第二十七回 回復魔法の初仕事
お目付役のトーマスのことを労っているように思える。彼を信頼していることも分かった。しかし、彼の言葉遣いからではどういう理由だか判断がつかない。そこがとても知りたい。気になる。
『ランドールさん、どうですか』
『住み込みの仕事じゃな、いいんじゃないかのう』
「……分かりました。泊まる場所もあれば助かります」
『燈花のそばに誰かいればな、わしも安心じゃからのう』
「話が成立したということいでいいのかしら?」
「はい。よろしくお願いします」
『屋敷の言葉を使うからにはな、それなりの広さがありそうだのう』
『そうですね』
『妖妖妖ビーム、たくさん練習したから大丈夫じゃな。そのビームとは何かのう?』
『あっ!』
「今は何とも言えないけど、主人と話し合って報酬は決めるわね」
報酬よりも住み込みで食事付き、今の私にとってはそれがいちばんのうま味だ。今の私は金貨をたくさん持っている。住み込みで給料までもらうと悪いような気がするが、丁稚奉公ではないようだ。
『妖が三回だと単純すぎるので、適当にビームという言葉を足したんです』
「……はい。よろしくお願いします。それで……仕事の期間はどれほどですか」
『なるほどのう』
「考えておくわ。トーマス、先にミズリーの家に寄ってくれない?」
「かしこまりました」
仕事の期間はスルーされたのですけど、どういうこと?
『ビームをつけると強そうな雰囲気が出ると思って』
「ミズリーは転んで利き腕を痛めてしまったのよ。燈花に見てもらいたい」
『確かにな、ビームの言葉に力が入っていたようじゃのう』
「……そうですか。分かりました。結果次第では……報酬が高くなるのですか」
少し遠慮がちにズバッと聞いてしまう。正社員になるつもりはないけど、臨時でも雇用条件は大事だよね。休暇とかどうなるのだろうか。
「まあ、そういうことね。燈花を疑うわけではないけど、実際に見れば主人にも説明がしやすい。雇う期間も自ずと決まってくる。今日はトーマスもいるのでね」
何ですかそれは? 雇用期間も含め腕次第だと言っているのよね。トーマスが彼女の証人になるわけね。初めて使う回復魔法だけど……大丈夫かな、少し心配。
表面の傷は見れば分かるけど、体内のは傷は分からない。落ち着いてやらなくては、先に話してもらってよかった。心の準備が出来る。わらわさん、頑張りますよ。
馬車がイースリッチョンの街に入っても、窓がないので町並みが観察できない。馬車を降りるのが楽しみなのだが、またもや一発目から試練が待ち受けているようだ。
「奥様、家の前に着きました」
「ありがとう」
トーマスが踏み台をセットしてくれたようで、私はリュックを背中に移動させ、彼女が先に降り、右手でらんらん棒を持ってから外に出る。彼女の身長は百六十センチほどだ。
道路から少し引っ込んだ場所に、二階建ての集合住宅のような木造の家が見える。周りは木立に囲まれている。彼女が道を渡って先に歩くのでそれに続く。トーマスは私の後ろから来ている模様。馬車は置きっ放しでも大丈夫なのよね。
「ミズリー、いるんでしょう」
ドアをノックすることもなく、彼女は右から二件目の玄関らしきドアに向かって話しかける。
道路に面した家の前面は、草が刈り込まれた庭みいな雰囲気だがフェンスがない。一階部分のドアは五個あるようだ。二階に登る階段が見えない。
「あっ、奥様」
右手の平を上向きにし、三角ずきんのような布で吊っている女性が出てきて、力弱く返事をする。
「中に入らせてくれる?」
「はい、どうぞ」
「チェリーはどうしたの、いないの? 右手の具合はどう? まだ痛むよね」
「はい。娘は買い物に行ってます。まだ痛みます。こちらにお座りください」
「ありがとう。いなくてちょうどよかったわ。彼女は燈花というのよ。王都で知り合ってね、仕事を手伝ってもらうことにしたのよ。燈花もトーマスも座って」
ミズリーは丸首の長袖の上着は黄緑がかった黄土色、足首を隠すような土色のゆったり目のスカートを着ている。そのスカートのひだを少し寄せて彼女も座る。
何だかスーランは、自分の家のように振る舞っているのですけどね。四人がけのテーブルと椅子が四脚、茶箪笥のような、戸棚のような物が二つある。その上が窓になっているようで、外側に開いてある。奥にキッチンらしき場所が見える。
「ありがとうございます」
「私は入り口の前に立ってます」
トーマスさんの顔が……マスクが取れている。梅宮辰?さんのような少し四角い顔、目鼻立ちもすっきりして私の好みです。おじさん、かっこいいよ。
「それでは、この椅子をそこに持っていって座りなさい」
「はい。ありがとうございます」
彼は言葉遣いからしてとても律儀な人だと思う。誰も入ってこないようにドアの看守をしてくれるようだ。
「燈花、ミズリーの顔色が悪いから、話す前に痛みを止めてあげて」
何歳か分からないが、私が見ても青白い顔をして老け顔である。ずっと痛みが続いていてると思われる。
「はい。一つ確認したいことがあります。指も腫れているようですが、こういう風に指が動きますか。痛いかもしれないけど軽くやってみてください」
指を開いたり閉じたりして動くかどうか確認する。骨折していると指が動かないような気ががよく分からない。ひびが入っているかもしれない。
彼女はそっと指を伸ばしたり曲げたりしているが、眉間にしわを寄せたような雰囲気で、動かすと痛いようだ。
「分かりました。動きますね。だいたいでいいですが、どの部分がいちばん痛いのか分かりますか」
「このあたりが……ずきずきします」
肘の下あたりを指さしているので、吊ってある布の中に右手を入れてから、妖精妖精ビームと言う。私の手の平が黄色く光る。光る。光る……五秒ほど経って光が消える。
「あーー、痛みが取れました」
そう言って立ち上がる彼女。痛みが取れたから光が消えたのだろうか。回復魔法の初仕事だけど成功してよかった。今回もビームはおまけみたいなのだが、私の発音から妖精の言葉を聞き取られるとまずいと思ったからだ。
「ほんとうに痛くなくないの?」
「はい。奥様……ありがとうございます」
「すごいわね。トーマス、見てたよね」
「はい。黄色く光ってました」
「私も黄色に見えた。間違いじゃないのね」
「念のために、手首から指にも当てますね」
私の手の平が黄色く光る。光る……三秒ほど経って光が消える。
「あーー、指の腫れがなくなりました。動かしても痛くないです」
彼女は満面の笑みを浮かべて、小刻みに足踏みをしている。
「終わりました……よかった」
終わってよかったというよりも、成功してホッとして口に出てしまう。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




