18.危険な排除②
「も、申し訳あり……」
「メアリー、こんなところにいたんだね」
私がカシスに余計なことを言ったばかりに、彼女たちを危険な目に遭わせたのは事実で謝ろうとした時、カシスがいつもの調子で現れた。
「ああ、カシス様……!」
「実は私たち、カシス様にお伝えしたいことがありましたの」
(や、やばい……彼女たちを早く逃してあげないと!)
何も知らない彼女たちはカシスに近寄り、私を指差して己の身に起こった不幸を話し始める。
「お二人の関係が気になって尋ねただけでしたのに……メアリー嬢は嫉妬で周りが見えなくなってしまい……」
「実は私たち、メアリー嬢に……」
「ああ、君たちがメアリーに心労をかけさせた令嬢たちだったね」
カシスは先程の私の名前を呼んだ時とは違い、冷たい声でそう言った。
「カシス、様……?」
「またメアリーに詰め寄っているの? 学習しないなあ」
今のカシスを見てもう手遅れだと思った。
カシスは美しい笑みを浮かべながら、そっと一人の令嬢の耳元で何かを囁く。
途端に令嬢の顔色は悪くなり、「ひっ……⁉︎」と腰が抜けていた。
「また、同じ目に遭いたい? 二回目となると、前回のようには済まないと思うけれど」
カシスの裏が露わになり、令嬢たちは怯えた様子で逃げるようにその場を後にする。
「遅くなってごめんね、メアリー。怖かっただろう?」
「助けてくれて、ありがとう……けれど、良かったの?」
「何のこと?」
「その、今まで隠してきた顔が……」
身内すら騙すほど徹底的に隠してきたのに、これほど簡単に明かしていいのかと。
「ああ、別に構わないよ。彼女たちは周囲に話さないだろうし」
その自信からして……相当の恐怖心を植え付けているのだろう。
脅しも入っているかもしれない。
「カシス、あまり危険な真似はしないでね。確かに詰め寄られたけれど、それ以上は何もされていないし……簡単に人を傷つけたらダメ」
「どうして? 彼女たちがいれば、きっと俺たちの関係が公になっていただろうし、嫉妬が募って君がより危険な目に遭っていたかもしれない」
「確かにその可能性もあったかもしれないけれど……カシスと一緒に回避する方法を探して、上手くいく可能性もあったかもしれないでしょう? 人を傷つけるんじゃなくて、上手く躱す方法を探せばいいんだよ。私と一緒に!」
あくまで私と一緒であることを強調する。
「それに、カシスもわかっているでしょ? 力で押さえつけるより、相手の心を掴むべきだってこと」
カシスの外面がいいせいで、私と王太子殿下はどれほど苦労し、敵わないと思ったことか。
「こういう時のために、俺は周りに甘い顔をしているんだけどなあ」
ダメだ、全くカシスの心に響いていない。
納得のいかない顔をしていて、本気で相手を傷つけることに対して何とも思っていないようだ。
「私じゃ力にならないから嫌?」
「嫌ではないけれど……君に余計な負担をかけさせたくない」
「負担じゃないよ。カシスと一緒だと心強いし、目的を達成した時にはなんだか絆が深まるように思わない?」
ここはストレートに言ったほうがいいかもしれないと思った私は、カシスを真っ直ぐ見つめる。
「ねえカシス。これからはもう、人を傷つけたりしないって約束してほしいの」
「……君は俺を止めるために、最近は逃げずに大人しかったんだね」
「え……?」
しかしカシスの声が冷たくなり、いつもと様子が変わる。
「ああ、前に王太子殿下に会った時、俺を止めろって頼まれたの? 褒賞を与えるって?」
「カシス、落ち着いて……」
「欲しいものなら俺が何でも与えてあげるのに。殿下を優先したんだね」
「違っ……」
「少し考えたらわかることなのに、また俺は勝手に勘違いしていたのか」
今のカシスに私の言葉は届いていない。
(私が逃げなくなったのは、カシスと向き合おうと決めたからで、殿下と話す前からだった。カシスもわかっているはずなのに……)
カシスの目に光が消え、私を見下ろす。
「いいよ、好きなだけ俺を止めようとして。その間は俺のそばにいるってことだよね? それなら俺が変わらない限り、君はずっと俺から離れないってことだから」
それだと何も変わらない。
カシスは殿下に危険だと思われ、命を狙われてしまうだろう。
しかし最後まで立っているのは、きっと殿下ではなくカシスだ。
その時、この国には多くの血が流れているかもしれない。
「たとえ君が俺に対する特別な感情なんてなくても、単なる正義感で俺のそばにいようとも、君に対する気持ちが冷めることなんてないし、一生そばにいる方法を探し続けるからね。絶対に離してなんかあげないよ」
「……っ、カシス」
「ほら、早く中に戻ろう? 哀れな君も、愛おしくてたまらないよ」
カシスは私の話を聞こうとせず、私を連れて会場内に戻る。
私の話に耳を傾けることすら嫌がっているようにも見えた。
(また私は間違えてしまったの……?)
こんなはずではなかったのだが、焦りが先行して無理にカシスを止めようとしすぎたかもしれない。
不安が募る中、私は大人しくカシスの後ろについていくしかなかった。




