第二十六回 大陸の四季……神の時節
『ランドールさん、どういうことよ?』
『燈花がのう、折れないような堅めの金属と言ったからのう』
『……』
「……ええっと……人に頼んで造ってもらったのですけど……それは秘密です」
慌ててしまった。まったく、そんなに高価な金属なんて知らないじゃないのよ。驚き顔が丸出しになったじゃなのよ。わらわさんもなぜ教えてくれたのだろうか。
「……確かに言えないわ。でも……本物なのよね?」
彼女の顔は驚きというよりも、信じられないという顔をしている。高価な金属であるということは理解したが、ずっとらんらん棒を見ているようだ。
「……はい」
「燈花……ひょっとして……何か魔法が使えるの?」
がばっと顔を上げ真剣そうな眼差しでそう言う。彼女も魔法の言葉を知っているのだ。
「……ええっと……少し」
「その棒が……内部に力を秘めているの?」
内部に力を秘める、どういう意味なのかしら?
『ランドールさん、どう答えるの?』
『そうだと答えたほうがいいかのう』
彼はその意味を知っているのだ。どういうこと?
「……はい。この杖はらんらん棒と名付けました」
「とんでもない人を見つけたのね。トーマス」
彼女は私の視線を通り越し、左側の見えない御者台に視線を移し、少し大きな声でそう話しかける。
「奥様、街の門が見えてきました」
男の人だとしか意識がないのだが、彼の声の響きは感情をくみ取れない。二人はいつでもコンビなのだろうか。
「そう、今日は早く着いたわね。店に先に寄って」
「かしこまりました」
「何の魔法とか……教えてもらえないわよね」
『ランドールさん、教えてもいいの?』
『難しいのう』
ポンポン……《体力回復》
ポンポン……《妖妖だけ》
「あっ、はい。回復魔法を少しだけ」
「嘘、教会とつながりがあるの?」
「ないです」
今の時点ではない。ランドールさんと契約したので、何か関係がありそうな気がするが、そういうことははっきりと言葉にしたほうがいい。
「教会とつながりがないのなら、その魔法は隠しなさい。知られるとまずいわよ」
「えっ、そうなんですか。知りませんでした」
命令口調だが真剣そうな顔つきでそう説明してくれる。回復魔法を使うのが怖いような気がする。
『ある集落から飛び出したとな、それでわしと会ったと話すかのう』
「……今までどこに住んでたの?」
「……ある集落から飛び出してきたので、その名前は言えません。ごめんなさい」
「奥様、門を通過しました」
「そう、ありがとう」
「私は……その……よろしいのですか」
「この街に入ること?」
「はい」
「大丈夫よ。もう入ったから心配しないで」
「はい。ありがとうございます」
「身分を証明する物はないでしょう?」
『あるのう』
「……ええっと、ありますけど」
「あらそうなの、もう入ってしまったからいいわ」
この町に住んでいる商人なので顔パスになっているのだろうか。それとも、この馬車に商紋のような装飾が施してあるのだろうか。
『商人ギルドと冒険者ギルドに行くといいのう』
『ねぇね、街を探索してくるから、左手を何気なく背中に回してくれる』
「……ありがとうございます」
『分かった。光が見えないようにね。気をつけてよ』
『はい』
左手をローブの中に入れ、自分の背中をかくような仕草でもぞもぞと動かす。
「回復魔法も段階があるらしいけど、ある程度の怪我とかも直せるのよね」
「……はい」
「こういう風に言っては失礼だけど、すてきな拾い物をしたと言うのか、零れ幸いと言うのか、私はいい人と巡り合わせたみたいね」
「えっ、はい、ありがとうございます」
「どう、私の仕事を手伝わない?」
「ええっ?」
これまたストレートな言い方に困ってしまう。これって彼女の性格なのかしら? ぐだぐた言われるよりはいいけど。
「トーマス、いいでしょう?」
『商人だし少し手伝ってみるのもいいのかのう。色んな知識が身につきそうだしのう』
「はい。よろしいかと思います」
『このブレスレットが身分証明になるのですか』
『正門を入るときにな、右手を魔石に当てると分かるんじゃがな、通過してしまったからのう』
「トーマスがいいと言ってるから大丈夫よ。彼は私のお目付なのよ。主人が心配してね。私が少しせっかちだから調整役なの、彼は信用できるのよ。神の時節の出会いは永遠にって言葉がある。これは金一封ね」
何ですかその諺みたいな言葉は、金一封って賞金が出るの? 私、賞金首がかかっていたっけな?? ちょっと性急過ぎませんか。私の意見は聞かないのかしら?
『ほほう、今は神の季節かのう』
「奥様、それは男女の出会いのことを言い表す言葉ですが……」
「女同士でもいいのよ。トーマスは相変わらず堅苦しいわね」
「申し訳ございません」
何ですかこの会話は? 二人の関係が気になるんですけど。
「トーマス、お金は折半ね」
「かしこまりました。楽しみです」
彼までも、どうなっているの?
『ランドールさん、神の時節とは何ですか』
『神が祝福してくれてな、寒くて雪の降る季節からだんだんと暖かくなる時期のことだのう。神の時節、夏の時節、実りの時節、冬の時節というからのう』
ずっと動いていたので寒さを感じなかった。今は春なんだ。寒くもなく暑くもなく、燈の買ってきたこのローブは薄手なのに、風も通さないし快適だ。真冬には私の着ていたスキーウエアのコートがある。前回みたいに寝る場合に上から羽織ればいい。
『分かりました』
『商人ギルドと冒険者ギルドのことはな、寝る前にでも説明するかのう』
「私が王都に行ったのはね、主人の代理なのよ。主人の名前はグリエール。私はいつもエールとしか呼ばないけど、また王都に行くかもしれない。今度は燈花といっしょに行こうかしらね。そういう餌をまいて……あなたを引き込みたいけど、どう?」
またもや担当直入のような、痛いところを突いてきますねぇ。ずっと彼女を見ていると、二重で目が大きくて鼻筋も高くて美人タイプ。彼女の大きな目と言葉遣いに吸い込まれそうなんですけど。
せっかちな性格は理解できたような。こうやってダイレクトに話しかけられると、うだうだという上司から離れたかったから気分はいい。最初だけかもしれないけど仕事の内容次第なのかな?
「仕事は何をすればいいのですか。私に出来ればいいけど……それが心配です」
「屋敷で寝泊まりして食事付き、仕事は私の護衛よ。そうすればトーマスが楽になるから、私が出かける場合にそばにいてくれる?」
宿泊する場所まで提供され、三食昼寝つきとは言わないけど、私の立場をよく理解している言葉だと思う。商売人だから口がうまいのかな?
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




