第三十二回 金千封以上よね
どちらが悪いのか、不妊治療に魔法の力を使えるのかも分からないが、それよりも、子供に影響が及んだりするのが怖いよね。聖霊魔法は毒素の解除だけど、防御魔法のことを考えると威力がだんだん増している。
精霊魔法は外傷の怪我の治癒に使うのよね。どこまでが外傷と言えるのか分からない。病気の知識がなさ過ぎる。本を読むとかどこかで勉強するとか、図書館とかないのだろうか。病院の手伝いをするとか、何とかならないのだろうか。
ポンポン……《精霊精霊》
ポンポン……《可能可能》
「ええっ? ほんとうですか」
「ほんとうのことよ」
また口から言葉が飛び出したー。驚かせないでしてくださいよ、わらわさん。
「……ええっと……分かりました。治癒魔法で可能かもしれないけど……そういう話は聞いたことがありますか」
「私はないけど、主人の友達が聞いたことがあると言ってたわね」
「……ええっと……どうしようかな……回復魔法の一段階上の魔法も使えるのですが、試すというのか場所が場所だけに……服の上からやりましょうか」
場所を考え行為を想像すると少し顔が赤くなったかもしれない。自分でも言いずらい。
「一段階上の魔法……そういうことも出来るの?」
彼女は目を見開いてとても驚いているようで声の響きが大きい。わらわさんがいいと言うのだから、大丈夫だよね。
「……結果は分かりませんが、そういう話があるということは可能性があるような気がします……どうしましょうか」
「黄色い光なの?」
「黄色ではなくて緑色です」
「イノシシを退治したときの色?」
「はい。あの色です」
「信じられない……分からない……信じられる……燈花の話したことは信じる。エールに相談してみる」
彼女の視線は、自分の目の前のランチョンマット見て悩んでいるようだ。年齢的なことを考慮しているのだろうか。最後の言葉はスパッと区切れよく聞こえたが、二人に頑張ってもらわないと、それ以上のことは言葉として話せないよね。
「……はい。よろしくお願いします。二人で話し合って決めてしてください」
「子供が出来ると……金千封以上よね」
何でそんなに大金になるのですか。どれほど子供がほしかったんだろうか。私はどうなるのよ。すでに二十八歳なのにこの世界に来てしまい……可能性はゼロに近いよ。
「……」
わらわさんは、ほんとうにタイミングよく話しかけてくるけど、どうしてなのだろうか。忙しくないのだろうか。ランドールさんの本体とシンクロナイズしているのだろうか。
「……エールのことを考えると、子供が出来ないのは辛いのよね。他の女性との間に子供を作ってもらいたいと話したけど……彼に断られた。普通は逆なんだけどね。男性が言うべきことを私のほうから話したのだけど……」
ちよっと、ちょっと、そんなことまで話していいのですか。人生相談しているみたいですよ。二十八歳の私だからいいけど、今の私は十八歳ですよ。それだけ子供がほしいと言うことが分かった。わらわさんが教えてくれたので、一肌でも二肌でも脱ぎますよ。
「……分かりました。私も頑張りますので、二人で相談してよい結果を待ってます」
「そうね、エールは考えが堅いから……私も頑張ってみるわ」
「はい」
「侍女にしたミミことも話さなきゃね。ミミは末っ子だからいつも上二人、ココとトトにいじめられるのよ。そういう現実を知っていたけど……いろいろあるのよね」
「そういうのは大変ですね。分かるような気もします」
「他の屋敷でもそうだと思うけど、使用人から侍女に昇格するのは彼女たちの憧れなのよ。まずは報酬が高くなる。自分の時間が増える。主人の言葉に従えばいい。ミミは燈花の言葉だけに従えばいいとみなの前で断言したから、今までの苦労が報われる。もういじめれない。逆に命令できるわけではないけど、彼女たちの言葉に従わなくてもいいのよ」
「そういう理由なのですか。よく分かりました」
「私たちがいなければリンのそばにいさせるから、彼女からいろいろ学べる。あの子はいじめられても明るく振る舞ってるし、物覚えがいいし将来性があるのよね。リンもそう思ってるみたい」
「侍女の仕事が分からないのですが、私はどうすればいいのですか」
「私のそばにいないときは、ミミと部屋でのんびり話でもしてよ。二人で街に出かけてもいいし、それもミミにとっては勉強の一つよね」
「えっ、街に出かけてもいいのですか」
「そこまで拘束しない。街に出かける場合は、私よりもメーシリンに知らせてね」
住み込みなのに自由があるなんて、想像していたより待遇がいい。彼女がここでじっとしている性格ではないような気がするが、彼女が外に出かけなければ何をしてもいいと言うことよね。
私だって街に出かけることは勉強の一つ。ミミより知らないかもしれない。そういう場合は二十八歳の大人の自分で頑張らなきゃね。
「はい。ありがとうございます。街に出かけて必要な物を買いたいです。自分のお金でミミにも何か買ってあげてもいいのですか。例えば、今着ている服は使用人の服ですよね。それ以外の服を着せてもいいのですか」
「あなたの侍女なのだから構わない。今度から着る服も自由ね。主人がいい人でミミも幸せね」
私がミミの主人になるか。ミミの面倒を私が見るわけだ。私よりもメーシリンに任せたほうがいいと思うが、報酬も出すのだろうか。
「……ありがとうございます。一人よりも二人で出かけたほうが楽しいですから」
「そうね。ミミにおいしい物でも食べさせて、お金は大丈夫よね」
「大丈夫です。心配いりません」
ランドールさんからたくさん金貨もらったので、嬉しくてバシッと言ってしまう。でも、金銭感覚が分からない。最初は買うことよりも相場を確認してからだな。らんらん棒に巻く布も買いたい。
「足りなければ前借りしてもいいわ。エールからではなく私が貸すから大丈夫。それともあのイノシシを買い取りましょうか」
「いえ、あのイノシシはみなで食べたほうがいいと思います。そうすると、みなで話す機会が増えます。庭でパーティーみたいなことは出来ますか」
「あー、それいいかも、燈花の歓迎パーティーにしようかな」
「ありがとうございます。楽しみです」
「最近はお会いしてないので、エールのご両親にも声をかけてみようかしら、そうするとエールも参加するかもね。話してみるわね」
『ほほう、愉快な話になったのう。わしは燈花の収納係になったようじゃのう。ビームの頃合いがよかったしな、飛び出しも早かったしのう』
『ランドールさんの声がけがよかったんです』
「……そこまでは……ここの人たちだけで……」
『イノシシの出現と燈花の動きにはな、このわしも驚いたのう。角が短めだから雌じゃろうな。燈花は狩りも出来そうだのう』
「大丈夫よ。エールに連れ出してもらうから心配しないで」
『動物の狩りですか。無理ですよ。見ていると気持ち悪くなりました』
ドアがノックされてびっくりする。
「奥様、グリエール様がお戻りになりました。馬車が見えたので先にお知らせに伺いました」
走ってきたのか、少し息が上がっている。
「嘘、どうしたのかしら? 燈花、玄関に行きましょう」
「はい」
『ほほう、グリエールに会えるのも楽しみじゃのう』
『はい。どんな人かドキドキしますね。燈はまだ戻ってきませんが大丈夫でしょうか』
『ぼく、もう戻ってるよ』
『ええっ? いつよ』
『ねぇねが玄関に入る前、家の中に入るとね、探さなきゃいけないからよかった』
『まったく、すぐ知らせてよね』
『ごめんなさい』
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




