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33、異変

 自動車免許を取得した。

 最寄りの試験場で学科試験を受けて合格したので、やっと免許証を受け取ることができた。


 中古の軽自動車を買って、練習のために近所をグルグルと回っている。

 初心者はチョコチョコとぶつけるから、最初は安い物を買った方が良いと叔父さんからアドバイスされたので、それに従った。


 軽自動車といってもワゴンタイプなので、ゆったりできるし荷物もたくさん積める。馬力は小さいが、都会では十分の加速だ。


 都会は駐車料金が高く設定されている。良い場所だとアパートの家賃よりも上だ。

 しかし、高校を卒業すれば田舎の基地に引っ越すつもりなので問題はない。おばあちゃんの家は過疎地域なので、軽自動車については車庫の届け出は必要がないという。


 運転免許を得たので、アパートにいる理由はない。卒業式の時に来れば良いだけだ。

 しばらくは異世界に滞在しても良いだろう。

 僕は、新幹線やバスを乗り継いで田舎の基地に向かった。


 車で行きたいところだが、慣れていない運転で高速道路を走るのは、さすがに怖い。それに軽自動車は馬力が小さいので、片道6時間は疲れるだろう。


 基地で一泊してから、翌日にスーパーで買い物をした。

 昼過ぎ。荷物を積んだリヤカーをバニーに繋いで裏山の洞窟に入る。

 そして、鳥居の前から異世界に転送した。



  *



 スザンヌの家の前に現れて、クラクションを鳴らす。

 いつもなら姉妹が出てくるのだが、どこか様子がおかしい。

 バギーを降りてドアに向かうと、知らない男が窓から顔を出した。ひげを伸び放題にした大男。


「あれは誰なんだ……スザンヌ達は?」


 違和感が大きい。異変を感じて僕は後退してバニーに座る。

 ドアが勢いよく開いて、むさ苦しい二人の男が飛びだしてきた。


「おい、てめえは誰だ! あの娘達の仲間か?」


 目つきの鋭い男がドスの利いた声で言う。その頬には傷が走っている。

 隣の小男が剣を抜く。


「こら! その変な乗り物から降りて、こっちに来やがれ」


 頭がツルツルの小男。僕よりも背が低いが、体は筋肉質だ。

 こいつらは盗賊なのか。そういった者がいるとは聞いていたが……。


「あんたらは何者だ。スザンヌ達はどうしたんだ」


 ここで話をしても仕方がないことは分かっている。僕はアクセルを回して、バギーをUターンさせた。町の方角に全速力で逃げる。


「待ちやがれ! このガキ」


 バックミラーを見ると、小男と大男が走って追いかけてくる。

 僕はアクセルを回して加速した。

 家から町への道は僕たちが舗装していたので、多少のスピードを出してもリヤカーがひっくり返ることはない。


 やつらの姿がバックミラーから消えたのを確認してから、横道に入って森の奥に進んでいった。


 高い木が林立している薄暗い森の中。

 僕はトランシーバーを取り出して、スザンヌを呼び出す。

 それは、キングボアが現れたときの緊急通信のために用意していた物だ。


 返事を待っている間、僕の頭には悲壮的な想像がグルグルと回る。

 スザンヌたちは無事なのだろうか。もしかして、盗賊たちに……。


 しばらく待って、トランシーバーからコール音が聞こえたときは、ドッと安心した。


「もしもし、スザンヌ。大丈夫だった? 何があったの?」


「トウヤさん! ああ、やっと来てくれたんですね」


 懐かしいとも思えるスザンヌの優しい声だった。


「ねえ、何があったの? あの男たちは誰?」


 まあ、大体の創造はつくが。

 彼女は、事の顛末を語ってくれた。

 トランシーバーは受話器型の双方向通信なので、こちらが話しているときも相手の声を聴くことができる。


 スザンヌの話によると、いつものように家でのんびりしていると、いきなり3人組の盗賊が家に入ってきて、乗っ取ってしまった。

 盗賊に捕まりそうになったので、スタンガンを使って相手がひるんでいるスキに逃げてきたそうだ。


 今は避難用の洞窟に隠れているという。

 キングボア用の避難場所が盗賊によって使うことになるとは。

 そこにはテントや食料などが用意されているので、しばらくは問題がない。


「あー、とりあえずは良かった」


 安心して胸をなでおろす。

 とにかく、スザンヌと合流しよう。

 僕はバニーで洞窟に向かった。



 家から離れた場所を遠回りして、洞窟に着いた。

 バギーを降りて洞窟に入ると、奥にテントがあり、その横に電池式のランタンが灯っていた。


「スザンヌ」


 呼びかけるとテントからスザンヌとクリスが出てきた。


「トウヤさん!」


 スザンヌが抱きついてきた。


「お兄ちゃん! 怖かったよー」


 クリスが僕の腰にすがりつく。


「もう大丈夫。大丈夫だからね」


 とにかく彼女たちを安心させないと。


「これからどうしましょう」


 悲しい目をしているスザンヌ。


「あいつらを追い出して家を取り戻すべきよ!」


 クリスが両手を握りしめている。


「私たちの家を盗られて、黙っているなんてできないわ。そうでしょ、お兄ちゃん」


 うーん、どうするか。

 相手は暴力を得意とする盗賊だ。僕が太刀打ちできるものだろうか。


「トウヤさん……」


 すがるように僕を見ているスザンヌ。


「商業ギルドに訴えてもダメなのかな」


「冒険者を募集するだけでも日数が必要なんです。それに、盗賊相手では依頼する料金も高くなってしまいます」


「そうなんだ……」


 この異世界に警察的な組織は存在していないのか。日本では当たり前の治安維持システムだが、それは文明レベルが低い世界では作っていないらしい。


「お兄ちゃん。クリスは前の生活を取り戻したい。あの楽しい生活をなくしたくないよぉ」


 クリスは泣きそうな目で僕を見ていた。


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