7.変化②
「貴女、私の話を無視するつもり? 図が高いわよ!」
「いいえ! シェリー様にお会いできて嬉しいです!」
シェリー様は両親に甘やかされ、わがままな令嬢に育っていた。
一見すると悪役っぽいが、小説でフリップ様に恋をしたシェリー様はメアリーが煩わしくなっても、姑息な真似は一切使わず、今のように正々堂々とぶつかってくる姿はむしろ清々しかった。
まあ辛辣な言葉の数々にメアリーの心は抉られ、中々厳しい場面もあったが、その困難を乗り越えることでメアリーの成長が見られたのだ。
最後には二人の仲を認めたシェリー様は、この世界でフリップ様を幸せにしてくれるのだと思うと、少し偉そうな態度も可愛く見えてきた。
実際歳もフリップ様と同じで、私より年下のため、少し背伸びしているところも可愛い。
私はすぐに膝をついてシェリー様を見上げる。
「なっ……メアリー嬢、今すぐ立ってくれ」
慌てた様子で私に駆け寄るフリップ様も可愛いかった。
(二人とも本当に可愛い……癒されて頬が緩んじゃう)
小説とは違う道を進んでいるが、互いに順調そうで良かった。
「ふん、己の立場は弁えているようね。けれど私は貴女を許しませんわ!」
「え……」
「カシス様を誑かしているのでしょう? 貴女のせいでカシス様が変わったと、フリップ様は嘆いておられましたわ!」
「誑か……⁉︎」
確かにフリップ様には私のせいでカシスが変わったと言われたことがある
その様子を見るに、シェリー様にも相談していたと……つまり、それほど二人の仲は進展している!
実におめでたいことだ。
「違う、シェリー。俺は……」
「私にお任せくださいませ、フリップ様。必ずやこの女とカシス様を別れさせてやりますわ」
すごく悪役っぽい顔をしているシェリー様……これも全てフリップ様のために動いているのだとしたら、不器用だが一途でもある。
「よくって? 貴女なんてカシス様とは不釣り合いよ。身の程知らずで恥ずかしいと思わないのかしら?」
ただ今後のためにもシェリー様とは仲良くなっておきたいところ。
「どうしたらカシスにふさわしい人物になれるのか、ぜひシェリー様にご教授願いたいです!」
「……はい?」
予想外の発言だったようで、シェリー様は目を丸くして固まってしまう。
「シェリー様はとても完璧なご令嬢でフリップ様のお相手にふさわしいです。なのでぜひ! 私にご指導を!」
「なっ……何を言っているの⁉︎ 私は早くカシス様と別れなさいと……」
明らかに動揺していて、これは押したらいけるなと思った。
「シェリー様! 私、シェリー様とぜひとも仲良くなりたいです!」
「はい⁉︎」
シェリー様は私に迫られ、なんと照れ始めてしまう。
これほど言い寄られたことがないのかタジタジだ。
(これはツンデレだ……可愛い)
一人でニコニコしていると、シェリー様に睨みつけられてしまう。
その頬はほんのり赤く染まっており、全く怖くない。
「私は仲良くなるつもりなんてありませんわ! 貴女は今日、カシス様と別れ……」
「これはいったいどういう状況かな?」
シェリー様に被せるように聞こえた声は、あまりに低く冷たい声で、思わずゾッとする。
フリップ様も同じように感じたようで、同じタイミングで開けっ放しだったドアに視線を向けた。
そこには笑顔を浮かべながら私たちを見ているカシスの姿があった。
しかしその笑みに温かみはなく、圧すら感じられる。
(これは明らかに怒っている……それも、尋常じゃないほど)
原因があるとすれば……私がシェリー様に跪いているからだろうか。
私がぞんざいに扱われたと勘違いして怒っているのだとしたら、シェリー様が危ない。
「カシス様! お会いできて嬉しいです!」
しかしシェリー様は全くカシスの異変に気付かず、彼の元へ駆け寄ってしまう。
「シェリー嬢。どうして俺の婚約者が跪いているの?」
「これはですね、身の程知らずな彼女に思い知らせているのですわ。カシス様にふさわしくないと。カシス様も目を覚ましてくださいませ。彼女はカシス様を惑わす悪女なのですわ」
余計なことは言わないで! と叫びたくなるが、逆効果な気がしてグッと黙る。
するとカシスがチラッと私に視線を向け、チャンスと思った私は何度も首を横に振った。
口パクで『ダメ』も連呼すると、カシスは応えるように微笑んでくれる。
(これは肯定ってことでいいんだよね? 信じるよカシス⁉︎)
きっと大丈夫だと信じて、カシスを見守る。
「そっか。シェリー嬢には俺の婚約者を受け入れてもらえないんだね……」
カシスのしおらしい表情を見て、ピンときた。
これは相手の罪悪感を煽って自分の有利な方向に持っていこうとするカシスならではの技!
「メアリーはいつも俺に寄り添ってくれて、辛い時も支えてくれる大切な存在なんだ。だからシェリー嬢もそんなメアリーと仲良くなってくれたら嬉しいと思っていたけれど……」
しゅんと落ち込むカシスを見て、シェリー様は慌てだす。




