2.授業②
ずっと立ちっぱなしだった私は、休憩がてらカシスの隣に座った。
「メアリー、どうして眼鏡なんてかけているの? 視力は悪くないのに」
「これ? これはね、実は度が入っていないの」
「……?」
尚更かけている理由がわからない、と言いたげな表情をするカシスに、少し恥ずかしくなる。
「ほら、眼鏡をかけたら少しは先生っぽく見えない? 賢くなった感じがして」
賢く見せるために眼鏡をかける……なんて、カシスに笑われてしまいそうだ。
カシスの反応を見る前に、私は眼鏡を外す。
「ほら、カシスがつけてみて」
カシスにつけてみると、それはもうインテリイケメンの完成だ。
眼鏡をかけると秀才感が増し、これはこれでありである。
「うん、すっごく似合ってるねカシス!」
眼鏡を嫌がらずにかけてくれたカシスをじっと見つめる。
眼鏡姿のカシスを見て、ふと前世で抱いた乙女心が蘇った。
(眼鏡にイケメンといえば……主従関係ラブの王道とも言えるアレを! カシスにしてもらえるのでは……⁉︎)
私の言うことは基本的に聞いてくれるカシス様に一度お願いしてみようか。
「そうかな。メアリーの方が大人びた印象で似合っていたと思うけれど……って、今度は何を企んでいるの?」
「ねえカシス、一度執事の格好をしてみない?」
「え?」
「叶えてみたい夢だったの! イケメン執事に尽くされるお嬢様っていう、少女漫画のような展開が! 主従関係ってすごく萌えない⁉︎」
前世で人気だった執事との恋愛漫画は、私の乙女心をくすぐったものだ。
ぜひとも目の前のカシスに演じてもらいたい。
カシスの柔らかな雰囲気で敬語を使われる、それだけでもう色々と美味しい。
さらにカシスは意外と積極的だから、堅いと見せかけて……とギャップも兼ねそろえている。
「メアリー、俺に遠慮がなくなってるね」
「カシスに心を許してるの! それとも……ダメ?」
ヒロインたるもの、上目遣いの一つや二つなど朝飯前だ。
カシスは一瞬目を丸くしたかと思うと、すぐに微笑んでくれる。
(よし、これは肯定の方向で……あれ?)
けれどなぜかカシスは眼鏡を外してしまう。
「カシス、どうして外しちゃうの?」
「邪魔かなあと思って」
「邪魔?」
そのまま眼鏡をテーブルに置いたかと思うと、カシスは私の頬に軽く口付けした。
「ほら、こうする時に眼鏡が当たる気がして」
「なっ……そ、それより私のお願いはどうなったの⁉︎」
「今日はダメだよ」
「どうして!」
「君が言ったんだよ? 今日は君の時間を俺にくれるって」
確かに言ったことを今更思い出す。
カシスはテストで一問も間違えなかったため、今日は私が諦めるしかなさそうだ。
そのテストとやらも模範解答とほぼ同じだったが。
私の肩を抱き寄せながら、カシスのキスが始まる。
「遠慮がなくなっているのは、カシスもだと思うけれど……」
「お互い様だね」
誓いを交わしてから、カシスの甘さもしっかり増加している。
カシスは慣れた手つきで私の顎を軽く持ち上げ、躊躇いなく唇を重ねてきた。
(キスも大胆になったんだよね……)
まだまだ慣れない私はすぐ鼓動が速まり、顔が熱くなる。
「……ん」
いつもと違うと気づいたのは、もう一度唇を重ねられた時だ。
それは止むどころか徐々に深くなっていき、さすがに息が苦しくなった私はカシスの名前を呼ぼうとしたが、その隙すら与えてくれない。
カシスの胸元を軽く押したが、全く動かなかった。
(待って、これやばい……)
唇が離れたタイミングで息を求める。
「待って、カシ……ふっ」
カシスは私と指を絡ませるように手を握り、キスされたかと思うと……息を求めた時に開いたわずかな隙間から、いつもと違う感触がして思わず過剰に反応する。
「……っ、ひゃ⁉︎」
咄嗟にカシスの胸元を押しのける。
思ったより力が入ったようで、異変に気づいたカシスはすぐ離れてくれた。
(待っ……今、カシスは何をしようとした⁉︎)
自分の口元を指で触れながら、じっとカシスを見つめる。
カシスは目を丸くしていたかと思うと、ふっと柔らかく微笑んだ。
「どうしたの、そんな顔して」
「ど、どうしたも何も……!」
言葉で説明しようにも、恥ずかしくてできそうにない。
「スキンシップが激しい! 気がする!」
「……嫌?」
「嫌じゃないけれど……少し、早いっていうか……まだ結婚前だし過剰な触れ合いは……」
「異国のやり方では、俺たち結婚してるのに?」
「そ、れは……まだ正式じゃないし……」
カシスの攻めが日に日に増している。
嫌ではないため、どう回避するかに困ってしまう。
ただ、もう少しペースを落として欲しいというか……慣れるまで時間が必要だ。
「まだ時間はたくさんあるから、ゆっくりいこう?」
このままだと私の心臓が持ちそうにない。
「……君がそう望むなら」
カシスは残念そうにしていたが、あのまま放っておくと結婚前に最後まで流されてしまいそうだ。
「あの、嫌ではないんだよ?」
「うん、わかってるよ」
カシスはそう言って私を抱きしめる。
優しい触れ方は、明らかに意識されたものだ。
それでも先程のキスを思い出してしまい、恥ずかしくてカシスの胸元に顔をうずめた。




