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40,破格

 異世界の雪は日本のそれと違わない。

 リフローの町に行くために外に出ると森は雪景色だった。


 割と寒いので日本のジャケットを着て、その上に異世界のオーバーコートをはおる。

 日本の服は異世界で目立つので、町では大っぴらに見せるわけにはいかない。


 冬になると薬草を採取することができないので、もっぱら砂糖の販売をするために町に行くのだ。

 3輪バギーは僕が運転し、後部座席にスザンヌが座る。後ろに繋いでいるリヤカーには荷物を載せており、その隙間にクリスが座っていた。


「じゃあ、行くよ」


 僕はバギーのエンジンを始動させる。


「ええ、トウヤさん。」


 スザンヌが僕に抱きつく。

 僕は町に向かってバギーを走らせた。


 雪道だが、タイヤは溝の深い物だし4輪駆動なのでスタックせずに町の近くに行くことができた。

 茂みにバギーを隠し、リヤカー引いて門を通った。


 いつものようにギルドの砂糖を納めて代金をもらう。それは定額の100万ペセタだ。

 僕は500万ペセタ分の金貨があり、スザンヌの金貨と合わせると約1000万ペセタになる。借金の5000万ペセタには遠いが、頑張って稼がなければ。


 それから、ギルド内の広間の一角を借りて露店を出す。外には雪が残っているので、店を出しにくい。

 日本から持ってきた食器などを並べた。


 まばらにしか客は来ないので、店をクリスに任せて僕とスザンヌはエナジー買い取りの部屋に行った。


 部屋に入ると、いつものお姉さんがカウンターに出てくる。


「いらっしゃいませ。エナジーの販売ですか」


「そうです」


 僕が答えると、いつもの水晶玉がカウンターに置かれた。


「じゃあ」


 僕は玉に手をかざし、盗賊から奪ったエナジーを移す。


「あれっ」


 前と違う。今回は水晶玉が白く輝いている。

 職員のお姉さんの顔色が変わった。


「あの、トウヤ君。このエナジーは、どこから手に入れたんですか」


 職員の問いに言葉が詰まる。何と答えればよいのか。まさか、盗賊から吸い取ったと答える訳にもいかないだろうな。


「それは答えなければならないんですか」


 そんなことを今まで聞かれたことがない。


「いえ、入手経路を確認するという規則はありません。でも……」


 お姉さんの顔が曇っている。そんなに特殊なエナジーだったのか。

 スザンヌが前に出た。


「いつもは余計な詮索をしませんよね。とりあえず値段を教えてもらえませんか」


「そうですね……上司に確認しなければなりませんが、おおよそ……3000万ペセタになるかと……」


 僕とスザンヌは絶句した。聞き間違いじゃないよな。3人分だから、盗賊一人当たり1000万ペセタということになる。秀才から吸い取ったスキルよりも高いのか。


「どうして、そんなに高いのですか」


 僕が聞く。あまりにも破格な値段だ。


「これは通常のエナジーではなく、生命力の根源的なエナジーなんです。生きるためのエナジーを生み出す源のようなものだと思うんですよ」


 そんなに重要なエナジーだったのか。扉の奥には生命力の根源的なものが隠されていたんだ。だから、あんなにも盗賊達はドレインを嫌がったのか。

 お姉さんは小さく首を振る。


「こんなものは見たことがありません。ドレイン能力については良く分かっていないので、この白いエナジーについても何なのかは分かりません。ただ、容易には手に入らない、とても貴重なものとしか……」


「そうなんですか……」


 僕は盗賊から何を奪ってしまったのだろう。

 もしかしたら、寿命のようなものを吸い取ったのか。半分以上を抜き取ったから、その分だけ早く死んでしまうのか。だったら、それは死神と同じではないか。そのようなものを人間が持っていて良いはずがない。


 いったい僕は何に変わってしまったのだろう。


「それで、買い取っていただけるんですか」


 スザンヌが端的に言った。


「ええ、このような貴重なエナジーを売っていただければ、こちらとしてもありがたいのですが……本当に売ってもよろしいのでしょうか」


 こんなことは今まで聞かれたことがない。いつもは、売れ、売れ、売ってくれといった感じなのだ。


「はい、売ります。いいですよね、トウヤさん」


 いつもスザンヌは迷いがない。しかし、僕はためらっている。

 だからと言って、このエナジーを盗賊たちに返す気はない。彼らは死んでも構わないと覚悟を決めていたのだ。


 もう、後戻りはできない。後戻りをする気もない。


「トウヤさん……」


 大きな目を細めて僕を見るスザンヌ。ここで迷っても仕方がない。


「分かりました。売ります、売ることにします」


 もう、迷っている場合じゃないんだ。例え盗賊たちの命を売るという事だったとしても後悔はしない。もう、決めたことなんだ。


「じゃあ、上司に確認してきますから……。でも、本当に……。あ、いえ、何でもありません」


 お姉さんは水晶玉を持って奥に入っていく。

 しばらく待っていると、彼女は重そうな布袋を持って戻ってきた。

 テーブルに袋を置くとジャラッという金属音。お姉さんが袋を開けると中には大金貨が詰まっている。


「大金貨が300枚で3000万ペセタです。この金額で、よろしいですよね。どうぞ、お確かめください」


 事務的な声と態度。さっきまでの動揺した表情ではない。上司に何か言われたのだろうか。

 僕たちは金貨を数えることもせずに、布袋を持って部屋を出た。


「すごいです、トウヤさん。こんなに高く売れるなんて。あんな盗賊たちでも役に立つんですね」


 屈託のない笑顔だ。本当にスザンヌには迷いがないよな。


「ああ、これで、預金は4000万ペセタになる。もう少し頑張れば借金を返すことができるよね」


 僕は金貨の袋をショルダーバッグに入れた。誰かに監視されているような気がするのは、宝くじに当たった人の心理状態になっているのだろう。


 とにかく、大金を手に入れた。まずはスザンヌの借金を返さなければ。そのためには何だってやるんだ。他人のことよりも、まずは自分たちのことを考えるのだ。


 店に戻ると商品は完売していた。

 3人でなじみの食堂に行き、少し贅沢な夕食を食べる。そして、買い物を済ませてから踊る心で家に向かった。


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