46、マジックボックス
「それで、マジックボックスを買おうと思うんだけど……」
夕食後、ダイニングテーブルの対面にはスザンヌ。あまり良い顔をしていない。
「まあ、トウヤさんのお金ですし、トウヤさんの自由にしても……」
目を合わせずに彼女は窓の外を見ている。夜空には二つの月が浮かんでいた。
「マジックボックスがあればユンボとかを日本から持ってくることができるんだ。それを使えば、この家のリフォームが簡単になるんだよ」
ユンボとはショベルカーの様な物で、家庭用の小型ユンボもある。
「そうなんですか」
「うん、今よりも快適な生活ができるんだよね。風呂で温水シャワーとかも使えるんだ」
「シャワー?」
ああ、この異世界にはシャワーがないのか。
「とにかく、お金も貯まったんだから、少しくらい使ってもいいよね、スザンヌ」
「別に、ダメとは言っていないでしょ」
彼女は顔を伏せて上目遣いで僕を見ている。
3輪バギーを奪おうとした悪党から抜き取ったスキルは、ギルドに持って行ったら三千五百万ペセタで売れた。それによって貯金の合計は七千五百万ペセタになった。そのうちの一千万ペセタでマジックボックスを買っても残りは六千五百万ある。
あれから、あの悪党達の話は聞かない。
どこかに逃げたのか。それとも、復讐を胸に抱いて僕達を襲う準備をしているのか。はたまた、行き倒れになってキングボアに食べられてしまったのか。
日本と違って、死体が発見されてもギルドが捜査などはしない。家族から捜索依頼が出されていれば、それと照合するだけ。何の手がかりもない身元不明なら無縁墓地に直行だ。
井上からドレインした工事関連のスキルは売っていない。それは僕に、しっくりとなじんでいるし、スザンヌの家のリフォームに活用したいと思っているのだ。
リフォームのスキルなどは後天的なものなので、なくなったとしても再度、習得することができる。井上も新人になったつもりで、仕事を憶えれば良いのだ。
「じゃあ、町に行ってマジックボックスを買うことにするよ。一緒に行ってくれるかな……、スザンヌ」
「ええ、いいですよ」
言葉に今までのような優しさがない。
今まで苦労してきたスザンヌは、安直にお金を使うのが嫌なのだろう。まだ、借金を返していないし。
「まあ、スザンヌの気が進まないのなら無理にとは言わないんだけど……」
彼女は顔を上げ、少し上体を反らす。胸の膨らみが強調されて僕の視線をわしづかみにするが、これはマズいと思って無理に横を向く。
「だから、トウヤさんに反対していないって言ってるでしょ」
いつもの、にこやかな顔に戻っている。
「トウヤさんは私達のことを思ってマジックボックスを買おうとしているんですよね」
「うん……」
「これからも私達を幸せにしてくださいね」
笑顔を向けられたので僕は首をウンウンウンと三回、縦に振った。
翌朝、皆で町にいった。
マジックボックスはギルドの特殊販売店で売っている。
大金貨が入った袋をカウンターに出すと受付のお姉さんは驚いた表情で僕を見ていた。
マジックボックスの様に高価な物を買う人は、さすがに珍しいよう。
もっと安い小容量のボックスもあるのだが、トラックなどの大きな物を日本から持ってくる可能性もある。将来のことを考えると奮発するべきだと思ったのだ。
それはトランクの形をしていて色は黒、手提げ用の取っ手が付いている。持ってみると結構ズッシリとしている。十キロくらいあるだろうか。
蓋を開けると漆黒の空間になっている。そこに手を入れると危険らしい。それはメンテナンス用で、普段は開ける必要がない。使うときは、収納する物体を念じるとボックスに入れることができる。出すときは、収納されている物を頭に思い描くと、それを外に出すことができるそうだ。
ボックスに収納すると、その物体の重さは消える。
家を三軒ほど入れることができる容量があって、生物は入れることができない。ただ、死体や野菜などは入れることができる。また、中の時間は停止していて、肉を入れたとしても腐ることはない。
ほんとに便利な魔法グッズだ。
食堂で昼食を食べてから山の家に帰る。
