17.危険な排除①
毎年、社交シーズンを締め括る舞踏会が王宮で行われる。
デビュタントを終えた私もようやく参加することができ、パートナーはもちろんカシスだ。
「今日も綺麗だね、メアリー。誰にも君を見せたくないよ」
カシスが家まで迎えに来てくれ、一緒に王宮へと向かう。
「きっとみんなの視線はカシスに集中するから大丈夫だと思うよ?」
美青年という言葉がぴったりのカシスは、圧倒的な存在感を放っていた。
小説ではヒロインであるはずの私が霞んでしまうほどだ。
(この美しい顔……! 綺麗という表現は絶対に私よりカシスに使うべき!)
カシスの横顔をずっと見ていられそうだ。
これは誰でも惹きつけられてしまうだろう。
「それほど見つめられると少し恥ずかしいな」
「嘘だ、絶対に慣れているでしょう」
「君からの視線は慣れないよ。最近は目が合うことの方が珍しかったから」
カシスは時折、私が避けていたことを話題に出してくる。
その度に罪悪感に苛まれ、何も言えなくなってしまう。
この手の話題が出る限り、まだ信頼回復に至っていないことを指しているだろう。
(王太子殿下にカシスの安全を証明しないといけないのに……! それ以前の問題な気がする)
何かいい方法はないだろうかと思った時、ふとカシスの耳飾りに視線がいく。
(あれから耳飾りは毎日つけるようにしているけれど……あっ、そうだ!)
その時、私は良い方法が閃いた。
これなら信頼回復にグッと近づく気がする。
「ねえカシス」
「うん?」
「今度、カシスと一緒に行きたいところがあるの」
「俺と行きたいところ?」
「そう! 一緒に行ってくれる?」
「君のためなら喜んで」
そうと決まれば即実行。
カシスと約束を取り付け、その日までに色々と準備を進めないといけない。
今日の舞踏会が終わったら、今年の社交シーズンが幕を閉じる。
まさに今がいいタイミングかもしれないと思いながら、私は会場入りした。
◇◇◇
王宮で行われる舞踏会なだけあって規模が大きく、たくさんの貴族が集まっていた。
「これはこれは、カシス様ではありませんか」
「彼女が噂のご令嬢ですかね」
「とてもお似合いでいらっしゃる」
会場に着くなり、私たちは息吐く間もなく多くの人たちに話しかけられていた。
(すごい……次期当主のカシスと繋がりを持ちたいという意思が伝わってくる……!)
声をかけてくる人の大半が、カシスと関わりを持ちたい者と、婚約者である私を見たいという好奇心で占めている気がする。
ほとんど話していない私ですら疲れてきたのに、カシスは依然として笑顔を崩さず、楽しそうに話している。
(さすがはカシスだな……せっかくだし、何か飲み物でも取ってこよう)
タイミングを見計らい、私はカシスに一声かけて飲み物を取りに行く。
カシスはすぐまた別の人に話しかけられていて、貴族との付き合いも大変だなと思った。
(飲み物は……あそこだ)
広い会場を見渡し、目的の場所へ足を進めようとした時。
「ねえ、貴女がメアリー・ジョゼット嬢ね?」
「……え」
すっかり油断していた私は、突然誰かに話しかけられる。
視線を向けると、そこには私に対して敵意剥き出しの三人の令嬢がいた。
(彼女たちは幼少期のお茶会で有名だった、身分を笠に着て傲慢だった面倒な令嬢たち……!)
忘れもしない。
彼女たちにカシスとの関係について問い詰められた時、嫉妬剥き出しだった恐ろしさを。
(もしかして呼び出し……⁉︎)
案の定、令嬢たちにひと気のないバルコニーへと連れて行かれる。
「あの、私に何かご用でしょうか……」
「貴女でしょう⁉︎ 私たちを危険な目に遭わせたのは!」
「……はい?」
「しらばっくれないでちょうだい! 全部知っているのだから! 家に圧力をかけてきたり、突然攫われたり……! 貴女にカシス様の話をしてから起こったものよ!」
何の話をしているのかわからなかったが、彼女たちがお茶会等の集まりに参加しなくなり、突然姿を消したことを思い出した。
(待って……確か当時、カシスに私たちの関係をしつこく問い詰めてきた令嬢たちの名前を聞かれて……教えた日を境に彼女たちを見なくなったのだ)
そこまで気づけばもう、誰の仕業かなど考えなくてもわかった。
「そのせいで私たちがどれだけ苦労したか知っているの⁉︎」
しかし彼女たちはカシスの仕業だと思わなかってのだろう、疑いの目を私に向けていた。
彼女たちより爵位が低い私の家に、そのような力はないというのに。




