080 レギーナ達とは、散々……色々して来た癖に、私とはキスするのも嫌な訳?
(一応は直接、報告したかったんだけど、面倒臭い流れになって来たし、報告書だけ渡して帰るか)
このまま話が続いてしまうと、気まずい思いをし続ける羽目になりそうなので、果敢は報告書を渡して、帰ろうと考え始める。
アシェンプテルに会えなそうな場合は、報告書だけ残して去るつもりで、果敢は報告書を用意しておいたのだ。
ヴェントス・インヴィクトの仲間しか解除方法を知らない、特殊な魔術によって、報告書は封印されている。
故に、他の誰かに読まれる心配は無い。
果敢はポケットから、報告書が入った封筒を取り出すと、アシェンプテルに差し出す。
「これ、今回の件の報告書。詳しい事は、これ読めば分かるよ」
アシェンプテルに報告書を手渡し、果敢は続ける。
「じゃあ、俺……そろそろ帰るから」
そう言って、果敢はアシェンプテルの前から、去ろうとする。
だが、果敢は左腕を掴まれ、アシェンプテルに強引に引き戻される。
「レギーナ達の所には、色んな事して三泊もする癖に、私の所では何もしないで、すぐに帰るとか……許されると思う?」
「いや、ほら……アシェンプテルは仕事あるし、忙しいだろうから、邪魔しちゃ悪いし……」
「今は大丈夫だよ、仮眠取るつもりだったから」
アシェンプテルは果敢を抱き寄せ、耳元で囁く。
そして、アシェンプテルは果敢の唇に、唇を寄せようとする。
だが、果敢は顔を背け、キスを避ける。
「どういうつもり?」
不愉快さを露わにして、アシェンプテルは果敢を詰問する。
「レギーナ達とは、散々……色々して来た癖に、私とはキスするのも嫌な訳?」
「いや、違うって!」
焦りの表情を浮かべつつ、果敢は言い訳を口にする。
「あの……実は……バジレーに着いた後、エステ・ペスを十本食べたんで、俺の口……臭いかもしれないんだ」
「エステ・ペスって、何であんな物食べたの?」
驚きと呆れの入り混じった風な顔で、アシェンプテルは問う。
「呪いのせいだよ」
そうなった経緯を、果敢は説明する。
「ラプンツェル島から、ここまで飛んで来たんで、呪いを受ける事になったんだけど、それが『食い尽くせ神の足! エステ・ペス大食いに挑戦!』っていう奴だったんだ」
「呪いなら……仕方無いけど。そんなアリアンツ限定みたいな、変わった呪いまであるんだ」
「レベル1にしちゃ、かなりハードだったな。余りにも臭いんで、吐き出しそうになったよ」
エステ・ペスの悪臭を思い出し、果敢は顔を顰める。
「うちの軍で、あれを食べられる連中でも、一本食べるのがせいぜいだからね。十本も食べたら、吐かないのが不思議なくらい」
「まぁ、そんな訳で、まだ臭いが残ってるかも知れないんで、今はキスとか……しない方が良い訳さ」
自分とのキス自体が、嫌がられている訳ではないと知り、アシェンプテルは安堵の表情を浮かべる。
「でも、別に臭わないみたいだけど」
抱き寄せているので、既に二人は密着している。
でも、アシェンプテルは果敢の身体から、悪臭など嗅ぎ取れないのだ。
念の為に、果敢の唇に鼻を近付け、何度か強く嗅いでみる。
「唇からも、何の臭いもしない……気にし過ぎだよ」
「それなら、良いんだけど」
果敢は続ける。
「食べた後、ここに来る前に、少し間を置いたのが、良かっ……んッ!」
話の途中で、果敢はアシェンプテルに、唇を塞がれる。
最初は軽く重ねるだけだったが、すぐにアシェンプテルは、待ち切れないとばかりに、舌を絡め合うような、深いキスを始める。
長めのキスを楽しんでから、アシェンプテルは唇を離し、果敢の耳元で囁く。
「大丈夫、何時も通りで……臭ったりしないから、帰るのは後にして」
「いや、でも……仮眠取るんでしょ?」
「仮眠は……一緒に取れば良いじゃない」
しれっとした顔で言い放つと、アシェンプテルは果敢の手を取り、ウォークイン・クローゼットに向かう。
そして、中に入って扉を閉めると、果敢を抱き締めて、そのまま黒い簡易ベッドに倒れ込む。
簡易ベッドのパイプが軋むが、丈夫な軍用の物なので、アシェンプテルと果敢の体重を、余裕で受け止める。
「二人で使うには、ベッド小さくない?」
ベッドからはみ出し、落ちそうになりながら、果敢は問いかける。
タイタナイザーのせいで、大柄な人が多い軍人向けのベッドとは言え、二人で利用すると、さすがに少し小さいのだ。
「もっとくっ付けば、平気だよ」
アシェンプテルは果敢を抱き寄せ、腕だけでなく、長い脚を絡める。
密着の度合いが上がり、脚でもホールドされたせいで、アシェンプテルの言う通りになる。
当たり前のように、アシェンプテルは果敢と唇を重ねる。
深い口付けを楽しみつつ、両手で抱き締め、身体を密着させる。
(拙いよなぁ……こういうの)
そうは思いつつも、口に出しはしないし、抗いもしない。
過去の負い目や、レギーナ達相手に、キスどころでは無い行為を、散々して来た後なので、色々と負い目が多く、口には出し難いのだ。
ただ、アシェンプテルとのキスは、長くは続かなかった。
アシェンプテルは程無く、寝息を立て始めてしまったので。
「寝不足なんだろうな……」
幸せそうな、アシェンプテルの寝顔を見詰めながら、果敢は髪を撫でる。
そして、仮眠で疲れを癒し、寝不足を解消するアシェンプテルを、目覚めるまで見守り続けた。
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