ダイニングでコーヒーを飲みながら、この家のリフォームを考えているとクリスがやってきた。
「お兄ちゃん。これ何?」
彼女が持っているのは紺色の衣類。
「それは……水着だなあ……」
それは古いタイプのスクール水着だった。
以前、叔父さんの会社に行ったとき、秘書のお姉さんからスザンヌ達へのプレゼントとして大量の衣類をもらったのだ。それにはメイド服やコスプレ衣装などもたくさん入っていた。
あの秘書さんは、どのような生活を送ってきたのだろうか。
「これが水着なの?」
クリスは水着を手で広げて、しげしげと見ている。
この異世界にも海は存在して、海水浴という行事もある。ここにも四季があって、夏になると家族連れで馬車に乗り、海に行くそうだ。
ただ、水着は男女ともにTシャツに短パンという物らしい。
「ちょっと着てみようかな」
そう言ってクリスはスザンヌの部屋に入っていく。
僕はコーヒーをチビチビ飲みながらクリスの水着姿を想像する。
「お兄ちゃん、ちょっと来て」
クリスの呼ぶ声がしたのでドアを開けて中に入る。
そこではスザンヌが花柄の三角ビキニを装着しており、そのトップのヒモをクリスが結んでいる最中だった。
「お兄ちゃん、これはどうやって結ぶの?」
そう言うクリスはスクール水着だ。二人ともインナーを使っていないのか、体の起伏があからさまで、まるで裸を見ているよう。
「お兄ちゃんが結んでみてよ」
「キャ!」
クリスが手を放したのでトップが外れそうになり、慌ててスザンヌがカップを押さえる。
「もう、クリスったら……仕方ないですね。トウヤさん、結んでもらえます」
そう言って僕に背中を向ける。
均整の取れた体。肩は細くてウェストがくびれている。お尻はツンと上を向いていた。
僕はスザンヌに近寄る。ほとんど裸の女性の背後に僕は立っているのだ。華奢で細い肩。トップの肩紐を持ち、指を振るわせながら、彼女のうなじの所でチョウチョ結びをした。
「これでいいかな、キツくない?」
女性の水着の紐を結んだのは、僕の人生で初めてのこと。体が熱くなって背中に汗をかいていた。
「大丈夫ですよ。この水着だったら少しキツイ方が、ずれなくて良いと思います」
そう言ってカップの位置を調整している。
「でも、お兄ちゃん。ニホンの水着って大胆だね」
そう言って、食い込んでいる尻の部分の布地を引っ張っていた。
彼女は15歳になっている。胸も膨らんできて水着がキツそう。
「トウヤさん、こんな水着姿を人前にさらしてニホンの女性は恥ずかしくないのでしょうか」
「うーん、まあ、そういった歴史と文化だから……」
僕としては見ているだけで恥ずかしいと思う。そして、そんな水着姿のスザンヌを他の男に見せたくない。
「どうですか、トウヤさん」
スザンヌが僕のほうを向き、両手を後ろに回して少しかがむ。水着の面積が小さくて、ほとんどの肌が露出している。ボインバインの胸が強調されているのは彼女の計算か。
「ああ、いいよ。良く似合っているですよ」
ああ、動揺しているのが自分でもわかる。直視できなくて視線がウロウロしていいた。
「もう、トウヤさん。もっと、ちゃんと見てくださいよぉ」
そう言って腰をよじる。僕は視覚から触感を覚えるほどにドキドキした。
「クリスの方も見てよ」
そう言うとラインダンスのように交互に足を上げる。
「ああ、クリスも良く似合っているよ。でも、もう少しサイズが大きくても良かったかなあ」
スクール水着は似合いすぎるほど似合っているのだが、ところどころ食い込んでいるので窮屈そうだ。
「うん、そうだね。じゃあ、もっと大きな水着を探してみようっと」
クリスは部屋の隅に置いてあった段ボールの中をかき回し始める。
箱にはメイド服など、様々な衣類が入っていた。
「これ、面白そう!」
取り出したのは赤いマイクロビキニ。
クリスはスクール水着を脱ぎだす。
「ちょっと、クリス。待ちなさい」
スザンヌがクリスの手をつかむ。
「え、何? お姉ちゃんが着るの?」
「あ、いや、そうじゃないけど」
スザンヌがチラリと僕を見る。
「あ、僕、外に出てるね」
心拍数がレッドゾーンに近づいている。僕はドアを開けて外に出た。




