11.作戦
情報屋に依頼してからしばらく時が経ち、調査結果の書類が届いた。
その中身をカシスと一緒に確認する。
「ジェランダ公爵家って想像以上に悪事に手を染めていたんだね……」
違法薬物や奴隷の取引、他国と秘密裏に繋がって武器の仕入れ……裏社会を牛耳っているだけあって、やっていることが犯罪紛いなものばかりだ。
「それに武器の仕入れって……もうあれしかないよね」
現時点で既に謀反への準備を進めているようだ。
カシスやヴィクシム夫妻が生きていることで未来が変わったと思っていたが、相変わらず叛逆の意思は変わっていないらしい。
「かなりの数の私兵も抱えているようだし、注意したほうがいいね」
「違法取引とか武器の仕入れって、現場を取り押さえられたら断罪できないかな」
「ジェランダ公爵はその辺りはかなり慎重にやっているようだから、証拠は残さないよう徹底していると思うよ。それにジェランダ公爵家の後ろ暗い噂に国が黙っているのは、裏社会での影響力以外にも単に証拠がないって可能性もあるんじゃないかな」
「なるほど……」
尚更ブラッド様を取り込まないと、この辺りの解決は難しそうだと悟る。
これで終わりかと思いきや、情報屋の調査結果はまだ続いていた。
「うん? 何これ……二分化?」
記載によると、ジェランダ公爵家が牛耳っているはずの裏社会に、数年前から新たな組織が介入し、年々その勢力が増しているらしい。
裏社会の二分化。つまりジェランダ公爵家の勢力が弱まっていることを指している。
(こんな展開小説にはなかった! 確かに未来は変わったけれど、ヴィクシム公爵夫妻が生きていても裏社会とは関係ないはずなのに!)
ジェランダ公爵家について知れたのは良かったが、新たな悩みの種も増えて頭を抱える。
「何この組織って……フィズ?」
謎の組織はフィズと呼ばれているらしいが、情報屋もその正体に辿り着けなかったようで、背後にどの家門がいるのかわかっていないらしい。
ジェランダ公爵家に楯突くぐらいだから、それなりに力のある家だろう。
しかし全く思いつかない。
「カシス、このフィズっていう組織について何か知らない?」
「さあ……俺も初めて聞いたな。ジェランダ公爵家についてはいくつか知っていたけれど」
「うーん、そうだよね……」
小説にない展開はお手上げ状態だし、カシスも知らないとなれば尚更だ。
「これじゃあジェランダ公爵家について解決できても、謎の組織のこともやっつけなきゃいけないじゃん……」
ジェランダ公爵家の件が片付いても、今度はフィズと呼ばれる組織が裏社会を牛耳ってしまい、その裏で糸を引く家門が脅威となるだろう。
危険な目は早めに摘んでおきたいところ。
「こっちについては引き続き詳細を調べてもらって、まずはジェランダ公爵家をなんとかしないと」
「どうやって?」
「それはまあ私なりに考えがあるのだけれど……」
ブラッド様を取り込もう作戦なんて、カシスが聞いたら笑われそうだ。
(社交シーズンでもない今は、ブラッド様と関わる機会なんてないけれど)
ひとまず私は、成人して二度目の社交シーズンが訪れるのを待つことにした。
◇◇◇
待ちに待った社交シーズンに突入し、お父様も王都にやってきた。
久しぶりの家族での食事は楽しく、お父様の話を聞く限りでは家の立て直しも順調のようだ。
私はというと、すでに何度か招待に応じているが、ブラッド様と会うことはなかった。
どうやらブラッド様が参加するパーティーは、基本的にジェランダ公爵家と懇意な家門が多いらしい。
あとは以前遭遇した仮面舞踏会だったが、できる限りあそこにはもう行きたくない。
そこで私はジェランダ公爵家と繋がりのある家門をリストアップし、それをカシスに見せることにした。
「これは?」
準備ができるなりカシスに会いに行き、中身を確認してもらう。
「この家門の中でカシスに招待状が届いているものはある? できれば直近だと嬉しいの」
