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7.監禁未遂③

「ねえ、カシス……カシスが助けてくれたのに、どうして私はこんなところにいるの?」


 恐る恐る尋ねると、カシスは小さく微笑んだ。


「君は変なところで鋭いんだね」

「……え」

「君は俺が来るより前に目が覚めていただろう? その時、どんな気持ちだった?」

「それは……とにかく怖くて……これから何されるんだろうって」


 最初は脱出も試みたが、不可能であることがわかってすぐに諦めた。

 それ以降は怖くて、カシスが部屋に入ってくる時も何者だろうかと怯えていた。


「本当はそんな風に怖がる君を俺が必死で助けに来て、俺に対して安心感を芽生えてもらう予定だったんだ。君をこんな風に大切に思い、救えるのは俺しかいないって。けれど、俺も少し油断していたみたいでね」


 もう今更カシスに驚くことはないと思っていたが、彼は私の想像を上回っていく。


「欲が出たんだ。普段、君の眠っている姿なんて見れないからさ。そんなすぐには目覚めないだろうし、少しぐらい良いかなって。まさか相手が、すぐに目覚めるような軽い薬を使っていたなんて驚いたよ」


 ゆっくりとカシスから離れようとしたが、それに気づいた彼の手が背中にまわされる。


「そんな風に逃げようとされると悲しいなあ」


 やっぱり……危険だ。

 これは少し精神支配も入ってきていないだろうか。

 いよいよやばくなってきた。


「ねえメアリー。もし俺がいなかったら、君はどうなっていたと思う?」


 カシスの指が私の首筋をなぞる。

 くすぐったくて逃げたいのに……カシスがそれを許してくれない。


「きっと酷い目に遭っていただろうね。君の身も心も傷がついて、病んでしまったかもしれない」

「カシス、待って……」


 私がそう言えば、ピタッとカシスの手が止まる。

 まさかやめてくれるとは思わず、間抜けな声が出そうになった。


(そういえば、前にカシスは……)


 初めてカシスの裏の顔を知った日を思い出す。

 カシスは私に『君の言うことなら喜んで聞く』と話していた。


(もしかして、私の言うことを聞いてくれている……? 手綱を握れって言葉は本心だったの?)


 だとしたら希望が見えてきた。


「ねえカシス。これ、解いてほしい」


 縛られている手首を差し出し、カシスにお願いする。


「……これを解けば、君は逃げる?」


 しかしすぐには解いてくれず、カシスは私にそう尋ねた。

 なるほど。『言うことを聞く』というのは、あくまで私がそばにいることが前提のようだ。

 それだと確かに手綱を握る、という表現の方が正しい。


「逃げないよ。だってカシスが助けてくれたんだよ? そんな相手から逃げるような真似はしない」


 とりあえず、監禁危機にある今の状況をどうにかすることが最優先だ。


「けれど君は、俺の仕業だって勘違いしていたよね」

「それは……」


 普通にこの状況であれば勘違いして当然だと思ったけれど……ここでカシスを刺激してはいけない。


「メアリーに疑われて少し残念だったんだ。こんな浅はかな真似、俺だったら絶対しないのに」


 浅はかな真似ということは……カシスは監禁なんてしないと言っているようなものだ。

 どうやらカシスはヤンデレ最終形態に至っていないらしい。

 その事実に安心して謝ろうとした直後。


「今回のやり方だと周囲にすぐ気づかれてしまう。俺だったら君がいなくなっても、誰一人として気にならないような状況を作ってから行動を起こすのに」


 前言撤回。

 やはりカシスは、ヤンデレ最終段階へ進んでいる。


「それなのに君は、俺がこんな短絡的で後先考えない行動を起こしそうだと思っていたんだね」

「思ってないよ! だってここで目が覚めて助けを求めた時、最初に頭に浮かんだのはカシスだったんだよ」

「……俺?」

「そうだよ、カシスだったの」

「そっか……俺かあ」


 カシスは分かりやすいほど嬉しそうな顔をしていた。

 つい可愛いと思ってしまった。


「じゃあメアリー。これ。解いたら、俺のお願いも聞いてくれる?」

「えっ……それは、もちろん……聞ける範囲なら」


 カシスのお願いの内容が怖くてすぐ頷けなかったが、我ながらいい返答ができた気がする。


「簡単だよ。これからは、俺のあげた耳飾りを毎日つけてほしいんだ」


 カシスは私の耳に触れる。

 今日は耳飾りをつけておらず、カシスは残念そうだった。


「君と俺が繋がってるっていう証が欲しい」


 理由が重い、けれど……つい聞いてあげたくなるのは、カシスがお願い上手だからかもしれない。


「わかった。これからは毎日つけるよ」


 もちろんカシスと婚約している間だけだ。

 今日のカシスを見て確信した。このままでは本当に我が身が滅ぶと。


「本当?」


 カシスはパッと表情を明るくさせる。

 このギャップに私が弱いと知って、わざとやっているのだろうか。

 私がカシスについて学んでいく一方で、カシスも私について学んでいる気がする。


「本当だよ」

「嬉しい……これからはずっと一緒だね」


 その言葉の重みをひしひしと感じたが、あえて気付かないふりをした。

 私の説得が無事に成功し、ようやく解放されて手足が自由になる。


「ありがとうカシス、助けてくれて」

「君が傷つく姿は見たくないから」


 少し残念そうだったが、無事に解放されたのでよしとしよう。

 これで部屋から出られそうだ。


「じゃあライラのところに案内を……」

「ほら、すぐ離れていこうとする」


 自然に部屋を出ようとしたつもりが、カシスにすぐバレてしまう。


「そんなことは……ただ、ライラが心配で」

「君の侍女は俺が安全に保護しているよ。俺の言葉が信じられない?」

「もちろん信じるよ! 信じるけれど……少しこの部屋息苦しくないかな。あ、窓がないから……」


 焦って変なことを口走ってしまい、逆効果な気がする。

 こうなったら最終手段だ。

 私はカシスの服の裾を掴み、軽く引っ張る。


「ね、カシス。早く行こう?」


 カシスも一緒であれば、逃げたことにはならない。


「それ、わかってやってるよね」

「えっ……なんの、ことかな」


 どうやら私の心の中は全部カシスに筒抜けのようだ。

 それほど分かりやすかっただろうか。


「まあ、いいよ。乗ってあげる」


 カシスはそう言って、私の頬に口づけする。


「なっ……」

「ほら、早く行くんだよね?」


 突然のキスにドキドキして動けなくなる私の反応を見て、カシスは明らかに楽しんでいた。


「君のその反応を見ていると、とても気分がいいよ」

「か、カシス! 急にキスするのはダメ!」

「けれど体が勝手に動くからなあ。それに隙だらけの君も悪いと思うよ」


 機嫌が良さそうに笑うカシスは、キスした箇所を指で撫でた。


「嫌ならもっと警戒して? こんな隙だらけだと、危ない男に手を出されてしまうよ」


 どこか色っぽい表情から目が離せなくなる。

 ダメだと頭でわかっていても、胸が高鳴ってしまい、自分が自分じゃなくなるような感覚に陥る。


(このままじゃ本当に危険だ……どうにか、しないと)


 初めての感情に危機感を抱き、手段を選んでいられないと思った。


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