25、異世界生活の充実
スザンヌの家の設備は充実してきた。
太陽光発電システムで洗濯機や電子レンジが使えるようになった。
大型の洗濯機はリヤカーに乗らないので小型の物を買った。電子レンジは電力を使うから、充電式バッテリーを二つ使っている。
カセットコンロや電子レンジで調理できるので、スザンヌは手間が減ったと喜んでいる。
そのため、料理の味もさらに良くなったようで、食事の時間が楽しみになっていた。
くもりの日や夜でも充電できるように発電機も設置した。
屋内配線は動画サイトを見て覚えた素人によるものだが、漏電ブレーカーを通しているので大丈夫だろう。
学校を卒業したら、ホームセンターなどで働いて、配電設備や配管工事の技能を学ぼうかな。
昼食はカレーライス。
炊飯器も持ってきているので、ご飯を炊くのが楽になっている。
余った物は冷蔵庫に入れておく。それは小型の物なので、そんなに多くは入らない。
高架水槽への揚水は電動ポンプを使う。
それには上限リミッターがないので、スイッチを切り忘れると水があふれる。
各部屋には照明を取り付けた。
今まではローソクのランタンだったので、スイッチ一つで明かりが点くのは便利なことだと実感する。
異世界での生活は充実してきた。
だが、まだ不満は残っている。
給湯器がないので風呂に入るためには薪の釜でお湯を沸かさなければならないし、トイレも水洗便器にしたい。キングボア対策として、赤外線感知器などのセキュリティ設備も考えるべきだ。
そういった工事は、実際に指導されて覚えないと作業できないだろう。
作業方法や工具、作業のコツなどを知らないと、どうやればいいか分からない。
つまり、僕の工事スキルを高めなければならないのだ。まだまだ課題はたくさんあるな……。
「トウヤさんのおかげで、ずいぶん家事が楽になりました」
食後に食器を片付けながらスザンヌが微笑む。花柄のワンピースに無地のエプロンが……その、あの……若妻のよう。
「お兄ちゃん、今度はテレビとやらを持ってきてよ」
クリスが無邪気に言った。
「うーん、異世界には電波が来ていないし、それは難しいかな……」
日本と異世界では言語が違う。僕がスザンヌ達と話すときは自動翻訳されているが、日本語の文字は彼女たちには理解できない。前に日本から持ってきた雑誌を見せても内容は分からなかった。
ということは、テレビとビデオデッキを持ってきても、映画とかの台詞は理解できない。
「えー、つまんない」
すねるようにクリスが口をとがらす。
「まあ、何とか考えてみるよ」
テレビゲームとかだったら、言葉が分からなくても遊べるだろう。
午後からは、町に行くことになっていた。
日本の服では、少し目立つので町で買ってきた麻の服をはおる。その肌触りは良くなくて、着心地も悪い。クリスは日本から持ってきたジャージが楽だと言って、いつも家ではその格好だ。
彼女が僕の前で、着ていたジャージを脱ぎ出す。
「クリス! 自分の部屋で着替えなさい」
スザンヌが注意した。
今までは姉妹だけの生活だったので、男の目を気にするという習慣がないのだろう。
「はーい、お姉ちゃん」
返事をすると、クリスは僕に寄ってきた。
ジャージのチャックが開かれているので、白い下着が見える。下着といっても半袖シャツのような物。
「あのね、お姉ちゃんはいつもジャージなんだけど、お兄ちゃんが来るときだけは可愛い服を着るんだよ」
そう言うと、クスッと笑って自分の部屋に向かった。
「ああ、そうなんだ……」
そうか、そうなんだ。ああ、僕としては嬉しいかも……。
いつもスザンヌの支度は長いので、しばらく待たなければならない。
ポアンポアンとした頭で、スザンヌの下着はどのような物かなと想像する。
クリスと同じように半袖シャツなのか、それとも発育した女の子は特別な下着なのか……。どちらにしろ、異世界の物は着け心地が悪いだろうな。
