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ヨーチュリカ大陸  作者: Jupi・mama
第二章 大陸とハイドラ家
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第三十三回 ハイドラ・グリエール


 小走りで階段を降り玄関に向かう。


「エール、お帰りなさい」


「あー、忘れ物をしたのでトーマスに御者を頼んだ。また送ってもらうから」


 鼻筋も高くて唇が薄い。二重で切れ長の目は少し奥に引っ込み、優しそうな目つきだが、トーマスの名前を使い意味ありげにスーランに話しかけているようだ。


「分かりました。こちらが王都で出会った燈花さんよ」


「ハイドラ・グリエールです。スーランが世話になったそうだね。ありがとう」


 彼の視線は、私の顔とらんらん棒を交互に見ている。トーマスからいろいろな情報を聞いたみたいな気がする。


 少しおでこが広いが、深い緑色のような前髪を上に掻き上げ、きっちりと耳の上で刈り込まれた短めの髪は、彼の顔を前面に押し出し性格を表しているような気がする。スーランの髪もふんわりと長めだし、二人とも身だしなみはきちんとしていると思う。


「いえ、こちらこそお世話になります。よろしくお願いします」


 玄関の一部であるこのホールは、左側に曲がるとダイニングルームとつながっている。


「スーラン、部屋で待ってなさい。先に書類を取ってくるから、話はそれからだな」


 頬に無駄肉がないようなスッキリ顔、顎のラインが少し尖っているような気がするが、顔のパーツが間延びせず、鼻を中心に集約されたような作りで、とってもかっこいいと思う。


 二人のことは美男美女と言っても過言ではない。でも、お金があっても子供がいないというのは、ほんとうに気の毒な身の上だと思う。


「はい。燈花、部屋に戻ろう。ミズリー、旦那様にお茶の用意をお願いね」


「かしこまりました」


 彼の後ろ姿を見ていると肩幅もありそうだ。ブルーの襟付きシャツに紺色のズボンとブレザーっぽい上着を着ている。身長は百七十センチほど、私より五センチほど高い。


 ここにスーツという言葉があるかどうかは知らないが、何の仕事をしているのだろうか。馬車を乗る時代に、彼女もそうだが着こなしや洋服は小粋なような気がする。


 階段を上り詰めた彼は自分の部屋に行くこともなく、彼女の部屋に直接入る。


 先ほどから、私の座っていた椅子の背もたれの上にローブを置いてあるせいか、彼は彼女が座っていた隣の椅子に座る。私はリュックは背負っているが同じ椅子に座り、らんらん棒を右側のテーブルに立てかける。


「あまり長く話せないが、トーマスが知らせに来てくれたので戻ってきた。それがミスリルで作られているらんらん棒みたいだな。持たせてもらってもいいのだろうか」


 彼の視線が、私よりもらんらん棒に釘付けなんですけど、間近で触って確認したいのだろうな。でも、少し遠慮がちな言葉だと思う。それほど価値あるミスリルなのだ。


「はい。どうぞ」


 両手で持ちテーブル越しに渡す。


「確かに重いな。ミスリルは銀色だと聞いたが、この色はどうして違うのかな」


 彼は左手で受け取った。左ききなのだと思う。ミスリルの価値ではなくこの色が気になるわけだ。要するに、信じていないということね。


「ミスリルだと悟られないように、ローブと同じような色づけをしてもらいました」


「……そうなのか、それでは返すとするか」


 彼は両手でらんらん棒を水平に投げてよこす。びっくりして下から右で受け取り、テーブルに右手の甲が軽く着いてしまう。ほんとうは右手の甲を下に着けなくても受け止められる重さなのだか、重さを強調して演技をしてしまう。ズシッと来ないと変だものね。


「投げて申し訳ない。咄嗟の反応はよさそうだな、少し試してみた」


「まったく、何をしているのよエール。ごめんなさいね、燈花」


 スーランはマジで怒っているように声を高め、彼をにらみつけている。


「いえ、しっかりと受け止められてよかったです」


「ほんとうに申し訳ない。動きを確認したかった。驚かせてしまったね」


「いえ」


 ドアをノックする音が聞こえる。


「入って」


「お茶の用意が出来ました」


「ありがとう」


 スーランがメーシリンと言葉を交わし、メーシリンはカップを並べて三人分のお茶をポットから入れる。お湯を入れてからの時間を計算しているのだろう。名前は思い出せないが、これは嗅いだことのあるハーブティーだ。


 トレーの中に、お砂糖なのか銀色のスプーンが添えられた白い陶器がある。お皿に乗せられたスコーンが二個、小さいカップに黄色いジャムが入り、グリエールの前にそのトレーが置かれる。


 メーシリンのお茶の準備が終わるまで三人とも無言。彼女が部屋のドアを閉めてからスーランが話し出す。


「彼女は回復魔法が使えるけど、それだけではないのよ。防御魔法も使える。モアール小道でイノシシが飛びだしてきてね、燈花が退治してくれたのよ。イノシシにも燈花にも驚いた。私、燈花の後ろで立ち竦んでしまったのよ」


 彼女はグリエールを見ながら一気に話しているが、驚いて私の後ろで動けなかったのだ。イノシシの動きは視覚で捉えていたが、私だってランドールさんの言葉がなければ、どうなったのか分からない。


 燈であれば言葉よりも存在自体を消され、スーランに直撃したのかもしれない。でも、彼女も何かしらの武術は出来そうなのだが、そのことは話してない。そこが引っかかる。


「まったく、命まで助けてもらったのか」


 命を助けるなんて大げさな話だ。イノシシのコースから瞬時に私が避けきると、確かに彼女が危なかった。私は避けようとは思わなかったので、そこまで考えてない。自分で自分の命を助けただけなのに……何かこの会話は引っかかるのよね。


「そう言えばそうね。そのお礼を言うのを忘れてた。燈花、ありがとうございます」


「いえ、私も仰天して必死でしたから」


「エールはその現場を見てないけど、頭の中が混乱してびっくりした。回復魔法は黄色だったけど防御魔法は緑色の光だった。信じられないでしょ」


 彼女の驚きはイノシシの出現よりも、やはり、私の右手の光に驚いているようだ。


「トーマスが説明してくれたがミズリーの痛みが取れたそうだな。燈花は教会と関係がないことは確かな話なんだな。自分で確かめたくて戻ってきたが、防御魔法まで使えるとは信じがたい」


「私がこの目で見たし、らんらん棒の中にイノシシを取り込んだのよ。それでも信じられないの、出してもらいましょうか。すぐに出せるそうよ」


 彼女はまた一気に増し立てるような勢いで声を高め、イノシシを退治するよりらんらん棒の収納のほうに意識が強く向いていたのだ。確かにランドールさんの収納してもらったけど、騙している後ろめたさを感じる。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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