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39、春から夏

 北海道に放置してある3輪バギーを回収することにした。

 盗賊を置いてきた場所から数キロも離れているので、関係があるとは思われないだろうが、念のために引き取った方が良いだろう。


 盗賊達の件はニュースになっていない。

 見つかればテレビで報道されるだろうから、騒ぎになっていないということは、そういったことなのだろうな。


 飛行機で北海道に行き、小型トラックをレンタルした。

 バギーを隠してある、停留所まで行ってトラックにバニーとリヤカーを乗せる。リフト付のトラックなので比較的簡単に乗せることができた。

 見えないように荷台をシートで覆う。しっかりと固定してから本州に向かって出発。


 高速道路を通って港に向かった。

 ETCカードは叔父さんから借りている。高速道路を走るのは怖かったので、ゆっくりと運転した。


 フェリーに乗るのは初めてのこと。

 青森に着いてから高速を通って基地に向かう。

 おばあちゃんの家にバギーなどを下ろしてから最寄りのレンタカー取次店にトラックを返却した。



  *



 スザンヌの家のセキュリティを強化した。

 柵を少し高くして、赤外線警報器をセットする。人間が近寄ると家に設置した警報装置が鳴る仕組みだ。


 赤外線監視カメラも取り付けたし、ピストル型のスタンガンも手に入れた。

 電化製品が増えたので、充電バッテリーを追加した。

 多額のお金を使ったが、安全のためなら仕方がない。



 自室でイスに座り、窓を見ると外は雪景色。かなり白くなっている。

 町はそれほどでもないが、山の中はけっこう雪が積もるらしい。


 バニーのタイヤを荒れ地用の物に換えているが、それでも雪の山道を行くのは厳しいかな。

 バギーにはシートを掛けていて、それに雪が積もりだしている。それを見ながらボンヤリと考えていた。


 ノックの音。


「トウヤさん、いいですか」


「ああ、いいよ」


 スザンヌが入ってきた。彼女はドアを閉めて鍵をかける。そして、いつものようにベッドに腰掛けた。


「クリスは何をしてるの?」


「あの子はゲームをやっていますよ。それに夢中で、ずっとゲームで遊んでいます」


 そうか、古いゲームソフトなのだが、気に入ってくれたか。


「トウヤさんはニホンに彼女とか、いないですよね」


「えっ、いないよ、いない。僕はボッチだから……」


 スザンヌの問いかけに反射的に答えた。なぜか頭に清水美代子さんの顔が浮かぶ。

 でも、どうして、今さらそんなことを聞くのかな……。


「良かった」


 微笑むと僕に向かって手招きをする。

 いつものパターン。胸を高鳴らせてスザンヌの隣に座った。


「トウヤさんには感謝しているんです」


 そう言って僕の手を握る。


「そんな、感謝なんて……」


「何かお礼をしなければと思っているんですが、私は何も持っていなくて……」


「だから、その必要はないよ。僕はスザンヌ達と一緒に過ごしているだけで幸せなんだ」


 それは本心だ。異世界でスザンヌと出会ったことで本当の自分の人生を見つけたような気がする。


「でも、それでは……」


 彼女はうつむき、握っていた手に力がこもる。


「だから、トウヤさんには私をあげても良いと思っているんです」


 そう言って僕を見つめ、顔を赤くして視線を下げた。

 しばらくの沈黙。ファンヒーターの動作音が部屋に漂う。


「盗賊に襲われたときに思ったんです。こんなことならトウヤさんに私の初めてをあげておけば良かったって……」


 体が熱くなって硬直した。

 彼女は僕の右手を両手で握り、自分の胸に押し当てる。


「今までトウヤさんを利用しているようで心苦しかったんです。だから、トウヤさん……私を自由にしても……」


 泣きそうな目で僕を見つめている。二人の呼吸が荒い。


 そうだよな。盗賊に奪われるくらいなら……。僕はスザンヌを誰にも渡したくない。他の男に触らせるのも嫌だ。彼女は僕のものだ、僕だけのものなんだ。


 暗がりで見た彼女の裸体が頭に浮かぶ。そこから拡大的に全裸を想像して血液が沸騰する感じになった。それが自分のものになると知り、興奮と歓喜が渦を巻いて僕を飲み込む。


 だが、それでいいのか……。


 彼女との付き合いは割と短い。そんなに性急に距離を縮めても良いものだろうか。

 何か違うような気がする。

 無理矢理に自分を静めた。


「ありがとう。スザンヌの気持ちは嬉しいよ。でも、少し早すぎるような気がするんだ」


「えっ、どうして……」


 意外そうな目で僕を見た。


「男と女の関係には順序が大事だと思うんだ。僕は君との関係を大切にして進めていきたい」


「でも……」


「スザンヌに魅力がないと言っていないんだ。正直な話、今すぐにでも君に抱きついて僕のものにしてしまいたいと思っている」


「だったら……」


「でも、それは間違っているような気がする。物事は順序よく進む必要があると……春から夏へ、それから秋へと順番に経験するんだと。

 夏が刺激的だからといって先に夏を経験してしまうと春を楽しむことができなくなってしまう。春には春の、夏には夏の楽しさがある。階段を上るように一段ずつ経験していくことが良いと思う。それが人生を深く豊かにするような気がするんだよ」


「トウヤさん……」


「僕は君を大事にしたい。君との関係を大切にしたい。だからこそ、急いで経験することなく一歩一歩、僕と一緒に歩いて行こうよ」


「トウヤさん」


 スザンヌは僕の肩に額を乗せた。


「ありがとうございます。そんなにも私のことを思ってくれるんですね」


 くったくのない笑顔を浮かべているスザンヌ。


「じゃあ、そんなトウヤさんにサービスです」


 僕の手が彼女の胸に押しつけられた。僕の指が柔らかい物に埋まる。


「いつもトウヤさんは私の胸を見ていましたよね。これで一段、進んだかしら」


 そう言ってスザンヌはニコッと笑い、首を傾けた。


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