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26、ドレイン

 中間テストが終ると席替えがある。

 テスト結果によって席が替わる。それが良い者は後ろの席に移動し、悪い者は教卓の近くに座らなければならない。


 僕は前と同じく、中央の席だった。成績からいえば最後列になるはずなのだが……まだ担任はカンニングを疑っているのか。

 まあ、秀才のエナジーを使ってテストに臨むのはカンニングと言えるかもしれないな。


 放課後。

 教室の掃除が終り、カバンに教科書を詰め込んでいると、上田尚美うえだ なおみさんが近寄ってきた。


「冬也ちゃん、お帰りですか?」


 茶髪で大きな瞳。唇が不自然に赤いので、口紅を付けているのだろう。

 グラマーな体をしていて、全体的に大人びた風貌をしている。

 美人の部類に入るので、ボーイフレンドには不自由していないと聞く。


「うん、今から帰るところだけど……」


 彼女はオタクの僕とは接点が少ない人種だ。何の用だろう……。


「冬也ちゃんはアパートで一人暮らしなんだよね」


 そう言って、手を後ろに組み、前屈みになると胸の谷間が強調された。


「うん、そうだけど……」


 尚美さんは僕のタイプではない。子供のくせに大人ぶっている人間は嫌いだ。しかし、近くに迫られると鼓動が早くなる。


 僕は教室を見回した。

 清水美代子さんを含む数人の生徒しかいない。


「これから冬也ちゃんのアパートに行ってもいいかなあ」


 唇の端を曲げて笑顔を作っているが、わざとらしい。

 教室の出口を見ると、女の子の頭が出たり入ったりして僕たちを盗み見ている。


 そういうことか……。

 僕を誘惑して、その気になったら皆でバカにするというシナリオなんだろうな。


「でも、僕の部屋は散らかっているから……」


「構わないわ。私が掃除してあげる」


 心の中でため息をつく。

 どうやって断ろうか……。そうだ、あれを使おう。


「そうなの? 女の子に掃除してもらうなんて光栄だなあ」


 笑いながら尚美の肩に手を置いてリンクを繋ぐ。相手は、あからさまに嫌な顔をしたが、すぐに作り笑いを浮かべた。


「じゃあ、一緒に冬也ちゃんのアパートに行こうよ」


 そう言ってウインクされると正直、可愛いと思うが、中は腐っているんだろうな。

 ゆっくりと彼女のエナジーを吸い取り始める。体力と気力がなくなれば、僕をからかう気も失せて去って行くだろう。


「ちょっと、いい加減にしなさいよ!」


 清水さんが机をバンと叩いた。


「上田さん、加賀君をからかうのはやめて。どうせ罰ゲームで来たんでしょ。そういったのは良くないわ」


 清水さんが進み寄って来た。相変わらずポニーテール姿が可愛い。


「何のことか分からないわ。ねえ清水、あんたには関係ないことだわよねえ」


 首を傾けて薄ら笑いを浮かべる尚美。


「クラスメートがバカにされているのを放っておけないのよ。なんで、そんな下らないことをするの? 恥ずかしいと思わないのかしら」


 腰に手を当て、胸を張って言った。


「何だって?」


 尚美の目が鋭くなり、清水さんの前に進む。


「ふーん、あんた、自分の男が盗られると思って焦っているんだろう」


「そ、そんなことはないわよ……」


 清水さんがチラリと僕を見る。


「お堅い清水女史も色気づいちゃったかぁ。こんなちんけなガキのどこが良いんだか」


 清水さんを睨みつけてヘラヘラ笑う尚美。ついに本性が出てきたか。

 エナジーを吸い取り続けているが、彼女が弱る気配はない。


「ゲスくさいことを言わないで。あんたとは違うわ」


 腕組みをして睨み返す清水さん。


「ねえ、二人ともやめなよ。ケンカすると担任が来るよ」


 僕は席を立って彼女たちに近づく。


「うるせえ! この童貞野郎が。お前はチンカスくせえんだよぉ」


 18歳の女の子の台詞とは思えない。


「もう、いい加減にして! 上田さんも男遊びばかりしていると後になって悔やむことになるわよ」


「なんだと……、ふーん、お堅いねえ清水は。下の口もお堅いんだろうなあ


 口の端を曲げて下品な笑いを浮かべる。

 清水さんは両手を握りしめてブルブルと震えている。美少女が怒ると目つきが怖い。


「このあばずれ女が……」


 清水さんの言葉に教室の空気が凍る。


「何だと! 清水のくせに生意気なんだよお!」


 尚美は清水さんのポニーテールをつかんで引っ張った。


「きゃー! 痛い!」


 髪を抑えて叫ぶ清水さん。


「やめろ!」


 僕は尚美の右手を握って制止しようとした。

 すると大量のエナジーが流れ込んできた。直に触るとドレインの効率が著しく強まるのか。


 尚美はポニーテールをつかんでいた手を放し、ゆっくりと振り返った。

 それは恐怖の表情。得体の知れないものに取り憑かれたように顔がこわばっている。


「やめて……」


 僕から離れようとするが、手を放さない。放すことができない。まるで、喉が渇いたときに水を飲んでいるようで、エナジーの吸収が止まらない。止めることができない。


「いやー! やめてえー!」


 腕をブンブンと振って逃げようとする尚美。

 キングボアや叔父さんのようにドレインに対して敏感な人間がいるようだ。


「ギャー! ギャー! ギャー!」


 半狂乱状態になった。

 ドン引きになっている僕の手を振りほどいてフラフラと後ずさる。僕を凝視している目に含まれているのは恐怖だけ。


 尚美の髪は乱れて、歪んだ顔に涙が流れていた。

 ドンと背中が壁に当たる。ホワイトボードのマーカーペンが床に落ちてバラバラという音を立てた。


 腰が抜けたように座り込む。紺のスカートに黒いシミができて、それが広がっていく。

 彼女は失禁したようだ。


「いや……いや……いや……」


 泣きそうな声でつぶやくと、力のない足取りで教室を出て行った。


「大丈夫? 清水さん」


 振り返ると彼女は数歩下がった。僕を怖がっているのか。


「うん、平気だけど……、今は何をしたの?」


「いや、べつに……」


 清水さんにドレイン能力のことを話すわけにはいかない。


 それから、二人で汚れた床をモップで拭いた。

 モップを洗って教室に戻ってきたら、清水さんはいなかった。


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