き出したんだろう」
「ここに来ない選択肢もあったと思いますが、おかしいですね」
ブランデーさんは見かけによらず堂々と発言していて、むしろブラッド様が言葉を詰まらせていた。
「……父上を、止めるために力を貸してほしい」
それは普段のブラッド様の強気な姿からは想像もできないほど、弱々しい声だった。
「止める、とは?」
「父上は……ジェランダ公爵は謀反を起こすつもりだ」
父親呼びをやめたブラッド様からは、覚悟が伝わってくる。
(ジェランダ公爵が謀反を……小説ではもっと先だったのに、やっぱり早まってるんだ)
緊急事態なのが見て取れる。
信頼できる相手かどうかもわからない組織に、一人でのこのことやってきて頼み込むほどブラッド様は追い詰められているのだ。
「このままだと多くの犠牲が出てしまう。そうなる前に早く止めないと……こんなやり方、間違ってる」
「それで我々にどうしろと?」
「ジェランダ公爵は、他国から武器を仕入れている。まずはそのルートを押さえてほしい」
ブラッド様からの依頼は、主にジェランダ公爵の違法な流通ルートを潰してほしいというものだった。
「これ以上ジェランダ公爵が力を持つのは危険だ。だから頼む、力を貸してくれ」
この世界でも悪になりきれなかったブラッド様は、父親が謀反を企てていると知り、反発する道を選んだ。
どうかその手をとってほしいと思い、じっとカシスを見つめる。
「……わかってるよ」
カシスは軽く息を吐いたかと思うと、おもむろに立ち上がった。
「え、カシス……」
「ほら、メアリーも」
さらにカシスは私の手を引き、立たされてしまう。
「なっ……どうしてお前らが⁉︎」
姿を現した私たちを見て驚いたブラッド様は、大きな声を上げた。
「こ、こんにちは……ブラッド様」
「どういうことだ⁉︎ ここはフィズの陣地じゃ……」
「うん、そうだよ。俺がこの組織を作ったんだ」
ブラッド様の驚く反応を見て楽しかったのか、カシスは満足気に笑っている。
「それって……ああ、こいつがトップっていうのは嘘だったってことか」
「騙すような形になってしまい申し訳ありません」
謝罪するブランデーさんを前に、全てを理解したブラッド様は呆れたように鼻で笑う。
「はっ、なるほどな。それであいつは……」
ブラッド様は心を落ち着かせるように息を吐き、再びカシスに目を向けた。
「力を、貸してくれるか」
罵詈雑言を覚悟していたが、意外にもブラッド様はすぐに状況を受け入れ、カシスに協力を要請していた。
「できる限り力になると約束するよ。謀反を起こされて、国が混乱するのは俺も望まないし」
肯定の言葉を聞いたブラッド様は、安心したように息を吐く。
「感謝する。早速詳細について話したいのだが……」
少し前まで二人の間に険悪なムードが流れていたのが嘘のように、二人は今後について真剣に話し合っていた。
その様子をただ黙って見ていたが、良い方向に進んでいるようで安心する。
二人の話し合いが終わる頃にはもう、外はすっかり暗くなっていた。
ブラッド様は先に帰り、私もそろそろ帰ろうと立ち上がる。
「今日はありがとう、カシス」
本当の自分を見せてくれただけではなく、他人に寄り添う姿勢も見られて嬉しかった。
「ありがとう? あんな無謀なことをしておいて」
「うっ……それは本当に、ごめんなさい……けれど、カシスの新たな一面を知れて嬉しかったよ」
どうしてもそれを伝えたくて、素直な想いを言葉にする。
「……はあ」
カシスは盛大にため息を吐いたかと思うと、私の肩に額を乗せてきた。
「か、カシス……?」
「やっぱり君には敵わないなって。俺は君にとことん弱いから」
カシスはそれ以上、私を責めることはなかった。
「協力してくれてありがとう。カシスがいてくれて本当に良かった」
「……あの約束、忘れてない?」
「もちろん! どこに行こうか考えないといけないね」
全てが無事に終われば、平穏な日々が待っている。
そしてカシスと旅行に行き、二人の時間を存分に楽しむのだ。
(今のところ、良い方向に進んでいるはず……!)
そう安心していたのも束の間──
数日後。フリップ様が行方不明になったという知らせが私たちの元に届いたことにより、事態が大きく動き出した。