公爵家の次期当主であるカシスに届く招待状の数は、私と比べ物にならないほど多い。
そのためジェランダ公爵家と繋がる家門からも招待があるだろうと考えていた。
「この中だと……アンディー侯爵家かな。それがどうしたの?」
「やっぱり……! 実はそれに私も参加したくて……! パートナーとして行っちゃダメ?」
そこに参加すればブラッド様に会う可能性が高いのではと考えていた。
「何が目的なの?」
しかしカシスは納得いかない……というより、どこか不満気だった。
「確かその家はジェランダ公爵家と……いや、他の家門も繋がりのあるところばかり……もしかして、ブラッド・ジェランダに会うため?」
賢いカシスにはすぐバレてしまい、隠すことでもないと思った私は素直に頷いた。
「あの、実は、ブラッド様と仲良くなりたくて……」
こちら側に取り込むためには、まずは歩み寄る必要がある。
今は悪事に目がいってしまうが、根は悪になりきれない悲しい人なのだ。
「……はっ」
カシスにも協力を仰ごうとしたが、その前にカシスの乾いた笑い声が部屋に響く。
カシスを纏う雰囲気が変わり、ドキリとした。
(これは……間違いない。カシスのヤンデレスイッチを押しちゃった気がする)
「カシス、違うよ。今カシスが考えているようなことじゃなくて……とにかく誤解だから」
「どこが誤解なの? 他の男と仲良くなりたくて、俺に仲介を頼んでいるんだよね?」
カシスは私をしっかりと追い詰め、逃げ場をなくされる。
(前までは今のカシスを見て焦っていたはずなのに……こう、少し可愛く見えちゃうのはどうしてだろう)
ヤンデレモードに突入したカシスですら愛おしく思えて、つい抱きしめてしまう。
「……メアリー、誤魔化そうとしても無駄だよ」
まだ怒ってはいたが、私が抱きしめたことで少し落ち着いたのがわかる。
「ふふっ」
「何笑って……」
「私がカシスの気持ちを考えずに今の発言をしたと思う? 何度もカシスを無神経に傷つけてきたのに」
もうカシスを傷付けるつもりはない。
そのため私はしっかり解決策を考えてきていた。
「じゃあどうするつもりなの? 俺は絶対に嫌だよ」
「今回の狙いはブラッド様を私たちの側に引き込むことなの。もし成功すれば謀反も未然に防げて、ジェランダ公爵家の立て直しが叶うかもしれないし……」
「その話と俺の気持ちの何が関係あるの?」
「ここからが本題ね。もしその件が片付いたら少しは落ち着くだろうし、二人で旅行に行こうカシス!」
「旅行……?」
ようやくカシスが私の話に興味を示す。
ポイントはもちろん“二人”である。
「そう、二人で旅行! それこそ、朝起きてから夜眠るまでずっと一緒」
「その間はメアリーと二人きり?」
「うん、二人きり。誰にも邪魔されずに、二人で過ごすの」
徐々にカシスの目が輝いていき、ヤンデレモードが終了する。
「絶対だよ、メアリー」
「もちろん! もし破ったら、私を煮るなり焼くなり好きにしていいよ」
「わかった。それじゃあアンディー侯爵の招待を受けて、君をパートナーとして連れて行くよ」
「ありがとうカシス! 早く解決させて旅行の計画立てようね。たくさんカシスを楽しませるんだから」
「期待しておくよ」
なんだかんだカシスと一日中ずっと一緒に過ごしたこたはない。
すでに今から旅行について考えたくなったが、まずは目先の問題解決である。
「けれど……君を他の男と仲良くするために連れて行くのはやっぱり嫌だなあ」
カシスは嫉妬というより、どこか不安そうに話し始める。
「あ、私だけじゃないよ? カシスもブラッド様と仲良くなってほしいの」
「俺も?」
今の私一人でブラッド様を引き込める自信はない。
ここはカシスの表向きの顔でブラッド様を絆して欲しいところ。
「努力はするけれど……難しいと思うよ」
カシスは消極的だったが、二人の力があれば大丈夫だと信じて、頑張ろうと意気込んだ。




