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8.仮面舞踏会①

 監禁未遂から数日後。

 このままでは本当に命の危機に晒されてしまうと恐れた私は、新たな作戦を考えていた。

 今回は私の声がカシスに届き、なんとか監禁を回避できたが、毎回同じようにいくとは限らない。

 もしカシスが暴走してしまえば、私の手に負えなくなるだろう。


(カシスに嫌われるのもダメ、相手探しもダメ……こうなったら残る手段は一つだけだ)


 それは私の評判を地に落とし、カシスと一緒にいられない状況を作るのだ。

 私がカシスに相応しくないことが広まれば、きっと周囲がこの婚約に反対するはず。


(私は悪女になるんだ!)


 そうと決まれば即実行。

 私は以前、令嬢たちから聞いたとある噂──仮面舞踏会について調べることにした。


 仮面舞踏会はその名の通り、身分素性を隠して行われるのだが、表立って開催はしていない。

 なぜなら舞踏会とは名ばかりで、実際には男女の蜜事が行われているらしい。


 調べた結果、仮面舞踏会は実際に開催されていることが判明した。

 これを利用しない手はない。

 私の作戦はこうだ。

 仮面舞踏会に参加し、誤って仮面を落としてしまう。

 そうすることで、『メアリー・ジョゼット伯爵令嬢が仮面舞踏会に参加し、男遊びをしている』と噂が広まり……カシスに相応しくないと周囲からの反対を受け、婚約破棄となるのだ。


「メアリー様、こちらが招待状です」

「ライラ、ありがとう!」


 変に私が動いてはカシスに勘づかれるかもしれないと思い、ライラに頼んで仮面舞踏会への招待状を手に入れてもらった。

 もちろんライラにも変装してもらったため、簡単にはバレないだろう。


「いかにも怪しそうなお相手でしたが……本当に大丈夫なのですか?」


 仮面舞踏会の招待状は特殊な方法でしか手に入らず、とある酒場の店主に十分な金銭と合言葉を伝えるともらえるのだ。

 この情報を手に入れるのに苦労したものだ。


「うん、大丈夫だよ。だってカシスと参加するから」

「それならいいのですが……」


 カシスの名前を出せば、ライラはすぐに納得してくれる。

 こうして私は仮面の調達も無事に終え、当日を迎えた。


(耳飾りはカシスのじゃなくて違うものをつけよう)


 他の殿方からもらった耳飾りをつけている風に演じることで、より一層男遊びが激しい令嬢と勘違いされるはずだ。


(カシス……約束を破ってごめんなさい!)


 心の中で何度も謝り、私はカシスからもらった耳飾りを外す。

 いつもより露出の高いドレスを着て、馬車に乗り込んだ。

 ちなみに両親にもカシスと友人主催のパーティーに参加すると嘘を吐いた。

 カシスの名前を利用するのは申し訳なかったが、カシスの名前を出せば誰にも疑われない。さすがはカシス様である。


 屋敷を出て仮面舞踏会が行われる場所へと向かう中、用意していた仮面をつける。

 作戦は順調だ。カシスにも恐らくバレていない。

 もしバレていたら、すぐ阻止してくるだろうから。


「少し緊張するな……」


 蜜事が行われているということで、一歩間違えればそれに巻き込まれてしまうかもしれない。

 早々に正体バレして退散しないと、と心に決める。

 ようやく会場に着くと、外には仮面をつけた黒服の男が立っていた。


「ようこそお越しくださいました。招待状はお持ちでしょうか?」

「ええ、ここに……」


 いかにも怪しげな雰囲気の男性を前に緊張してしまう。

 そういえば、この舞踏会の主催者は誰なのかとふと気になった。


「おや、後ろの男性はお連れの方でしょうか?」

「……え」


 後ろ? と思い振り返ろうとした時、背後から声が聞こえてきた。


「はい、そうです」

「……っ⁉︎」


 聞き慣れた柔らかな声音に、全身から血の気が引いていく。


(ど、して……か、カシスが……⁉︎)


 まるで壊れたロボットのようにぎこちない動きで振り返る。

 そこに立っていたのは──


「……え」


 栗色の髪をした男性の姿があった。

 もちろん仮面をつけているため、正体はわからないが、銀色ではない髪に期待を抱く。


(もしかしてカシスじゃない……? 耳飾りも……つけていない)


 カシスはいつも私と色違いの耳飾りをつけているため、声が似ているだけの別人ではないかと思った。

 不安要素があるとすれば、仮面から見えている瞳が碧色で、身長や体格もカシスに似ている……という部分だったが、気にしなでおこう。


「今回の舞踏会には初めて参加されるのですか?」


(声がもうカシスなんだよあ……けれど、カシスだとしたらすぐに私を連れて帰るだろうし……)


 まじまじと見つめたが、カシスだと断定できずにいた。


「いえ、もう何度も参加していますわ」


 正体バレした時のために、私はあえて慣れている風に話す。


「そうでしか。少し緊張されているようにお見受けしたのですが、間違いだったようですね」

「ええ、そうですね……慣れていますので」

「慣れていらっしゃるとは、軽い人なのですね」


 作戦通り、男好きな令嬢を演じられている気がする。


「こうしてお会いできたのも何かの縁ですので、エスコートしてもよろしいでしょうか?」

「それは……」


 なるべく男性との接触は最低限に抑えたいところ。

 断る理由を考えていると、突然相手の手が私の耳飾りに触れた。


「嘘吐きなレディー。今度はどのような嘘を吐くつもりでしょうか?」


 相手は私の耳元に顔を近づけ、そっと囁かれる。

 あまりに冷たい声にゾッとした。


(カシスだ……やっぱりカシスだ!)


 嘘吐きというのは、毎日耳飾りをつけるという約束を破ったことに対しての言葉だろう。

 今回こそ大丈夫だと思っていたのに、まさかこのタイミングでバレるだなんて。

 明らかに怒っているのがひしひしと伝わってくる。



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