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10.情報収集②


 情報屋がある場所は、まだ明るい時間帯でも薄暗い裏路地にあった。

 普通の人なら避けて通る道を、歩く日が来るとは思わなかった。


「何の用だ? お前のようなガキが来るような場所じゃねえぞ」


 事前情報のおかげで、すぐ情報屋の男に会うことができた。

 しかし会って早々威圧的な態度をとられ、思わず怯んでしまう。


(うっ、完全に舐められてる……!)


 それでもジェランダ公爵家の実情を知るには、男の協力が必要不可欠だ。


「手に入れて欲しい情報があります」

「お前のようなガキのために俺が働くと思うか?」

「いくら必要ですか?」

「はっ、ガキが用意できる金なんてしれてる。見たところ、良家のガキのようだが、お前を人質に身代金を奪った方が稼げそうだな」

「なっ……」


 裏社会に通じる人間とはいえ、お金さえ積めれば受け入れてくれると思っていたが、甘かったようだ。


「残念だが無事で帰れると思う……な」


 何か良い方法はないかと考えていると、突然男の顔色が変わる。


「……ひっ、も、申し訳ありません!!!」

「……へ」


 そのまま勢いよく土下座され、いったい何が起こったのかわからないでいると、ふと背後から殺気を感じた。


(カシスか!)


 男はどうやらカシスを見て態度を変えたようだ。


(それにしても変わりすぎじゃない?)


 カシスの殺気効果は絶大だったらしい。剣でも抜いて脅したのだろうか。

 不審に思って振り返ったが、カシスは感情の読めない笑みを浮かべるだけだった。


「じゃあ俺は外で待ってるね」

「えっ……」

「もう大丈夫だから」


 ここでカシスに離れられたら、また男の態度が変わるかもしれない。

 不安がる私に続けて声をかけたのは、カシスではなく男だった。


「も、もちろんです! 二度とあの態度は取らないとお約束します!」

「ほらね」

「……うん」


 結局カシスは本当に部屋を後にしてしまい、二人きりにされる。


「本日はどういった情報をご所望でしょうか。いえ、それよりまずはお茶でも……」

「調べていただきたい情報があります」


 一刻も早くその場を去りたい気持ちが大きく、本題に入る。


「ジェランダ公爵家についてです。裏で何をしているのかも、わかる範囲で構いませんので調べていただきたいです」

「ジェランダ公爵家の情報ですね、お任せください!」

「情報料はいくら必要ですか?」

「とんでもない! あれほど無礼を働いたのです、お代をいただくわけにはいけません!」


 一瞬の躊躇いもなくすぐ受け入れてくれた男は、カシスがいなくても相変わらずヘコヘコしている。


「その代わり……先程の方に、私の誠意を伝えていただけませんか」

「誠意……?」

「はい! それはもう協力的で、全身全霊で調べ尽くすと誓ったと!」

「はあ……?」


 何だかとても必死だったが、このままだとカシスに殺されるとでも思っているのか。

 男の言う通りにするのは少し癪だが、確かに重要な情報源が死なれては困るため、カシスに殺さないよう強く言っておこう。


「外までお見送りします!」

「結構です」

「いえ! 送らせてください!」


 何だこいつは……と思ったが、あまりにしつこくて大人しく見送ってもらうことにした。


「……え」

「どうされたのですか?」


 しかし男は、先に扉を開けて外に出るなり、なぜかその場で立ち止まってしまう。

 何があったのかと思い、私も外を覗いた。


「これ、は……?」


 その光景は信じられないもので、状況把握に時間を要す。

 私たちが通ってきたはずの道には、黒ずくめの人たちが血を流して倒れていた。

 その中心には、カシスが血で染まった剣を手にしながら立っている。


(もしかして、カシスが……?)


 どうやら倒れている男たちの息はあるようで、呻き声をあげながらも無理に体を起こそうとする人もいた。


「あっ、メアリー」


 そんな男の動きを制しながら、カシスは私に気づいて無邪気な笑顔を浮かべた。


「終わった?」

「……っ」


 その綺麗な顔は返り血を浴びていて、さすがの私も少し怯んでしまう。


「じゃあ行こうか……あ」


 カシスは私のそばに来て手を差し伸べたが、その手も血で汚れていることに気づき、手袋を外す。


「行こう、メアリー」

「……あり、がとう」


 一瞬躊躇してしまったが、カシスの手を取り、その場を後にする。


「カシス、さっきの人たちは……?」

「気づかなかった? 俺たちが来た時から、あの周辺をうろついていたよ」

「そ、そうなの⁉︎ もしかして、私たちをつけていた……?」

「狙いは俺たちではなく、あの情報屋じゃないかな。まるで見張っているようだったから」

「そっか……よかった」


 またジェランダ公爵家に狙われていたのかと焦ったが、違ったようで安心したのも束の間。


「情報屋の存在がだいぶ割れているようだから、彼の身が危険に晒されているんじゃないかな」

「そんな……!」


 せっかく無事に依頼できたのに、情報屋の男が殺されてしまっては意味がない。


「まあさっきの状況を見て、彼も身を隠すだろうけれど」

「だ、大丈夫かな……いっぱい調べてもらうことがあるのに」

「あんな態度をとられた相手の心配するんだ?」

「貴重な情報源だからね! カシスも殺しちゃダメだよ!」

「君がそう望むなら」


 カシスに釘を刺しておいたし、ひとまず安心だ。

 それにしても、カシスはやっぱり実力があるのだと思い知らされる。

 あの人数に対して一人でやったというのなら、かなりの実力者だろう。


「そういえば、彼らはまだ意識があったようだけれど放っておいてよかったの?」

「ああ、それは上手く処理してくれるから大丈夫だよ」

「処理……あ」


 カシスの話を聞いて、ふと思い出す。

 以前、公爵家の護衛が身を隠して私たちを守ってくれている、と話していた時があった。

 もしかして今回もだろうか。

 あの人たちに襲われそうになったカシスに応戦したのであれば、あの人数に勝てたのも納得できる。

 その護衛とやらが処理もしてくれるのだろう。


「カシスって噂通り強いんだね」

「君を守るためにまだまだ強くならないとね」

「ふふ、もう十分だよ」


 こうして無事に情報を手に入れられそうで、一歩前進となった。


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