41、卒業式
3月の初旬、卒業式が行われた。
全校生徒が出席するわけではなく、卒業生と在校生の代表、それに父兄と先生たちが集まっている。
高校で何を学んだのだろうか。
高校生活を振り返ってみて思うのは、学校で得たことは少ないということ。人生にとって重要なことは異世界での出来事が多い。
キングボアとの死闘やスザンヌとの温かい生活、リフローの町での商売、ギルドとの交渉、それらが生き生きとしていて、僕の人生を豊かにしているような気がする。
本当に大切なことは学校では教えてくれない。自分で積極的に体験して身につけるしか方法がないのだ。
両親は僕を無視しているので、卒業式には叔父さんが出てくれた。
スーツでビシッと決まっている叔父さんの姿を見て、女の子達が憧れの眼を向けている。
卒業式が終わってボンヤリとグラウンドの隅でたたずんでいると、美代子さんがやってきた。
「卒業おめでとうございます。加賀君」
相変わらず長いポニーテールが可愛い。
「ああ、卒業おめでとう、清水さん」
卒業して何がめでたいのか。
「加賀君は卒業した後は叔父さんの会社で働くのよね」
「う、うん……」
それは形だけで、本当は異世界でスローライフをするつもり。
「じゃあ、東京に住むの?」
「いや、住むのは田舎の家だよ」
「それじゃあ、不便じゃないの?」
「まあ、東京に住民票を置いたほうが何かと便利なのだけど、今の家を離れたくないんだ。おばあちゃんから家を守るように頼まれているから」
異世界に転送するための鳥居と日本基地を守らなければ。
「ふーん。東京にいるのなら、簡単に会うことができると思ったんだけど」
「えっ」
それって、卒業した後も付き合いたいということ?
「おい、ボウズ、待たせたな」
叔父さんがやってきた。
「何だ、彼女とデートの打ち合わせか。スザンヌちゃんが泣くぞ」
叔父さんはニヤニヤと笑っている。
「ちょ、ちょっと、叔父さん!」
時と場合を考えてよ、叔父さん。
清水さんの顔がこわばる。
「加賀君、スザンヌって誰?」
視線が冷たい。
「あ、いや、ちょっとした知り合いだよ」
マズイと思う。でも、どうして僕は動揺しているのだろう。
「その人は外国人なの? 女の人よね。何歳くらいなのかしら」
「ちょっとした知り合いだって、本当に深い関係じゃないよ」
どうして僕は言い訳をしているのだろう。
「今度、紹介してくれる?」
「あ、いや、ちょっと遠くに住んでいるから、会うのは難しいかな……」
「ふーん」
嫌というほどの猜疑心が満ち満ちている目つきだ。
「じゃあ、さよなら。またラインするわね」
踵を返して去っていった。
「ちょっとマズイことを言ったかなあ」
叔父さんがニヤニヤ笑っている。
「もう、勘弁してよ、叔父さん」
泣きそうな気分。
「まあ、そう言うな。卒業祝いに、レストランにでも行って旨いものを食おうぜ」
「ああ、そうですね。よろしくお願いしますよ」
駐車場に停まっていた黒塗りの高級車に行くと、美人秘書が運転席に座っていた。
その人の名前を僕はまだ知らない。
僕がエナジーをドレインした人間はどうなったのか。
名ピッチャーだった高田は不登校になり、最後には退学になってしまった。
不良と付き合うようになったという噂を聞く。
プロ野球からスカウトされていたというのが夢のようだ。
サッカー部のエースストライカーだった滝沢は大学の特待生を取り消されたので、卒業した後は派遣会社に登録して派遣で働くらしい。
音楽の後藤は、ずっと登校していなかったが、何とか卒業できたよう。卒業式には両親と一緒に出席していたが、就職は決まっていないようだ。これからもニートを続けるつもりなのか。
秀才だった内藤は、Fランク大学に入学が決まった。
以前は有名国立大学を志望していたが、偏差値を考えると絶望的だったので仕方なく大幅にランクを下げるしかなかったのだ。
秀才のスキルがなくなって、成績が底辺レベルになってもプライドは健在だ。あれでは、大学に進んでも周りと上手くやっていけないだろう。
上田尚美は学校を退学している。今は、スーパーでアルバイトをしているようだ。
美貌も回復してきて、周りの男から言い寄られているという噂を聞く。
僕は皆の人生を曲げてしまった。
しかし、人生が上手くいかないことは良くある。予定が狂うことはたくさんあるのだ。事が思い通りに進む方が珍しい。
まだ、死んだわけではない。一つの道が閉ざされたのなら、別の道を模索するしかないだろう。尚美さんを除いて、彼らは自分の人生に期待しすぎた。もっと主体的になって、人生が自分に何を期待しているかを考えるべきだったのだ。
盗賊達のニュースは聞かない。
遺体が発見されていないだけなのか、それとも熊に食い散らかされてしまったか、はたまた、図太く生き抜いており、冬の山奥で雌伏しているのかもしれないな。
