14.深い闇①
「ほ、本当に私で間違いないのですか……?」
「ええ、そうよ。ほら、ここに」
ある日、王室の紋章が入った招待状が家に届いた。
その宛名がお母様ではなく、なんと私だった。
驚いた様子のお母様から招待状を受け取り、中身を確認すると……なんと王妃陛下からの招待だった。
(どうして……⁉︎ 王妃陛下とまともに話したことないのに)
王妃陛下は何度かパーティーで拝見し、形式的な挨拶を交わした程度だ。
私の存在すら覚えていないだろうと思っていたのに……どういうことだろうか。
「しかも貴女これ、個人的なお誘いじゃない? 王妃陛下と何かあったの?」
「な、何も知りません……!」
そう。これは王妃陛下主催のパーティーに招待等ではなく、個人的に会いたいという内容だった。
不安の中、『会えるのを楽しみにしている』という一文を信じて王妃陛下と会うことになった。
◇◇◇
招待を受けてから当日になるまで、生きた心地がしなかった。
王妃陛下の宮殿へと案内され、ついに対面する。
「貴女がメアリー嬢ね。待っていたわ」
王妃陛下はとても気品溢れる美しい方で、目を合わせるだけでも緊張してしまう。
「どうぞ座って。突然私に呼ばれて驚いたでしょう?」
「お気遣い、感謝いたします……」
王妃陛下はニコニコと笑いながら、私に座るよう促した。
テーブルにはお菓子や飲み物が用意されていたが、とても喉を通りそうにない。
「緊張しなくて大丈夫よ。私が貴女を呼んだのは、単なる口実に過ぎないから」
「口実、ですか?」
「実は私の息子に頼まれてね、貴女と二人で話したいって。けれど婚約者のいる貴女を呼んで、堂々と二人で会うなんて外聞が悪いでしょう? だから私が貴女を呼んだのよ。もうすぐ来るだろうから、それまで私とお話しましょう」
つまり、王太子殿下が私に会いたがっている……?
「あの、どうして王太子殿下は……私と話したいのでしょうか」
「それは私にもわからないわ。ただ、とても真剣な顔でお願いされたから……きっと大切な話でしょうね」
王太子殿下とはカシスと一緒の時に何度か挨拶した程度だ。
まともに言葉を交わしたのは、デビュタントの時ぐらいである。
そんな私と、何を話したいのだろうか。
「それほど気負わなくて大丈夫よ。貴女を罰したりするわけじゃないんだから。それより私は貴女とカシスの話を聞きたいわ」
「カシス、ですか?」
「そう! 社交界では、両片想いの二人がようやく結ばれて、幸せに包まれていると言われているけれど……本当?」
カシスと私の噂は止まることなく、今も誇張されて広まり続けている。
「カシスは幼い頃から見てきたから、まるで自分の息子のように思っているけれど……人を惹きつける魅力を持つ、あのカシスを射止めた貴女が気になっていたの。恋愛とか女性に興味がないと思っていたけれど……ずっと貴女を想っていたのね」
「そう、なんですね……」
「カシスって誰にでも優しすぎるじゃない? だからいつか悪い女性に騙されるんじゃないかって心配していたけれど……そんなことなかったわね」
(うっ、王妃陛下もしっかりとカシスの外面に騙されている……!)
カシスを気に入っているのが見て取れる話し方、表情に、さすがはカシスだなと思った。
大人すらも騙し、魅了するのだ。
それから王妃陛下の質問攻めに会い、王太子殿下が部屋に来るまでそれは続いた。
「母上、メアリー嬢、遅くなって申し訳ありません」
殿下が部屋にやって来るなり、王妃陛下はすぐ立ち上がった。
「では私はこれで失礼するわね。ごゆっくり。貴女たちが二人で会っていることは外に漏れないよう注意を払っているから安心してちょうだい」
「ありがとうございます、母上」
「息子のお願いだもの、これぐらい当然よ」
そう言って王妃陛下は部屋を後にし、殿下と二人きりになる。
「今日は呼び出してすまない。突然母上から招待があって驚いただろう」
「いえ、ご招待いただき光栄でした」
「こうでもしないと君と二人で話せないと思ってな」
「それは、やはり私と話がしたいということでしょうか……?」
「ああ、そうだ。今日はカシスについて、君と話しておきたくてな」
カシスについて……?
殿下はやけに真剣な顔つきをしていて、私は姿勢を正す。
「まずは……その、デビュタントの時はすまなかった。俺が余計なことを尋ねたせいで、君を危険に晒してしまっただろう」
「危険……ですか」
「ああ。正直、君が無事で心から安心したよ」
そういえば、とでヒュタントの時を思い出す。
私がカシスと婚約しないと言い切った時、殿下は慌てた様子で逃げるようにその場を後にしていた。
(もしかして殿下は……)
ある一つの可能性が浮かび、殿下をまっすぐ見つめる。
「君はあの一件でカシスの本性を見ることになったんだろう? あの時、俺が何も言わなければ……君はカシスの裏の顔を見れずに済んだかもしれないのに」
「殿下は……カシスの、本当の姿を知っていらっしゃるのですか?」
恐る恐る尋ねると、殿下は小さく頷いた。
まさかカシスの裏の顔を知る人物が、私以外にもいたなんて驚いた。




