13.願い
それから私はカシスと協力して、何度もブラッド様に会っていた。
「ブラッド様、またお会いしましたね」
「お前……」
「ブラッド様、まさかここでもお会いできるなんて!」
「絶対わざとだろ」
「ブラッド様! お元気でしたか?」
「いい加減にしろ!」
めげずにアタックし続けていると、ついに痺れを切らしたブラッド様がキレてしまう。
「そろそろ目的を言ったらどうだ?」
「だからブラッド様と仲良くなりたいと……」
「話すつもりがないならもう俺に関わるな! どいつもこいつもしつこいんだよ!」
順調と言いたいところだったが、これが中々うまくいかない。
ブラッド様に冷たく突き放されてしまい、今回もまた失敗となった。
(けれど、どいつもこいつもってどういう意味だろう……)
ブラッド様の言葉に引っかかるものがあったが、確かめる術もない。
「うう……またダメだった」
「彼は俺たちと仲良くなる気なんてサラサラないようだね」
落ち込む私に対して、カシスは嬉しそうに話している。
「いいや、まだまだこれからだよカシス!」
「きっと無理だよ。メアリー、もう諦めよう?」
「ダーメ、諦めません」
カシスは私の選択に不服そうだったが、渋々ながらもついてきてくれるのを知っている。
「……こんな回りくどいやり方、しなくていいのに」
「何か言った? カシス」
「俺も君の力になれるように頑張るね」
「……ありがとう?」
先程まで不満気だったカシスが突然笑顔を浮かべ、何だか嫌な予感がした。
この時に追求するべきだったと、私は後悔することになる。
◇◇◇
数日後。
最近では私からカシスに会いに行くことが多くなっていたが、この日はカシスが知らせなく家にやってきた。
「カシス……突然どうしたの?」
「実はメアリーにプレゼントがあるんだ」
「プレゼント?」
「うん。俺と一緒に来てくれる?」
誕生日でもないのにどうして……と不思議に思いつつも、大人しくカシスについていく。
「どこに行くの?」
「それは着いてからのお楽しみだよ」
カシスはやけに上機嫌で、私も少し楽しみになった。
しかしそれは最初だけである。
気づけば馬車は王都の外れにある、ひと気のない古びた家の前に停まったからだ。
「ここは……?」
まるで監禁するのに適した場所に思えたが、まさかこんな堂々と私を閉じ込めるとは考えにくい。
一瞬降りるのを躊躇ってしまったが、私はカシスの後についていく。
その家には地下室があり、私とカシスはそこへ向かう。
「この扉の先にあるんだ。喜んでくれるといいな」
カシスはとても嬉しそうに話しているのが余計に怖い。
とりあえずプレゼントの中身を確認しようと思い、恐る恐るドアを開ける。
部屋の中には──
「……へ」
家具ひとつない部屋の中央に、椅子に縛りつけられている黒い髪をした男性の姿があった。
「なっ……ブラッド様⁉︎」
どうやらカシスからのプレゼントというのは、ブラッド様のことだったらしい。
ブラッド様は手足の自由を奪われている上、口元も塞がれていた。
「んん! ん!」
ブラッド様はカシスを鋭く睨みつけて暴れ出すが、きつく縛られているのか全く動けていない。
(待って……状況がイマイチ飲み込めない)
とりあえず整理するためにもカシスに質問しようと思った。
「あの、カシス……プレゼントって?」
「彼のことだよ。いつもメアリーは彼に突き放されていただろう? だから逃げられないようにすれば、ゆっくり話せると思って」
「うーん……うん、ちなみにブラッド様をどうやって連れてきたの?」
「大人しくついてきてくれるとは思わなかったから、攫ってきた」
「な、何してるの⁉︎」
どうしてカシスはにこやかに話せるのだ。
私に喜んでもらえると本気で思っているのか。
(こんなの……私たちが悪役みたいじゃない!)
慌ててブラッド様の元に駆け寄り、ロープを解こうとした。
しかし結び目がかなりキツく、私の力では解けそうにない。
ひとまずブラッド様の口元だけでも自由にしてあげようと思い、その口を塞ぐ布を下にずらす。
「てめえ……俺を攫うとか正気か⁉︎」
解放するなり、ブラッド様はカシスに向けて怒りを露わにした。
「ブラッド様……あの、本当に申し訳ありません。ですが一度、話を聞いていただけませんか?」
「話って何だ? 誤解とでも言うつもりか? こいつは俺を後ろから襲ってきたんだぞ!」
「なっ……そうなのカシス⁉︎」
「気絶させた方が早いかなと思って」
あっさり認めてしまうカシスに、ブラッド様はさらに苛立ちを募らせる。
「はっ、これがお前の本性か! 表ではいい顔をしていながら、実は暴力的なだったなんてな!」
ダメだ、このままでは仲良くなるどころか、より一層嫌悪になってしまう。
「ブラッド様、本当に申し訳ありません! カシスには私から強く言っておきますので……」
「そんな謝罪など聞きたくない。どうせお前があいつに頼んだのだろう」
「ち、違うんです! 本当に私たちはブラッド様と仲良くなりたくて……す、すぐ解きますので! ほらカシス、早くブラッド様を解放して!」
「どうして? 解放したらすぐ逃げるよ」
「だからってこんなやり方は間違ってる! 友人っていうのは、対等な関係で築かないと意味がないの。もしブラッド様の立場に私がいたとして、カシスと私は今のような関係でいられたと思う?」
私の問いに、カシスは首を横に振る。
私に代えて考えたことで、ようやくわかってくれたようだ。
「じゃあどうするべきかわかるよね?」
「……うん」
少し抵抗はあるようだったが、カシスは大人しくブラッド様を解放してくれた。
カシスに殴り掛かったらどうしようと不安になったが、ブラッド様はじっとカシスを睨みつけるだけで何もしなさそうだ。
「お前は俺と仲良くなりたいんだってな?」
「そ、そうです!」
「俺の願いを叶えるっていうんなら、受け入れてやってもいい」
「本当ですか……⁉︎」
「お前、しつこそうだしな」
まさにその通りで否定できない。
ここで突き放されても、まだまだ諦めるつもりはなかった。
「それで願いって何ですか?」
「今、裏社会でフィズという組織が力をつけている」
その名前に心当たりがあった私は、思わずカシスの方を向く。
情報屋から手に入れた中に、フィズという謎組織について聞いていたからだ。
「その組織の正体を突き止めろ。どの家門が裏で糸を引いているのかもな。それができたら友人になってやる」
「正体を突き止めたらどうするつもりなのですか?」
「ジェランダ公爵家にとって邪魔でしかないからな。もちろん潰すつもりだ」
「すでにジェランダ公爵様も探しておられますよね? なのにブラッド様自身も探されるのはどうしてですか?」
深読みかもしれないが、ブラッド様は父親よりも先にフィズの正体を突き止めて、何かするつもりではないかと思った。
それもジェランダ公爵家のためではなく、父親の暴走する悪事を食い止めるために。
「それは……」
ブラッド様は一瞬動揺したが、すぐ持ち直す。
「父上に認めてもらうためだ。俺が次期当主としてふさわしいとな」
嘘だとすぐにわかった。
先程の動揺した姿が、ブラッド様の言葉を否定しているようなものだ。
「わかりました。カシスと協力して調べてみます。ね、カシス!」
「君の命令とあれば」
カシスと情報屋の力を借りて、フィズという組織の正体を突き止めるぞと心に決めた。