まあ、それに対して深く考えても仕方がない。
人からエナジーを盗んでも、人を殺しても、それは自分で背負わなければならないだろう。
ただ、それは自分から積極的に行ったものではない。追い込まれて、やむにやまれずに決定したことなのだ。学校での苛めのように、何もしていない弱い人間を能動的に追い込んだわけではない。
僕に罪があっても、それを後悔してはいない。他人は僕を責めるだろうが、こちらにも言い分はある。僕が自分で考えて決めたことだから、それで良い。それが僕の生き方というものだ。
それを僕が望むのだから仕方がない。
*
スザンヌの家に転送した。
バギーから降りて、ドアを3回ノック。しかし、応答がない。
もしかしたら……。嫌な予感が頭をよぎる。
「スザンヌ」
声を掛けるが、返事がない。
僕は用心しながら、ゆっくりとドアを開けた。
「お帰りなさい、ご主人様」
スザンヌとクリスが居間の中央に立っていた。
唖然とする僕。
笑顔のスザンヌはミニスカメイド服を着ているし、クリスは白いエプロンを着けている。
どこか別の世界線に転送してしまったのか。
「お兄ちゃん、お土産は?」
そう言ってクリスは僕が持っていた荷物を取ってテーブルに置く。コーヒーカップが並んで、お茶会の準備が済んでいる。
「トウヤさん、どうぞ座ってください」
そう言ってイスを引くスザンヌ。
「あのう……これは、どういうことかな」
「いつもお世話になっているトウヤさんをもてなすためのサービスです。こういったものが好きなんでしょ」
彼女は短いスカートの裾をつまんでクルリと回った。
そう言えば前に日本から漫画や雑誌を持ってきたけど、それに影響されたのか。日本語が分からなくても絵の雰囲気で理解できたのかな。
それに、叔父さんの秘書から女物の洋服をたくさんもらってスザンヌに渡していた。よく見ていなかったが、その中にメイド服なども入っていたのだろう。
あの美人秘書は、どういった人間なんだ。
「それにトウヤさんの卒業祝いです。卒業とは何か良く分からないんですけど、これからは私たちと過ごす時間が長くなるんですよね」
「う、うん」
確かに学校という面倒な縛りからは解放される。
「クリスは裸エプロンだよ」
「えっ」
いくらなんでも、それはマニアック過ぎるのでは……。
クリスはエプロンを、パーッとめくって見せた。
「裸だと思ったでしょ。残念でした、穿いてまーす」
白いパンツだった。しかし、それだけで他には着ていないよう。
彼女もクルリと回った。やはり、エプロンと下着だけで間違いない。
「クリスは裸でも良かったんだけど、お姉ちゃんからパンツを穿きなさいって言われたのー」
邪気のない笑顔だ。もうすぐ15歳になるというのに、男の目を気にしないんだなあ。今まで姉妹だけで生活してきたから、節操というものがないのか。
「さあ、お茶の時間にしましょう」
メイド服のままスザンヌはコーヒーを用意した。
「さあ、どうぞ」
湯気が立っているコーヒーカップが僕の前に差し出される。
「じゃあ、いくわよ、クリス」
「うん、分かっているお姉ちゃん」
二人は僕のコーヒーカップの前に来て、両手でハートマークを作った。
「美味しくなーれ、モエモエキュン!」
笑顔の姉妹。僕は歪んだ笑顔で思考が固まってしまう。
これは、どこの世界線に迷い込んだのだ。このような世界が本当に存在したのか。メイド喫茶の世界でしか行われない儀式が僕に対して実行されてしまった。
「ああ、ありがとう……」
せっかくの好意だ。受け取らないわけにはいかない。嬉しすぎて僕のハートはモエモエキュンになってしまっている。僕の頭にモエの花が咲いてしまったようだ。
前に秋葉原の事をスザンヌに話していた気がする。それを覚えていたのだろう。
ほんわかしたムードで、コーヒータイムになった。
クリスは夢中で日本のお菓子を食べている。
僕はミルフィーユをチビチビとかじりながら、チビチビとコーヒーを飲む。
クリスは3つめのミルフィーユに手を伸ばした。
エプロンの横から胸が見えそうだが、そういったことにクリスは無頓着だ。スザンヌが前屈みになると確実に下着が見えるミニスカメイド服だが、恥ずかしがる気配もない。
僕は姉妹に家族と認定されたのか。
これが人生における幸せというものか。
苛めにあって不登校になり、家族に見放されてドン底に落ちてしまった。でも、紆余曲折あって、やっと幸せな生活を獲得したんだ。
この幸福を手放したりしない。そのためには、どのようなことでもやる。
僕は固く決意した。
これで学校編は終了です。
次は社会編を考えていますが、しばらくネタを探さないと書けないので、しばらくお待ちください。