花柄のワンピースは、叔父さんの秘書からの頂き物だ。その秘書のお姉さんにスザンヌの下着も要求することは年頃のボーイにとって恥ずかしすぎること。サイズも知らないし……。
スザンヌが日本の下着を装着している姿を想像してしまい、僕はペシペシと自分の頭を叩いた。
「そう言えば、秘書さんの名前を知らないなあ……」
スザンヌが支度を終えて部屋から出てきたので、3人で町に出発した。
僕がバギーを運転し、後ろの席にはスザンヌが座って僕にしがみつく。後ろに繋いでいるリヤカーの隅にクリスがちょこんと座っていた。
町の1キロほど手前にバギーを隠し、リヤカーを引いて町に入る。
バギーのキーは抜いてあるので、誰かに見つかっても動かすことはできない
リヤカーを引いてギルドの近くまで行き、露店を出す。
僕は折りたたみ式のキャリーカートを組み立てて、それに砂糖のビンを積んだ。スザンヌ達は薬草の入ったビンを広げて、値段が表示された板を取り付ける。
砂糖に比べて薬草の売り上げは低いから、砂糖を売れば生活に困らないと思うのだが、彼女は薬草を作ることをやめない。自分なりのポリシーがあるのかもしれないな。
店をクリスに任せて僕はカートを引いてスザンヌと一緒にギルドに向かった。
受付の奥の部屋で砂糖の買い取りをしてくれるので、その部屋に行き、砂糖が入っている木箱をテーブルに置いた。
段ボールの方が木箱よりも使いやすいだろう。しかし、この異世界に紙はあるが、段ボールは存在しないので日本から持ってくるわけにはいかない。
砂糖を納入して100万ペセタを受け取った。
それから、エナジーを取り扱う部屋に入る。
「いらっしゃいませ」
おなじみの女性職員がカウンターに寄ってきた。
「エナジーを売りたいんですけど」
「はい、お待ちください」
そう言って毎度の水晶玉を出す。
内藤のスキルは売ることにした。
持っていれば何かと役に立つかもしれないが、秀才のスキルなどは特殊すぎて、持っていると精神が不安定になる。それは、水を入れるプラスチック容器に、砂利をギュウギュウ詰めにするような感覚だ。
僕は水晶玉に手をかざして内藤のスキルを移した。
波打って光る水晶玉。あれ、光り方が前と違う。
「あ、はい……じゃあ、これは600万ペセタで買い取りますね」
変な感じがする。前の値段交渉は500から始めていたのだが、これが最初に600というのはおかしい。
背中を小突かれた。振り向くとスザンヌが僕を見つめている。提示された値段に彼女も何かあると思っているのだろう。
「これは入手が難しい貴重なエナジーなので800万でどうですか」
高めの値段をふっかけて女性職員の表情を読む。
彼女の視線が不規則に揺れ動いた。
「では、700万でどうでしょう?」
そう答える彼女は僕の目を見ようとしない。もう少しいけるかも……。
「じゃあ、いいです。このエナジーは僕が自分で使うことにしますから」
そう言って水晶玉に手を近づける。
「あ、待って! あ、あの……ちょっと待ってください。」
職員が僕の手首を握っていた。
「分かりました……そちらの希望額の800万ペセタにします。それでよろしいですね」
「はあ、はい。その値段でお願いします」
職員の焦った顔を見る限り、内藤のエナジーは、かなり貴重だったらしい。もっと値段をつり上げることができるかもしれないが、他人のエナジーで貪欲に儲ける必要はないよね。
ギルドを出て露店に戻る。
リヤカーなどを木に縛り付けて食堂に向かった。ギルド周辺で盗みを働く人間はいないのだが、念のためだ。
日本から持ってきた食器なども全て売り切れていた。それは50万ペセタほどになる。いつも砂糖とエナジーの分は僕がもらって食器の分はスザンヌにあげている。
もう少し、お金を渡しても良いのだが、電化製品などを買わなければならないので、その費用を確保しなければならないのだ。
いつもの食堂に行って夕食を食べ、食材などを買ってから町を出た。




