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37、それを僕が――

 うっそうとした森の中。夜道を3輪バギーで走っていた。

 嫌というほど冷たい風が顔面に当たっている。僕は目を細めてヘッドライトに照らされたアスファルトの道路が流れるのを見つめていた。


「北海道の冬を甘く見ていたな……」


 厚手のジャケットを着ていたが、それでも寒さのために震えが止まらない。

 盗賊達はどうなるだろう。

 毛皮のような物を着ていたが、この寒さだ。一晩で低体温症になり、死んでしまうだろうな。


「でも、やつらは死んで当然の人間だ」


 僕を殺そうとしたし、スザンヌに乱暴を働いた。死んで当然のことをやったんだ。他人を殺そうとしたんだから、自分が殺されるのも覚悟するべき。罪の意識を感じる必要はない。


 もしも、許してやったとしたら後で仕返しに来るのは目に見えている。復讐心に燃えて、僕たちを殺すだろうし、生き延びれば他の善良な人間に危害を加えることも想像に難くない。

 やつらは人間じゃない、害虫だ。殺虫されて当然の生物なんだ。

 他人の痛みを感じることができない者が、他人をいじめたり殺したりするんだろうな。


 この寒さで生き残ったとしても、ドレインで精気を奪っているので当分は動くことができない。逃げ出せない状態で熊にでも襲われてしまうだろう。

 仮に逃げ出せたとしても、言葉が通じない日本でやっていけるわけがない。犯罪を重ねて警察に逮捕されるだろうな。


 盗賊達は十中八九、死んでしまうだろう。

 極寒の山の中で勝手に死ぬのだから、僕の手は汚れない。熊に襲われたら、それは熊の仕業なのだから僕には関係がないこと、僕の責任ではないのだ。


「いや、違うか……」


 彼らを救うことができるのに放置したのだから、これは未必みっひつの故意というもので、僕の行為によって殺すのだ。僕に罪が発生する。しかし、だからといって盗賊達を許すつもりはない。

 後悔するかもしれない。夜、一人で寝るときに暗闇が怖くなるかもしれない。これからは普通の人生を送ることができなくなるかもしれない。

 でも、盗賊達は救わない。彼らを殺す。それで良いと僕は思っている。


 それを僕が望むのだから仕方がない。


 僕たちの未来を消してしまう権利を盗賊は持っていないし、僕たちの未来を守る権利を僕たちは持っている。



 幹線道路に出たので、スマホで地図を確認してからバス停を目指す。

 バニーは一般道路を走ってはいけないのだが、この夜中に閑散とした道路をパトカーが巡回するはずがない。僕はスピードを上げてバス停に向かった。


 バス停の近くにバニーとリヤカーを隠してから、バスと電車を乗り継いで空港に到着した。

 そこから飛行機で羽田空港に行き、京浜急行からJRに乗り継いでアパートに向かう。


 ほとんどアパートの荷物は片付けていたのだが、布団などの最低限の生活用品は残っている。僕はカップラーメンを食べた後、ベッドに倒れ込んだ。



 目が覚めたときは、体がだるかった。

 疲れていたので、服を着たまま眠り込んでいた。

 アパートの部屋は必要最低限の家財しか残っていないのでガランとしている。


 ここは通学用としての部屋なので、卒業式が終れば解約して田舎の基地に引っ越すつもり。

 その後は異世界でのスローライフに注力するのだ。


 盗賊の件は叔父さんに話すことはできない。

 万が一のことがあったとき、親切にしてくれた叔父さんを巻き込むことはできないだろう。


 それから、早めに北海道に行き、隠してあるバギーを回収しなければならない。

 盗賊が死んで、それが警察に発見されたときにバギーが残っていれば、死体との関連性を疑われる可能性があるからだ。


 遅い朝食を食べた後、荷物をまとめて田舎の基地に向かって出発。

 着いたのは夕方だった。一泊して、午前中にスーパーで買い物をして昼食を食べる。

 いつもはバニーで洞窟に入るのだが、今回は荷物を入れたリュックを背負って歩いて行かなければならない。


 外は寒いが洞窟の中は少し温かい。これは夏と逆だな。重い荷物を背負って歩くと、少し汗ばむくらいだ。

 やっと鳥居に着いて、そこから異世界に転送した。



  *



 スザンヌの家の前。うっすらと地面が白くなっていた。異世界でも雪が降るんだなあ。

 ドアを3回ノック。すぐに鍵が開いた。


「お帰りなさい、トウヤさん」


 いつもと変わらないスザンヌの笑顔。


「ああ、ただいま、スザンヌ」


 僕は居間に入って荷物を置く。

 盗賊によって荒らされた部屋は、すっかり片付いていた。


「トウヤさんの部屋も掃除しておきましたよ」


「ああ、ありがとう」


 やつらは僕の部屋も物色して荒らしていたのだ。


「お兄ちゃん。お菓子を買ってきてくれた?」


 部屋からクリスが出てきた。


「ああ、買ってきたよ」


 スーパーで買ったクッキーセットをリュックから出してテーブルに置く。


「やったー!」


 喜んで包装紙を破るクリス。

 盗賊に襲われたという精神的なショックは残っていないようだな。


 スザンヌが用意してくれたコーヒーを飲みながらホッとする団らん。盗賊に襲撃されたことが嘘のようだ。

 僕とスザンヌはコーヒーが好きなのだが、クリスは苦いといってミルクと砂糖をドバッと入れている。


「それで、トウヤさん。あいつらはどうなったんですか」


「ああ、北海道の寒空に放置してきたよ。今頃は……」


 凍死しているだろうな、という台詞を出すのには抵抗があった。


「あいつらは死んで当然ですよ。トウヤさんが悩んでいるのだったら、その必要はありません。自業自得です」


 いつもスザンヌは僕の心を見抜いて優しくフォローしてくれる。


 コーヒーを飲み終わってから、クリスに携帯ゲームを渡す。

 それは中古ショップで手に入れた物で、いくつかのゲームソフトをセットにしている。


 新型を買っても良かったのだが、初期設定が面倒なので古いタイプの物にしたのだ。それでも十分に楽しむことができる。

 やり方を教えてからクリスに渡すと、夢中で遊び始めた。

 僕は自分の部屋に入った。


 荷物を整理していると、ノックがしてスザンヌが入ってきた。


「ちょっと、いいですか……」


 そう言ってベッドに座る。


「ああ、いいよ」


 彼女はベッドに座って下を向き、長い黒髪をいじっていて何も話さない。

 何か言いにくいことがあるのだろうか。


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