1.ヤンデレ疑惑①
今までの私は、小説を読んで抱いた『カシス』という人物のイメージを信じきっていた。
叔父とジェランダ公爵家が悪で、ヴィクシム公爵家は善だと。
続編も読んでいたなら変わっていたかもしれないが、その先入観もあってか、カシスの裏の顔を見極められていなかったのだ。
(けれどまさか……カシスが闇属性だったなんて!!)
カシスは圧倒的な陽だと思っていたが、陰も共存していたとは……ああ、やっぱり何度考えても良い。新たな癖が芽生えそうだ。
願わくばカシスの闇の部分を、続編の小説で拝見したいところ。
しかしここは小説の世界だとしても、私にとっては現実である。カシスとの関係について考える必要があった。
(カシスの感情……すっごく重たかった。これってもしかして、『ヤンデレ』というやつでは)
前世の私はヤンデレに興味がなかったため、ヤンデレ好きな友人から話を聞く程度の知識しかなかったが、イメージで言えばこうだ。
とにかく愛が重くて嫉妬深く、束縛がすごい。相手が逃げようとしたらすぐ捕まえ、監禁コースに。精神的にも支配し、さらに暴走すると相手を殺して死体を愛でたり、心中エンドも……ちなみに友人曰く、ヤンデレは外面が良くて周囲から慕われ、監禁といった罪を犯していてもバレないらしい。あとはハイスペックで用意周到、相手は決して逃げられずバッドエンド……考えただけでゾッとした。
ちなみに……とカシスに置き換えて考えてみる。
表の顔が良くてたくさんの人から慕われているし、公爵家の次期当主としてスペックも高い。それから私と結婚するため、伯爵家を没落させようとしたところに救いの手を伸ばし……と用意も周到。
(あれ、これもう高確率でヤンデレというやつでは……?)
まだ該当していない部分は監禁や精神支配といったところだろうか。
いやもうそこまでいけば最終段階では。
このままだとヤンデレの完成形に到達してしまい、最悪の場合は死ぬ……かもしれない。
何ならカシス本人が私のことを『閉じ込めるかもしれない』と言っていた。これはもう監禁の匂わせではないか。
フリップ様との明るい恋愛をするはずが、真っ黒な恋愛一直線な気がして一大事である。
(こうなったらカシスに嫌われるしか方法はない……心苦しいけれど、生きるためだ)
両親は家の立て直しに成功したら公爵家にお金を返すつもりでいると話していたため、それまでに嫌われなければと思った。
もちろん公爵家との関係にヒビを入れるわけにはいかないため、あくまで私個人がカシスに嫌われないようにしないと。
早速カシスとは一切連絡を取らず、避けて避けて避け続けようと思っていたが──
「メアリー! カシス様が来てくれたわよ!」
両親もしっかりカシスの外面に騙され、この結婚に乗り気なため、カシスが私の家に来てしまえば会う他なかった。
両親だけではない。ヴィクシム公爵夫妻も結婚に対して喜び、応援していて……見事にカシスの手のひらで転がされている。
「メアリー、久しぶりだね」
両親はすぐ私とカシスを二人きりにし、どこかへ行ってしまう。
カシスと会うのはあの日以来だ。
「……」
あえてそっけなくしてみようかと思い、ソファに座りながらカシスと反対方向に視線を向ける。
あからさまに避けるのは胸が痛むが、仕方がない。
カシスの反応が気になっていると、彼は小さな笑みをもらして私の隣に座った。
それだけで鼓動が速まる。
今まではカシスがそばにいるだけで落ち着いていたはずなのに。
「メアリー?」
「……」
我慢、我慢だと思いスルーを決め込む。
そんな私の腰にカシスの手がまわされた。
こんな堂々と触れてくるなんて。
いや、そういえばここ最近、カシスの距離がいつにも増して近い気がしていた。
(そういう意味か……! カシスはずっと私を女として見ていた!)
全く気づかなかった……というより、ヒロインの私はフリップ様と結ばれるのだと信じ切っていたせいだ。
「それで無視してるつもりなの?」
「……っ」
カシスの指が私の頬を優しく撫でる。
カシスの想いを知ってから、なぜ今まで気づかなかったんだと自分を恨めしく思うくらい、カシスの好意はわかりやすかった。
だんまりを決め込んでいると痺れを切らしたのか、カシスは私の耳に軽くキスを落とす。
「ひゃっ……⁉︎」
さすがの私もこれには反応してしまい、耳に手を当てながらカシスの方を向く。
こんな積極的なカシスを初めて見た。
突然のキスに顔が熱くなる。
「やっと見てくれたね」
「な、な、なにして……」
カシスは相変わらず穏やかな笑みを浮かべている。
その笑顔の裏で何を考えているのか、全くわからない。




