第二十四回 王都から直通の街道あり
『王国と帝国の境界線であるセーデン都市はな、特別な自治区なっとるがな、セーデン都市の西側の支配体制が帝国軍、東側の支配体制が王国軍と言われておるのう』
今度は軍隊の話だよ。境界線は山とか河だと思ったのに都市だなんて、両国間は仲良しなのかしら? お互いの貿易都市みたいな存在なのだろうか。
『王国と公国の境界線であるトーデン都市もな、特別な自治区じゃのう。東側の支配体制が公国軍、西側の支配体制が王国軍と言われておるのう』
東側も同じような都市があるのね。
『王国と共和国の境界線であるホーデン都市もな、特別な自治区になっとる。北側の支配体制が共和国軍、南側が支配体制が王国軍と言われておるのう』
北側にもあるのね。何百キロくらい離れているのだろうか。言葉だけでは距離感覚が理解できない。
『この三大都市はな、お互いの国境都市とも商業都市とも呼べる立ち位置になるのう。王国側からすると、その三大都市の奥に広がる広大な土地が相手国になるのう』
『……なるほど』
『王都から西部の帝国、東部の公国、北部の共和国へ行くにはな、直通の街道があるんじゃよ。当然ながらその街道から派生している路はな、数が知れんがのう』
他の場所は分からないが、王国からすれば他国に囲まれているのではなく、直通の街道は商業みたいに商品の流通が担われているのね。
それって大いに進化しているような気がするが、流通の過程が悪いのかしら? 輸送に問題があるのだろうな。問屋さんが馬車移動では時間がかかるし値段が高くなるよね。
『王都近辺では整備された街道じゃがな、その曲がりくねった街道沿いに大小の地方都市があってな、その地方都市は街、集落、村落を従えとるんじゃな』
従えているということは、税金を徴収しているということかしら? 王都はその地方都市から税金を集めていると考えられる。王国はその街道だけを治めていればいいのかしら? 税金の流れは大事な出来事だよね。
『イースリッチョンは街ですから、地方都市ではないのですね』
『街道沿い以外は大きくても小さくても街じゃな。地方都市とは区別しているからのう』
この三本の街道以外は栄えてないということなのかしら? 住んでいる人口は関係ないのだろうか。日本のように人口が五万人以上で市と呼ばれ、合併すれば三万五千人以上で市になる。街、集落、村落が、日本の市町村的な区別なのだろうか。
『その地方都市の近辺の街道も整備されておるがな、王国軍や都市独自の私兵たちで管理しておるのう。これは二百年ほど前の話じゃからな、今はどうなっているのかのう』
この説明は二百年前の話だとしても、王国側から見た現状のようだ。ランドールさんは王国の人間だということになるよね。
『その街道の途中にあるな、低い山や高い山の谷間を通る路、小さな森林を突き抜けるような路、大きな森林を迂回するような路、緩やかな流れの河に架けられた橋、曲がりくねったその街道の突き当たりがな、セーデン都市、トーデン都市、ホーデン都市へとつながっとるのう』
その街道を通り、私にその都市に行けと言っているのだろうか。燈がその街道の上空を飛んでいくと、間違いなくたどり着ける。地方都市の大きさもイースリッチョンの街と比較すると、その規模が理解できそうだ。
『西側の帝国と北側の共和国を遮るようにな、山脈のような高い山並みが続き境界線を果たしている地域があってな、帝国軍の管轄であるサーラス都市というがあるのう』
まだ都市があるのですか。帝国軍の管轄でもサーラス都市のことを話すから、何か意味ありげな気がするけど、名のある都市なのだろうか。
『東側にもな、北側の共和国を遮るようにな山脈があってな、その境界線を公国軍が管理しているのう。そこにはマーチョン都市が存在するんじゃよ』
地理の時間が長すぎますよ。以前、日本にあった五大都市とか六大都市に当たるのだろうか。今では政令指定都市と呼ばれているが、大陸的に考えると、そういう存在と同じに考えてもいいのだろうか。
『後ろから二頭立ての馬車の音が聞こえるのう』
『馬車ですか。イースリッチョンの街に行くのかしらね。速度が分からないので今のうちに避けますね』
そう言ってから後ろを振り向くと、二頭の馬の真ん中あたりの御者台に、男性らしき人物が手綱を持っているのが確認出来る。フードをかぶり鼻までマスクで覆われているので、はっきりとは顔が見えないが、視線が一瞬合ったように感じる。
その馬車が私を通り越したので真後ろから見ると、二人しか座れないような横幅で、縦長の長方形のような箱形の馬車、なぜだか徐々に減速して停まる。距離にして五十メートルほど先。
『ランドールさん、馬車が停まりましたよ。どうしたのかしら?』
『分からんのう』
「そこのあなた、イースリッチョンの街に行くのかしら?」
真後ろの窓を開けたみたいで顔だけ出し、女の人が私に視線を合わせて話しかける。
「……ええっと、私のことですか?」
「そうよ、町に行くなら乗せましょうか?」
『ランドールさん、どうしましょうか』
『大丈夫じゃろう。乗せてもらうといいかのう』
「……はい、ありがとうございます」
向こうも少し大きな声で話しているようにも聞こえるので、私も少し声を張り上げて答えてしまう。
少し小走りで馬車に近づくと、その女性はドアを押し開けてくれ、御者台から男性が降りてきて足場の台を置いてくれる。
「ありがとうございます」
ローブの中で背中のリュックを前に移動させて肩にかけ、その馬車の中に入る。
「そっちに座って」
「はい。ありがとうございます」
私は御者台を背にして座る。らんらん棒が膝の上に真横で置ける広さ。彼女の視線はらんらん棒を見て、それから私の左肩の先に視線を移す。
「馬車を出してもいいわよ」
「かしこまりました」
初めて聞く彼の声の響きは、口元が隠してあったからか、年配者のような気がする。
「あなたの左肩の横に窓があるの、そこから話しかけるのよ」
「あっ、そうなんですか」
「私の名前はスーランよ。あなたの名前を聞いてもいのかしら?」
私に視線を戻した彼女はそう聞いてくる。燈花の名前を教えてもいいのだろうか、と一瞬悩む。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




