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38、秘密

「何かあったの? スザンヌ」


 聞くと、彼女は上目遣いで僕を見た。


「トウヤさん、実は話しておきたいことがあるんです……」


「話しておきたいこと?」


 何だろう。彼女は深刻な表情をしている。


「話しておきたいというか、話した方が良いというか……」


「何かな?」


 本当に彼女はどうしたのだろう。徐々に気になってきた。


「私達の両親は商売のために遠くに行っていると言いましたよね」


「うん、遠くの国で行商をしているとか」


「それは嘘なんです」


「えっ」


「私の父は商売で失敗して多額の借金を作ってしまい、どこかに逃げているんです」


 僕は何も言えなかった。

 今までスザンヌが両親の話をすることはなかった。それは、そういった事情があったからなのか。


 話を要約すると、こういうことだった。


 以前、スザンヌの一家は隣のサガン国に住んでいて、薬草を販売していた。それでは生活費が足りないので、父が新しい事業を始めた。しかし、それが上手くいかずに多額の借金を背負ってしまったのだ。


 借りたお金のかたとしてスザンヌとクリスを娼館に売り飛ばすと借金取りが脅すので、一家はそろってバードシー国のリフローの町に逃げてきた。

 そして、町にいると借金取りから見つかるといけないので、離れた森の中に住んでいるという。


 お金を工面してくると言って両親は家を出ていき、そのまま音信不通になっている。

 それからは、ずっと姉妹で薬草を売って生きてきたのだ。


「命がけで私たちを守ってくれたトウヤさんに嘘をついていることが申し訳ないように感じて……」


 そうか、そういったことか。スザンヌも苦労してきたんだなあ。


「それで、借金っていくら位なの?」


 彼女は目を伏せてつぶやくように言う。


「それは、5000万ペセタです……」


 僕は息を飲んでから大きくため息をついた。


「そうか……大金だね」


 スザンヌはコクリとうなずく。

 お金に対して彼女がシビアだったのは、そういった背景があったんだ。


 砂糖の販売などで、かなり儲けたが、ほとんど家の増築で使ってしまい、残っているのは1000万ペセタくらいだ。リフォームしなければ良かったか。

 でも、今さら後悔しても仕方がない。前向きで行こう。


「よし、これからもジャンジャン商売で儲けよう!」


「えっ」


 スザンヌが僕を見つめている。


「僕も協力するから、一緒に借金を返そうよ」


「えっ、でも……それは悪いですよ」


「構わないよ。僕とスザンヌの仲じゃないか。クリスにも借金取りにビクビクするような生活をさせたくないし」


「……ありがとうございます。トウヤさん……」


 つぶやくスザンヌの目は潤んでいる。


「いいよ、君のためなら……」


 そうだ、スザンヌのためなら何でもやる。ゴミのような日本の生活に比べて、この異世界こそが僕の本当の世界なのだ。スザンヌと、その生活こそが僕の人生であり、真実なんだ。


「トウヤさん……」


 彼女はうつむいてから顔を上げた。微笑んでいるスザンヌ。

 水を受けるように右手を前に出し、手を握って人差し指を僕に向ける。そして、その指をクイクイッと手前に曲げた。

 こっちに来いということか。


 僕は見えない糸に引っ張られたかのようにイスから立ってベッドまで歩く。そして、スザンヌの隣に座って見つめ合った。


「トウヤさん」


「は、はい……」


「盗賊の時、私の裸を見ましたよね」


 そう言って、いたずらっぽく笑う。


「あ、いや、そうだったかな……、暗くて見えなかったような」


 確かに見た。未だに頭から離れない。


「責任を取ってくださいね」


 彼女は僕の肩に頭を乗せた。

 ふんわりと優しい香りが漂ってくる。


「ずるい女なんです、私」


「えっ」


「トウヤさんに話せば必ず助けてくれる……それを期待していたのかも」


 僕の心が震える。


「いいんだよ。それでいいんだよ。僕は頼まれなくてもスザンヌを助ける。これからも問題があれば頼ってくれて構わない」


 いざとなったら日本に逃げるという手もある。叔父さんに頼めば何とかしてくれるだろう。

 スザンヌが顔を近づけてきた。


「うれしい……嬉しいです、トウヤさん」


 甘い香り。僕達は唇を重ねた。

 時が止まったような空間。突然ドアが開く。


「お兄ちゃん! ゲームソフトの交換ってどうやるの」


 携帯ゲームを持ちながら入ってきたクリスが固まる。


「あー、またー。ちょっと目を離すとイチャコラ、イチャコラとまあ、発情期の猫じゃないんだから。少しは控えてよね」


 僕たちはキスをしたまま動けずにいた。


「夕食までは終らせてね、お姉ちゃん」


 大きな音を立ててドアが閉まる。

 僕たちはゆっくりと離れた。


「もう、クリスったら、いつもノックをしないんだから」


「いつもタイミングが悪いよね。今度は鍵を掛けようか」


 抱き合ったまま照れ笑いが続いた。


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