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95 引き絞られた一矢

「平河さん!」

「大丈夫ですよ……。ちょっと痛いですけど、防弾チョッキも着てますしね。それよりも、異世界ってすごいんだな。なんか、次元が違う」


 アーミア、ルーブル、翔は、平河の先導の元で戦いの場から少し距離を取る。

 翔が振り返りそれを見ると、戦況は拮抗していた。

 クォーツが墨田の放つ銃弾と、カルラの魔法、チッチョ、ラプタの拳を一度に受け止めている。


(腐ってもムトの弟子って感じだな……)

「腐っても私の弟子って感じだな」


 ムトが逃げる四人を背後にして翔の考えたことと全く同じことをムトは呟いた。

 

「ははは! 師匠! 見てくださいよ! 僕はここまで魔法が使えるようになったんですよ!」


 大きく叫んで、クォーツが飛び上がる。すでに対面していたカルラ達と墨田は、数メートル吹き飛ばされて近寄ることが出来ない。


「師匠は結界の維持で精一杯なんですよね? だって僕がずっと結界を壊そうと魔法を押し付けてましたから」

「でも、それも終わりです」


 クォーツが空中をなぞるように触れると、翔たちの上空からガラスが割れるようなピシ、ピシ、という音が響いた。


「魔法、いただきました」

「お前、そんなことまで……!」


 怪しく光るクォーツの瞳がムトを見据える。


「何が起こってるんだ」

「いや、俺にもさっぱり……ってちょっと待て待て待て待て!」


 上空を見上げながら翔は飛び出す。空では、ムトがその翼を力なく閉じていた。フクロウの姿だったムトは、それと同時に人間の形態に戻る。

 落下していく上から、空を覆っていた結界の破片が同時に降り注ぐ。

 農園を守っていた結界が、クォーツによって破られてしまった。


「おっも……!」


 翔は落ちてきたムトを受け止める。腰からみしみしと悲鳴が上がった音がするが、そんなものを気にしていられるような状況ではなかった。


「貴様、後で覚えておけよ……」

「体力ないんだから仕方ないだろ!」


 翔を小突きながらムトは飛び上がり、地面に着地した。

 そのままルーブル、平河とともに建物の影に隠れた。

 クォーツは自らが全能であることを誇示し終え、いつの間にか取り出していたソファの上で足を組んで座り始めた。背後のスピーカーからは、未だに呪文が詠唱され続けている。世界が書き換わる、そのタイムリミットが刻一刻と迫っている。

 耳をふさいでも意味がないとわかっていながら、翔はその呪文に耳を塞いでしまいたかった。


「にしても、アレは面倒くさいな」

「何が面倒くさいんだ?」


 吹き飛ばされた全員がクォーツを睨みながらゆっくりと翔たちの方に駆け寄ってくる。死傷者もなく全員揃ってはいるが、その全員がクォーツに対して策がないといった表情を携えていた。


「師匠〜! どこ行っちゃったんですかぁ〜?」


 ソファに座り、悠々とクォーツは呼びかける。


「わかってるくせに」

「まあ、俺じゃなくてもあんなモンが嘘だってわかるわな」


 翔の言葉にルーブルが同調する。全員がクォーツに怒りをつのらせていた。


「で、アレをどうするか、だな。油断してるが、正直、今のアレは私でもどうすることもできん。しばらく会わんうちにどう成長しているかもわからない魔法使い相手に突っ込むなんて馬鹿のやることだからな」

「はぁ、大魔法使い様がそう言うならどうしようもねぇじゃねぇか」


 ラプタが額に手を当てて呟く。


「賢梟様がそう言うってんなら、アタシの魔法も通じないんだろうねぇ。チッチョ、アンタの力技でなんとかならないのかい?」

「えぇ〜? なんて、いつもの感じで言ってもしょうがないよね。残念ながら僕にもなーんの手立てもなし。強化魔法使ったってその……ヒラカワさん? が持ってたヤツで無理なら無理だねぇ。僕にもわかるよ。諦めちゃおうよ雑魚お兄ちゃん。それ以外無いってもうさ〜」


 カルラは壁に背をつけ、地面に膝をおろしてはいないものの、ただ地面に膝をついていないだけだった。チッチョはそれ以上に、地面に腰を下ろして天を見上げている。


「水無月さん、自分ら以外にも応援を要請しますか」

「馬鹿、今は誰が敵で誰が味方かもわかんねぇんだぞ。安易に呼ぶな」


 平河と墨田は、拳銃を構えて機を伺いながらクォーツを見ていた。だが、その弾がクォーツに届くことは無いことを知って一歩も踏み出せないままで居た。


「カケルさん……」


 アーミアが不安そうに翔を見る。できることはないか、となにかを思案しても、他の誰よりも何もできない自分のことを、アーミアは呪うしかできなかった。


「……正直、思いついたことがないわけじゃない」


 そんな中で、翔だけは、唯一まだ諦めていなかった。

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