28、人生は曲がる
土曜日、スザンヌの家にソーラーパネルを持って転送した。
昼食を食べてから、持ってきたパネルをすでに設置してあるソーラーパネルに追加する。
最近、家電製品が増えたので電力量が必要になったのだ。
ソーラーパネルの増設が終わって、3時のおやつの時間。
日本から持ってきたプリンを3人で食べる。
「そういえば、スザンヌ。ドレイン能力のことを聞いてくれた?」
聞くと彼女のスプーンが止まった。
「あ、いや、その……まだ聞いていないです。うっかりしてました」
そう言って笑顔を作るが、ぎこちない。何かあったのかな?
「えー、お姉ちゃん。教会で聞いてたじゃない」
プリンを食べ終えたクリスが無邪気な顔でスザンヌを見る。
スザンヌは、黙りなさいというように妹をにらんだ。
「えっ、何かあったの……?」
僕に言いにくいことなのか。
「あ、いえ……何というか」
何だろう? 気になる。
「はっきり言ってよ、スザンヌ」
彼女はため息をつくと、仕方なさそうに口を開く。
「教会の牧師さんに聞いたのですが、ドレインで吸い取ったエナジーは自然回復するのですが、スキルは元に戻らないそうです……」
「えっ」
心が凍った。
じゃあ、高田の野球の才能は永遠に失われてしまったのか……。滝沢のエースストライカーの能力は消えて、素人のサッカー少年に換わってしまったということ?
それに、プロ級のギターの才能を持っていた後藤は音痴でド下手になったままなのか。 秀才だった内藤は頭が悪くなり、Fランク大学で苛められる運命にあるの?
彼らは僕がリンクで見たイメージ通りの人生を送ることになるのか。彼らの人生は曲がってしまって軌道修正は無理なのだろう。
一番の気がかりは尚美だ。
僕は彼女から美貌というスキルを奪ってしまったのだろう。
あの老けた体で、これからも生きていかなければならない。彼女の将来のイメージが真っ暗だったのは……そういう結果になるということなのか。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
クリスが僕の青ざめた顔を見て心配している。僕は、ショックで目の焦点が定まらない。
「エナジーとは気力や体力で、それは1週間もすれば回復するのですが、才能や天分などのスキルは抜いてしまうと自己修復は不可能だと牧師さんが言っていました……。そういったものは神様からの贈り物で、人間が作り出すことはできないそうです」
スザンヌが目を細めて気の毒そうに言った。
そうか……それで尚美は、あんなに拒絶したのか。キングボアもドレインされるのは非常に危険だと本能的に察知したんだろうな。
「トウヤさんが気にすることはないと思います」
スザンヌが気を遣ってくれる。僕がドレイン能力の本当の力を知れば、深く悩むだろうと確信していたんだよね。
「トウヤさんは苛められた仕返しをしただけ。悪いのは相手でしょう」
「ああ、そうかな……」
ふらりと席を立つ。
「ちょっと、気分が悪いので……」
そう言って僕は自分の部屋に入った。
ベッドに倒れ込む。
嫌なシーンが頭の中をグルグルと旋回している。
「こんなことならドレイン能力なんて取得しなければ良かった……」
おばあちゃんが能力を使ってはいけないと言ったのは、このことだったのか。
人間が持ってはダメな力だったのだ。
とりとめもない嫌な考えが頭の中に浮かび、ベッドでゴロゴロしていると、いつの間にか日が傾いていた。
ノックの音に体がビクッと震える。
「トウヤさん、入ってもいいですか」
「ああ……いいよ」
上半身を起こしてドアの方を向くとスザンヌが入ってきた。
「気分はどうですか……」
「ああ、まあまあかな」
「さっきも言いましたけど、トウヤさんは悩むことはありませんよ」
彼女は部屋の隅に置いてあるイスに腰掛けた。
「……そうかなあ」
苦笑する。そう簡単に割り切れないよ。
「僕は彼らの人生を吸い取ってしまった。他人の夢と未来をぶち壊してしまったんだ」
苦しくて涙がにじむ。
スザンヌが立ち上がり、僕の横に座った。
「トウヤさんは優しいですね。本当に優しい……」
僕の体が柔らかくて温かいものに包まれた。
スザンヌが僕を優しく抱きしめている。
「ス、スザンヌ……?」
「今、苦しんでいるのはトウヤさんが優しいからですよ」
耳元でささやかれて体が熱くなった。
「トウヤさんは苛められたことに対して仕返しをしただけ。相手にとっては因果応報というもので、あなたには責任がありません」
「そうかな……」
さっきまで吹雪いていた心が温かくなって氷が溶け出す。女の子に抱きしめられたという、その行為だけで嫌なものが流れ出していくよう。
「そうですよ。相手を攻撃したら反撃されるのは当然のこと。復讐されて困るのなら、最初から苛めなどをしなければ良い話です」
「そうか……そうだよね」
「相手は苛めの代償を払っただけです。それは自業自得ということで、この社会の摂理のようなもの。トウヤさんが気にする必要はありません」
「でも、僕はスキルを盗んだ。盗まれた人間は絶望する……」
「そうかもしれません。しかし、才能を失っても別の道を見つけて歩き出すことができる。
例えば、事故で足が不自由になった人間は杖をついて歩くでしょう。そして、その不自由な体でも追うことができる夢を探せます」
僕の心は楽になった。
スザンヌの体が熱くなり、押しつけられている胸の弾力が増したような気がする。
「トウヤさんにスキルを取られた人間も別の道を歩くことができる。才能があれば、それがある人生を。なければ、それがない人生を歩んでいくでしょう。
でも、苛めにあった人間は、一生、心の傷が消えない。自分の殻に閉じこもり、人生をダメにする人もいるかと思います。どちらが不幸なんでしょうか」
僕はスザンヌを見た。彼女も僕を見つめている。
「つまり、苛めによって他人の心に傷を付けるのは、スキルを吸い取るよりも罪が重いということ?」
彼女はコクンとうなずく。
「苛めた側はどうでしょう。相手はトウヤさんのことを思い出すこともなく、自分の人生を楽しく過ごしていく。他人の不幸には鈍感な人間が他人を攻撃するんです。だから、トウヤさんが気にする必要はないんですよ」
スザンヌの言葉が正しいと感じる。悩んでも後悔しても過去に戻ることはできないのだ。
全体的な見方をして、自分がやった行為を受け止めるしかない。
「人生において取り返しのつかないことはあります。人生が曲がることは何度もあると思うんですよ。今まで私も曲がってきました。でも、何とか生きています」
そう言って微笑むスザンヌ。頬の赤みが増していた。
そうか……いつも明るく振る舞っているけれど、彼女も苦労してきたんだよな。苦労していない人間などがいるはずがない。
「だから、トウヤさんが気に病む必要はありません」
「うん、そうだね。気分が軽くなったよ。ありがとうね、スザンヌ」
彼女は僕の体に回していた手を緩めて身を離したが、手は握ったままだった。




