ティルフィーネ・エヴァ・バケンティアの奮闘記 8
「ねえ、ティティ! クラウスを篭絡したりとかしませんこと?」
しばらくアヴェリナのクラウスへの愚痴を聞いていたティルフィーネは、思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。
何とか堪えて、平静を装うために深呼吸をしてから言葉を返す。
「アヴェリナ様、そんなこと言っていいのですか」
「男なんてみんな単純なのよ、ちょっと過激な服で誘ったら、存外単純に落ちるのでなくて?」
「なっ! あのクラウス様がそれで靡くとでも?」
「思わないわ! でも可憐で純真なキュリエが誤解すればチャンスはあると思ってよ」
なるほど、それは一理ある。
クラウスはキュリエに対して愛を隠さない人だから、ティルフィーネが頑張って色仕掛けしようとこちらを見ることは無いだろう。……自分で言っていてだいぶ傷つくが、純然たる事実である。
だが、キュリエはそうじゃない。
どこかいつも自信なさげなキュリエ。その彼女がクラウスの愛を疑うなら、付け入るスキはあるだろう。
……だが、
「それだと間違いなくキュリエ様が傷つかれますよね」
「「うっ」」
アヴェリナもティルフィーネも、侍女サラのその言葉に声を詰まらせる。
チャンスはほしいが、2人は決してキュリエに傷ついてほしいわけではないのだ。
「何かいい方法はないの! サラ!」
「そうですねぇ、流行りの悪役令嬢の定番でしたら、人を使ってキュリエ様の持ち物に嫌がらせをしたり、階段から突き落としたりして心を挫くとか……」
「「そんな酷いことできるわけないでしょ」」
「でしょうね」
こうして、今日もまたティルフィーネはクラウスを諦める理由ができないまま日々を過ごしていった。




