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3.不安①

 翌日も私はカシスに会いにきていた。


「カシス! 今日は本を持ってきたよ!」

「何の本?」

「女性の間で流行っているロマンス小説! です!」


 今では貴族の令嬢たちも嗜むほど人気を博しているロマンス小説。

 まだまだ政略結婚が根強いこの国で、男女の恋愛というものに憧れを抱く人が多いのも人気の一つになっている。

 ロマンス小説が流行るたび、恋愛結婚だと思われている私とカシスへの羨望の眼差しや、馴れ初めがより一層ロマンチックに伝わってしまい、それはそれで恥ずかしかったり。


「今日はこれを読んで感想を教えてください。テーマは愛と命の大切さについて!」


 これは互いに想い合う身分違いの二人を引き裂こうとする敵に命を狙われ、ヒーローが亡くなってしまうという悲しい展開だ。

 愛と命の重みを少しでもカシスに伝わったらと思い用意した。

 ちなみに私は号泣してしまい、ラストは辛くて二度と読み返したくない。


「……どうして彼らは逃げるだけなんだろうね」


 全てを読み終えたカシスはボソッと呟いた。


「え?」

「逃げるだけでは何も解決しないのに。本当に二人は一緒になりたいと思っているの?」

「あの……カシス?」

「挙げ句の果てに男の方は殺されて……滑稽だね。ほら、この場面だとこうしたら……」


 うん、全然伝わっていない。

 それどころか疑問点を挙げ、冷静に分析し、解決策すら出してきた。


「ちっがーう!」

「メアリー?」

「愛や命の大切さについて学んで欲しいのに、むしろ敵の命を奪おうとしてどうするのさ⁉︎」


 カシスは真剣なのはわかっているが、それでも突っ込まずにはいられない。


「メアリーはこんな男が好きなの?」

「私が好きなのはカシスみたいな人! ただ私はカシスに命の尊さを学んで欲しくて用意したのに……」

「メアリー、今……もう一回言って?」

「だから私はカシスのために……」

「違うよ、その前」


 なにやらカシスの様子がおかしいが、変なことは言っていないはずだ。


「その前……?」

「メアリーが好きなのは、俺みたいな人だって……」


 そういえば、思わず口走ってしまった気がする。

 完璧で非の打ち所がなく、誰に対しても優しく柔らかな雰囲気を纏う一方で、どこか危険な一面がある……認める。そんなカシスが好みのど真ん中だと。

 ただそれは好みであって、私はそのままカシスに闇堕ちして欲しくない。


「カシスだから好きなんだよ」

「君は本当に無意識に俺を喜ばせてくれるね」


 その笑顔を必ずや守りたい。

 そのために私は頑張るのだ。


「カシス、今日は……」

「カシス! 今回は違うやり方で攻めてみようと思います!」

「カシス、昨日の宿題はやってる?」


 その後も毎日のように足を運んでは、カシスに授業をする日々を送っていた。

 あまり効果は感じられなかったが、私と過ごす時間そのものにカシスは喜んでくれているようで、意味がないわけではないと信じたい。


「メアリー、またカシス様のところへ行くの?」


 その日もいつものようにカシスの家に行こうとしていると、お母様に呼び止められてしまう。


「はい、そうです」

「最近毎日行っているでしょう? カシス様は今、当主になるための経験を積んでいて大変でしょうし、負担になっているのではないかしら」

「え……」


 お母様は心配そうにしていた。

 確かにカシスは私が行く度に必ず屋敷にいて、私を出迎えてくれる。

 もし当主の仕事をそっちのけで……いや、カシスに限ってそれはないだろう。

 考えられるとしたら、睡眠を減らすなりして無理矢理時間を作っているに違いない。


「私、カシスにとんだ無理を……!」


 ただでさえヴィクシム公爵家の使用人はカシスの心配をしているのに……私はまた無茶をさせてしまった。


「自覚がなかったのね。もう少しカシス様を気遣ってあげなさい」

「わかりました……行くのは明日にします」

「それだと意味ない気がするのだけれど」

「二日に一回じゃダメですか?」

「貴女……カシス様が倒れてもいいの?」

「それは嫌です! 来週以降に、します……」


 さすがに毎日はやりすぎたかもしれない。

 とはいえあまり時間間隔を空けては、今までの努力が水の泡になってしまう。

 せめて週に一度は行きたいところだが、今度行った時にカシスに相談しようと思った。


(なんだか……暇だなあ)


 毎日のようにカシスの授業内容を考え、カシスに会うという忙しなくも充実した日々を送っていたため、数日経っただけで暇に感じてしまう。


(時間が長く感じる……カシスと毎日会っていたからか、何ヶ月も会えていない気持ちになって少し寂しい、なんて)


 あの柔らかな笑顔が懐かしく思えてきた。


(けれど無理はしてほしくない……ここは私が我慢するしかないのか)


 カシスのことを考えれば考えるほど恋しくなったが、気を紛らわせようとカシスにする授業の見直しをしたり、新たな内容を考えてみる。

 しかし余計にカシスの反応を想像していると会いたくなってしまった。


(なんか私、いつのまにかカシスのことばかり考えてない……?)


 気づけばカシスのことで頭がいっぱいになっていた。

 このままでは会いに行きたい気持ちが募る一方のため、他のことを考える。


(今はカシスに命の大切さを教えているけれど、それだけでは王太子殿下にカシスは安全だと証明できない。何か行動を起こす必要がある)


 そう、殿下はカシスの存在が国のためになることの証明を求めている。

 これについては私なりの考えがあったが、まずはカシスの感情育成を優先していた。


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