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6.変化

 カシスに会いに行く頻度は減らしたが、それでも週に数回は会うようにしていた。


「メアリー、今日もカシス様にお会いするのでしょう?」


 朝の食事の場でお母様にそう尋ねられ、ギクリとする。


「そ、うですが……会いに行く頻度は減らしていますし、カシスにも話しているので大丈夫かと……」

「その件なのだけれど、これからはとやかく言わないことにするわ」

「え……」


 前はあまりよく思っていなさそうだったため、頑張って認めてもらう方法をたくさん考えてきたが、お母様はなぜか肯定的だった。

 突然の変化に戸惑う私に、お母様は教えてくれる。


「実はね、この間キャロルに相談したのよ。貴女がカシス様に会いに行きすぎて迷惑だろうから、頻度を減らすように伝えたって」

「キャロル様は何と……?」

「それがね、迷惑じゃないから今後もたくさん会いに来て欲しいって。貴女のことを実の娘のように思っているらしくて、毎日でも構わないと言っていたのよ。ヴィクシム公爵様も貴女が来て喜んでいるそうよ」

「そ、そうなのですか?」


 どうやら私の存在は公爵夫妻公認で、お母様も認めてくれたようだ。


「珍しくあのキャロルが取り乱していたのよね。結婚前で仲を深めるのも大切だろうから、二人の時間を奪わないであげて欲しいって頼まれたの」

「キャロル様が……」


 なんという救世主だ。

 このままお母様に逆らえなければ、カシスとの時間が減ってしまうところだった。


「あ、けれどカシス様の負担にはならないようにね」

「もちろんです! では今日も行ってきます!」

「全く……本当に元気ね」


 小説では部屋に引きこもりがちなメアリーを心配する悲観的な母親だったが、この世界ではもう子に手を焼く母親の姿になっている。

 そんなお母様に見送られながら、今日も私は元気いっぱいでカシスに会いに行く。


「あれ、カシス?」

「メアリー、来てくれたんだね」


 屋敷に到着したタイミングで、外出しようとしていたカシスと出会した。


「もしかして今からどこか出かけるの?」

「うん、そうなんだ」

「じゃあまた出直すね。明日は……」

「すぐ終わらせて戻ってくるから待っててくれる?」


 カシスは私の手をそっと握り、そうお願いされる。

 そこには離さないという意思をしっかりと感じ取れた。


「す、ぐじゃなくても待ってるから大丈夫だよ」

「ありがとう、メアリー」


 カシスに真っ直ぐ見つめられ、ドキドキしながらも受け入れる。

 その後、私は使用人に部屋へと案内された。


(前も似たような状況があったよね。確かその時に、カシスの裏の顔を知ったんだ)


 それほど前の話ではなかったが、カシスの本性を知った日がかなり昔のように感じられる。

 ある程度時間が経過しているが、カシスと良好な関係を築けている気がする。

 指輪をじっと見つめながら、過去を懐かしんでいた。


 それからしばらく待っていると、突然部屋の外が騒がしくなる。


(カシス、帰ってきたのかな)


 少し期待して立ち上がろうとした時、ノックも無しにドアが勢いよく開いた。


「シェリー、待つんだ!」

「いいえ、待ちませんわ!」


 突然のことに驚いていると、部屋に入って来たのはカールのかかった赤髪に深い紫の瞳をした、少し派手目の令嬢だった。

 私より年下に見えるが、そんな彼女に鋭く睨みつけられる。


「貴女がカシス様の婚約者ね?」

「そ、うですが……」

「今すぐ跪きなさい! 私はティルシア侯爵家の令嬢よ! 貴女は伯爵令嬢でしょう?」

「シェリー! もうやめてくれ!」


 あまりにインパクトの強い登場に頭が真っ白になる中、彼女の後ろからフリップ様が焦った様子で現れた。


 あと一年ほどで成人を迎えるフリップ様は、麗しい男性に成長中だった。

 特にカシスの裏を知ってから今日までの短期間で、すごく雰囲気が変わった気がする。

 どこかクールでそっけない、小説とほぼ変わらない姿だったが、今の焦っている様子はまだまだ子供っぽくて初々しい。


(けれどこのご令嬢はいったい……それに、この赤髪に紫の瞳はどこか覚えが……)


「ああ⁉︎」


 その正体をようやく思い出し、大きな声を上げてしまう。


(シェリー・ティルシア侯爵令嬢は、小説でメアリーのライバルキャラとして出てきたんだ! フリップ様に惚れた彼女は、婚約者の座を狙っていた……けれど! そんなシェリー様こそ今のフリップ様の婚約者!)


 この高飛車な姿、まさに小説でもこんな感じだった。

 そんなシェリー様がこの世界ではフリップ様を幸せにしてくれる相手である。

 フリップ様の婚約者として名前を聞いた時はピンと来なかったが、姿を見てようやく思い出せた。



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