13話 イチニチショチョウ
その日、わたしは一日署長の仕事で警察署を訪れていた。
「四条 渚です。 本日はよろしくお願いいたします」
ベテランの警察官とその隣には顔見知りということで篤も同席していた。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。 渚さんの担当はうちの堀川ですので、何かあれば彼に聞いてください」
今日のわたしの世話係は篤のようだ。その方がお互いやりやすいと踏んだのだろう。
「とりあえずは署長室にいって任命式だね。 その後は、午前中は安全パレードがあるから、そっちに出てもらいたい。 午後からは一緒にパトロールだ」
篤の説明は整理されており、非常にわかりやすかった。
任命式を終えたわたしは、警察の制服のまま、安全パレードへと向かう。このイベントは、奴らが出たとき、どう対応すべきかをロールプレイのような形で、アピールするような中身となっていた。わたしはなぜか、ロールプレイの間、警察の制服から、魔法少女のコスチュームに着替えさせられていた。何のプレイだったのだろうか。
お昼休憩ののち、パトロールへと向かう。篤の所属する、地域安全課第3係は主に街の東部を担当しており、天女横丁や吹きだまりの街とは駅を挟んで反対側の方であった。東側はオフィス街や住宅地が広がっており、治安は良い地域であった。
パトカーには女性警察官、篤、そしてわたしの3人が乗っていた。女性警察官にしてくれたのはこれもわたしを気遣ってのことだろう。
街は平和そのものだった。そうして、1時間ほどパトロールをした後、署に向けて帰る途中、警察無線がなった。
「南部地区、臨海コンビナート区域にて例の奴の目撃情報あり、女性1名が被害に遭った模様、応援可能な車は至急向かわれたし」
「堀川了解」
篤はそう無線に返信した。そしてわたしたちは目撃現場へと応援に向かった。
臨海コンビナートは工場や大量のコンテナにより、海側にもかかわらずどこか閉塞感を感じる場所だった。先に現場にいた警察官によると、被害女性の保護はしたものの、奴はコンテナに紛れ、まだ行方がわかっていないらしい。
被害が出ている以上、放置しておく訳にもいかないので、わたしたちはいくつかのチームに分かれ探すことにした。わたしは篤と2人で探索へと向かった。
「何で篤君って警察官になろうと思ったの?」
わたしは前から気になっていたことを聞いてみた。
「昔、同級生がいじめられててね、どうしても見てられなかったのが、一番かな……」
そう答えた篤の顔は少し思い詰めたような表情だった。わたしはこれ以上詮索するのはお互いにとって良いことがないと察し、この話題を切り上げた。
「ナギサちゃんは、何で魔法が使えるようになりたいと願ったの?」
篤からの質問はわたしの傷をクリティカルにえぐってきた。
「いやあ…… まあ……」
何とかはぐらかせないものかと画策していると無線から連絡が入った。西部にて対象発見と。わたしたちは奴が見つかった方へ向かおうとした。しかし、それはわたしたちの目の前に突然に現れた。
「対象もう一体確認、東部です」
篤が無線に連絡を入れた。奴は一体だけではなかった。
「ここは工場がたくさんある、炎はだめだ」
確かに炎が工場に引火しようものなら、大惨事になる。炎は使えない。どうしたものか。そう考えていると、奴は素早くこちらへと攻撃を仕掛けてきた。
ぎりぎりのところで何とかかわせた。
――なんか前より強くなってない?
前に出会った奴らはゾンビのような鈍い動きであったが、今回の奴は早い。そして前より知性が上がっているのだろうか、こちらの動きを先読みしたような攻撃を繰り出してくる。
「ねえ、どうしたらいいの!!」
篤に尋ねた。
「考える! ちょっと時間をくれ!」
時間をくれと言われても……
炎がだめなら……?水……?
目の前は海であるため、水はたくさんある。しかし、水でどう攻撃をするというのだ。
奴はうめき声を上げながらこちらに攻撃を続ける。
奴の切り裂くような攻撃を何とかぎりぎりのところでかわす。
風を切るような音が伝わってくる。
風……?
わたしは一つのアイディアを思いついた。
「篤君、この作戦じゃだめかな?」
篤はわたしの作戦を聞くと力強く頷いた。
「やってみよう、俺が奴を引き付ける」
「海側に何とか誘導して……!」
「了解。 ただし…… 失敗はするなよ」
彼は笑いながらわたしに言った。わかっている。でも他に手段は思いつかなかった。
篤は地面に転がっていた鉄パイプを拾うと、奴に接近戦を挑んだ。
鉄パイプで攻撃するも、奴に効いているようなそぶりは見られなかった。
「ぐっ……」
どちらかというと、奴の攻撃を鉄パイプで防ぐのが精一杯だった。
少しでも油断をすると、無事では済まないだろう。
篤はぎりぎりのところで攻撃を防ぎながら、何とか奴をポイントまで誘導した。
わたしは風に意識を集中する。
そして、全力で奴を海上へと飛ばす。
奴はわたしの魔法により、海に向かって大きく宙を舞った。
――いける
わたしは奴に向けて全力で炎を放つ。
そして、奴は炎に包まれ、海へと落下していった。
「やったな!」
篤は笑顔でこちらへと寄ってきた。何とか成功したが、明らかに奴は前より強くなっていた。そしてわたしはふと思い出す。
「もう一体の方は……?」
篤も失念していたのだろう。さっきまでの笑顔は消え去り、再び険しい顔へと戻った。
「行くぞ!」
こうしてわたしと篤はもう一体の応援へと向かった。




