12話 ライブハウス
わたしは彼と共に中央駅近くにある、小さなライブハウスに来ていた。彼がお世話になっているバンドメンバーの一人が今日のライブに出演するらしい。
ここから彼は本格的に星空フェスティバルの準備が始まり、ほとんど時間がとれなくなることはわかっていた。だからこそわたしもついて行くことにした。
ライブハウスなんて初めてきたなあ……
今までいくつかのライブは行ったことがあったが、ドームやアリーナといった巨大な会場でのライブであり、このような小規模なライブハウスに行くのは初めてだった。
「ここでドリンク受け取って」
ライブハウスには慣れている彼のおかげで、挙動不審になりながらも何とか一つ一つこなしていく。
ふっと照明が落とされ、爆音と共にライブは始まった。
ギターの音と共に、一気にバンドの世界の中に引きずり込まれた。バンドと客席の一体感、これはアリーナやドームといった会場では感じられないものだろう。
「だからライブハウスって好きなんだよね」
そう語る彼の顔は、まるで少年のようにきらきらしていた。
「わかる気がする……」
彼もそうだが、音楽をやっている人たちはステージに立っているときが一番輝いている。前方の強烈な輝き、そしてわたしを包む爆音や観客の熱気、わたし自身がまるでライブハウスと一体になっていくような感覚を覚えた。
熱い……!
気がつけばわたしは汗だくになっていた。
彼の知り合いのバンドは今日のトリらしい。企画ライブというやつだ。
そして、最後のバンドの出番が終わったとき、事件は起こった。
なんとさっきまで横にいた、彼がステージに立っているのだ。
「今日はなんともう一個! スペシャルゲストがいるぜ!!」
そうバンドから紹介があると、彼はギターと共にマイクの前へと立った。
「実はね、今日はサプライズで、出演させていただくことになりました」
客席も彼のことはよく知っているのだろう。少しパニックになりかけていた。
「今日はアコギ一本で歌うけど、本番はバンド編成でやるので、よかったら来てください」
客席からは行くよ-!という声がたくさん上がっていた。
ライブハウスで歌う彼は今まで以上に輝いて見えた。そしてステージの上でスポットライトに照らされ歌う彼を見て、わたしは彼がまた遠くに行ってしまったような感覚を覚えた。
ライブ終了後、パニックになったライブハウスを二人でこっそりと抜け、中央駅まで戻る。
「どうだった?」
彼はしてやったり顔でわたしの方にほほえんだ。
「今までで一番、最高だった」
そう言った後、わたしはいてもたってもいられなくなり
「ねえ、観覧車乗りたいな」
彼が遠くに行ってしまったような感覚をどうしても忘れられないでいた。
観覧車は中央駅からすぐ、3番街の方角にあった。おそらく、スタードームの内部も全部見渡せるであろう位にでかい観覧車は、巨大ビジョンと共に、中央駅のシンボルとなっていた。
二人を乗せた観覧者はゆっくりと上昇していく。
「あそこらへんがマンションかなあ?」
そんな他愛のない会話しかできなかった。どうしてもあの感情がぬぐえない。
「ねえ、キミは遠くに行ってしまわないよね?」
我ながらつまらないことをいってしまった。彼はカミカクシのことだと思ったのだろうか、
「わからないなあ、君が先に消えてしまうかもしれないしね」
と笑いながら言った。
「消えるなら、一緒がいいなあ……」
わたしは思わず小さな声で呟いてしまった、が彼はよく聞こえていなかったようだ。
「なんか言った?」
「なーんにも!」
こんな日常がいつまでも続いてほしい。わたしはそう思った。




