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2.ヤンデレ疑惑②

「君が可愛いなあと思って。俺を避けるつもりでも、こうして会ってくれるし、それに……」


 カシスは私のつけている耳飾りに触れる。


「これをつけている時点で無駄だってわからないかな」

「あっ……」


 私は今日カシスに会うということで、無意識にカシスからもらった碧色の耳飾りをつけていたらしい。


「習慣って怖い……」

「俺はとても嬉しいよ」


 カシスの嬉しそうな顔を見て、早速失敗したのだとわかる。


「うう、カシスがカシスじゃない」


 こんな熱の籠った視線を向けられると、ソワソワしてその場から逃げ出したくなってしまう。

 今まで通りの関係でいたいというのは、私のわがままだろうか。


「俺をこうさせたのはメアリーだよ? 本当は最後まで君の好きな紳士的な姿でいようと思っていたのに……ああ、けれど君の好きの意味合いって違うんだったよね」


 カシスの声のトーンが落ち、様子が変わる。優しい表情をしていたが、目が笑っていない。

 ダメだと自分に言い聞かせるが、どうしても胸が高鳴ってしまう。


(この影のある姿……推せる、推せてしまう!)


 自分の性癖にハマってしまった人物がたとえどれだけ危険でも、推したくなる感情をどうにかしたい。

 けれど異常なほど惹かれてしまうのだ。


「初めて好きだと言われた時、君と同じ気持ちだって勝手に安心して浮かれてた自分が恥ずかしいな。君の目には俺が滑稽に映った?」

「そんなことは……だってカシスが私を好きだなんて、全く気づかなくて……」

「今から知ってくれたらいいよ、俺の気持ち。こうして君を手に入れられた今、二人の時間はたくさんあるからね」


 カシスは指を絡ませらようにして手を握ってくる。

 離さないという強い意思が感じられて、ゾクッとした。


「俺は君のためなら何でもできるよ。早く公爵夫人の座が欲しければ今すぐ用意できるし、この国で一番高貴な女性になりたければ、王座……」

「す、ストップ!」


 それ以上は聞いてはいけない気がして、カシスの口元を思わず手で塞ぐ。


(カシスは何を考えているの⁉︎)


 今、カシスは絶対に叛逆に関する言葉を口にしようとしていた。

 こんなこと誰かに聞かれたら終わりだ。


「よく聞いて、カシス。私に公爵夫人の座なんて不相応だし荷が重いの。私はひっそりと目立たず生きていきたくて……だからもっとカシスにふさわしい相手を見つけてほしい」


 私の話を聞いたカシスがニコッと目を細めて笑う。

 わかってくれたのかと思い、手を離したのが間違いだった。


「わかった。じゃあ俺たちは死んだことにして、別人として生きていこう。これなら問題ないね」

「……え」

「ああ、それとも貴族のままがいい? それなら新たに爵位を賜ろうか。それなりに国に貢献しているつもりだから可能だと思うよ」


 色々と突っ込みどころが多いが、隙を与えてくれない。


「あの、カシス!」

「どうしたの?」


 しかし名前を呼べば、嬉しそうに耳を傾けてくれる。


「ちょっ……とぶっ飛びすぎかな」


 カシスのためにも注意するつもりが、愛らしい表情についキュンとしてしまい、やんわりとしか伝えられなかった。


「私は今のままでいいというか……」

「じゃあ公爵家はフリップに継いでもらって、俺はメアリーの家に婿入りすればいい?」

「私と一緒になる前提で話しているけれど、私は……その」

「メアリー。俺の話、聞いてた?」


 カシスは柔らかな口調だったが、なぜか圧を感じて少し怖い。

 こう、私が拒否すればするほどカシスの様子が変わっていくのが目に見えてわかった。


「君が俺から離れようとするたび、周りが不幸になるんだよ。フリップも叔父上の件でしばらく塞ぎ込んでいたし、君のご両親も没落の危機に遭ったけれど……次はどうなると思う?」

「……っ、それはダメ!」


 フリップ様も両親も、私のせいで負担をかけさせてしまった。

 これ以上、危険な目に遭ってほしくない。


(こんなの……脅しと同じだ。何とかしないと)


 このままでは私はバッドエンド一直線どころか、周りすら不幸にしてしまう。


(嫌われる作戦は周りを巻き込む……だったら)


「……わかった」


 私は新たに作戦を考えた。


「やっとわかってくれた?」

「カシスを幸せにしてくれる人、私が見つけるから!」


 カシスは貴族の間でとても人気が高く、そんな彼を慕っている人は少なくない。

 そのため、カシスに好意を抱いている人にめいいっぱい愛されたら、きっとヤンデレ化は止まるはず。


「変な方向に話が進んでいるけれど……まあいいか。君が諦めるまで付き合ってあげる」


 なぜかカシスは楽しそうだったが、私は本気である。

 こうして私は、互いが幸せになれる道を探し始めるのだった。


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