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3.失敗①

 私は早速カシスを幸せにしてくれる令嬢を探し始めた。


「カシス様とのご婚約、羨ましいですわ……」

「誰もが一度は憧れましたものね」


 カシスと婚約してから貴族の集まりに参加すると、令嬢たちに囲まれて質問攻めにあう機会が格段に増えていた。

 皆羨ましそうにしていて、カシスに対する想いが伝わってくる。


「それはカシスと一緒になりたい、ということでしょうか?」


 これほどカシスを想ってくれているなら、たくさん愛して幸せにしてくれるのではと期待する。


「まさか、とんでもありませんわ!」

「深く愛し合うお二人の邪魔をする気などございません。ご安心くださいませ」

「え……違う、のですか?」


 私の質問に対して全力で否定されてしまう。


「お二人は幼い頃からずっと想い合ってきたのでしょう?」

「すれ違いを経てようやく想いが通じ合い、結ばれたのですよね。なんてロマンチックなのかしら。私たち、心から応援していますわ」


 令嬢たちは最後に応援の言葉までかけてくれる。

 今回は失敗に終わってしまい、めげずに次を……と思ったが、毎度同じ結果だった。

 令嬢たちの話を聞いていると、どうやらデビュタントの日に匂わせてしまったため、私たちが結ばれた経緯がロマンチックに誇張されていたようだ。


(まさかカシスはデビュタントの時からこうなることを見越していた……わけないよね、さすがに)


 いったいどこから仕組まれていたのだろうかと気になったが、全くわからなかった。


「見つからない……!」


 積極的に招待に応じて令嬢たちと接触を図ったが、誰一人としてカシスと私の間に入ろうとする人は現れなかった。

 クラスタとお茶をしながら、その事実にうなだれている。


「メアリー。貴女、今度は何を企んでいるの?」

「べ、別に何も……」

「絶対に嘘ね。今、社交界では貴女がカシス様を奪われないように他の令嬢たちを牽制しているって噂が流れているわよ」

「……はい?」


 そんなの初めて聞いた。

 クラスタは私の反応を見て、『やっぱりね』と言いたげな表情をしている。


「ちょ、あの、どういうこと⁉︎」

「どういう意図がわからないけれど、貴女は令嬢たちにカシス様を狙っているのかって聞き回っているのでしょう? それが噂の発端よ」


 どうやら私がカシスの相手を探していたことが、逆効果となっていたらしい。


「令嬢たちの間では『散々すれ違ってきた分、不安になっても仕方がない。互いに愛し合う姿はむしろ見ていて微笑ましい』と言われているようで良かったわね。あまり公衆の場で嫉妬を曝け出してもいいことはないもの」

「なぜ……そんなことに」

「それで? いったいどうしてな、の……」

「それは……あの、色々あって……クラスタ?」


 実はカシスがヤンデレかもしれず、監禁や最悪の場合死ぬかもしれない、なんて言えるはずもなく濁すしかない。

 いつもなら『はあ?』と呆れられるはずが、クラスタの反応がなく顔を上げる。


「あ……いいえ、何でもないわ。それより色々って?」


 どうやら話は聞いていたようで、濁した部分をつっこまれてしまう。


(クラスタにならカシスについて、本当のことを話してもいいかな……もちろんヤンデレについては触れないけれど)


 どうしても躊躇ってしまい、一度確認する。


「今から話すこと、なんだけれど……信じてもらえないような内容で」

「今更何を言っているの? 貴女の話はいつも突拍子もないでしょう」


 そんな私に付き合ってくれるクラスタに出会えて良かったと心から思う。

 クラスタの言葉に決心がついた私は口を開く。


「あのねクラスタ。実は、カシスについて……」

「俺が、何?」


 突然背後から私の肩に手が置かれ、柔らかな声音が耳に届く。

 思わず全身が強ばり、振り返ることすら躊躇われた。


(ど、うしてカシスがここに……⁉︎)


 クラスタは私より先に気づいていたのか、ニヤニヤと笑っている。


「カシス様、今日もお兄様と手合わせですか?」

「うん、そうだよ」

「カシスのやつ、メアリー嬢がいるとわかった途端にここに来たんだ。全く、メアリー嬢のことになるといつも盲目になるんだよな」


 クラスタのお兄様も合流し、三人で話が盛り上がっている中、私は恐る恐る振り返る。


「ごめんね。最近メアリーと会えていなくて、つい……」


 カシスは照れくさそうにしながら二人と話していたが、その姿すらも偽っているように見えてしまう。

 あれほどカシスのことは何でもわかる自信があったのに、今は全くわからない。


「それにしても、お互い知らずにこうして会うなんて偶然だよな。やっぱり二人が運命だからか」

「本当に驚いたよ。けれど、こうしてメアリーに会えて良かった」


 カシスと婚約して以降、招待の数が明らかに増え、カシスを避けるように令嬢たちのお茶会をメインにたくさん参加していた。


(もしかして、カシスは私がここにいるのを知っていた……?)


 まさか……とは思ったが、そのまさかかもしれない。

 自然にやってしまうのがカシスなのだ。


「本当に貴女、愛されているわね。羨ましい」

「あ、はは……そうだね」

「いっそのこと、カシス様が私のお兄様だったらよかったのに」

「おい、クラスタ。兄の前で堂々と言うんじゃない!」


 クラスタにとってカシスは憧れの存在で、恋愛的な意味合いでの好きではないらしい。


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