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081 だったら、私も今夜は、外食にしようかな。良かったら、ご一緒しない?

「あれ? クルト君だよね?」


 日が落ちたばかりの、人で賑わうアベントレロの商店街を、四日振りに歩いていた果敢は、聞き覚えのある声を耳にする。

 声は後ろから聞こえて来たので、果敢は振り返って相手を確認する。


 そこには、キャメルのブラウスにジェヌカという、見慣れぬ私服姿のジーナがいた。手には黒いハンドバッグを、提げている。


「今週はキャンプじゃなかったの?」


「そのつもりだったんだけど、キャンプ道具にトラブルがあって、早目に切り上げたんだ」


 知り合いに出会った時の為に、用意しておいた言い訳を、果敢は口にする。

 本来の予定では、今日は海の近くでキャンプしていて、アベントレロにはいない筈なので、果敢は言い訳を用意していたのだ。


 仮眠を終えたアシェンプテルと別れた後、果敢はバジレーを離れ、キュレーター島に向かって飛び始めた。

 そして、果敢がキュレーター島に戻って来たのは、一時間程前。


 すぐさま、果敢は呪印を確認したのだが、レベルは2になっていた。

 その後、果敢は呪印を発動させ、呪いを身に受けてから、アパートへと戻った。


 ジェヌカと白のTシャツという、シンプルな普段着に着替えた果敢は、夕食を食べる為、商店街を訪れた。

 商店街の一部にある、東洋人達の店が集まる東洋街路オリエンタル・ストリートに行く為、商店街を歩いていた時、ジーナに声をかけられたのである。


「ジーナさんは?」


「仕事帰りよ。夕食の材料でも、買って帰ろうかなと思って」


 ジーナは果敢に、訊き返す。


「クルト君は?」


「俺も夕食の為だよ。材料買うんじゃなくて、東洋街路で外食するつもりだけど」


 少しだけ考えてから、かなりの勇気を振り絞り、ジーナは誘いの言葉を口にする。


「だったら、私も今夜は、外食にしようかな。良かったら、ご一緒しない?」


 ブラックハウスでは日常的に会うし、話す仲なのだが、ギルドの職員と冒険者という仕事上の立場でしか、果敢はジーナと話した事が無い。

 仕事では無い場面で話すのが、初めてだったのだ。


 ジーナの誘いを、果敢は少し意外には思った。

 でも、仕事中では無い普段のジーナが、どんな風な人物なのか、果敢は興味を抱いた。


 結果、果敢は誘いの言葉への、答を出す。


「良いけど、高い店には付き合えないよ」


「高い店なんて行かないし、この辺り……高い店なんて無いでしょ」


「そういえば、そうだった」


 果敢とジーナは、顔を見合わせて笑う。

 商店街にある飲食店は、手頃な値段か、それ以下の安い店が殆どなのだ。


 キュレーター島にも、高い店はあるのだが、そういった店は冒険者達は好まない。

 観光客向けの宿や店、資産家向けの別荘地などが集まる地区に、高い店も集まっているのである。


「店とか料理とか、希望ある? 俺は東洋街路のフードスタンド・フェスティバルに、行くつもりだったんだけど」


 フードスタンドとは、屋台のようなものだ。

 商店街のあちこちには、公園のような広場があり、イベントスペースとして利用されている。


 夕食をどうするか考えていた時、東洋街路の広場……東洋広場オリエンタル・プラザで、フードスタンド・フェスティバルというイベントをやっているのを、果敢は思い出した。

 グリム大陸に向かう前日の夜、ディエゴの図書館で、ユウキから話を聞いていたので。


 ユウキの働くミツイヤも、東洋街路にある。

 フードスタンド・フェスティバルには、ミツイヤも参加するので、これから少しの間、かなり忙しくなるという話を、果敢はユウキに聞いていたのである。


「フードスタンド・フェスティバルか、面白そうだね。それで良いんじゃない?」


「じゃあ、決まりだね」


 話がまとまったので、果敢とジーナは、並んで商店街を歩き始める。


「キャンプ中、少しくらい修業した?」


 いきなり問われて、果敢は気まずそうに答える。


「え? いや、まぁ……多少は」


「してないって顔だね、それは」


 ジーナの頭に、「あんたがキャンプについていって、修行させればいいのよ」という、ジュリアにされたアドバイスが浮かぶ。

 だが、夕食を共にしようと誘う事だけで、ジーナは今夜使える勇気を、使い切ってしまっていた為、アドバイスに従うのは無理であった。


 更なる誘いの言葉など、口にする事は出来ず、そのまま普通に雑談が続いてしまう。

 そして、話している内に、瓦葺の屋根を持つ、立派な門を持つ横道が見えて来る。


 日本の中華街の入り口にある、牌楼はいろうのような門があるのだ。

 この世界の東洋には、中国のような国があり、その国から来た人々が、東洋街路には多くの店を出しているので、出入り口の片方には、牌楼が作られている。


 反対側の出入り口には、赤い鳥居のような門がある。

 この世界の東洋には、日本に似た国もあるらしく、そこから来た人々も多い為、もう片方の出入り口には、鳥居が作られたのだ。


 東洋の二つの大国からの人々を中心に、様々な東洋から来た人々の店が、東洋街路には軒を連ねている。

 キュレーター島には東洋人は少ない為、東洋人向けの店も少ないのだが、それでも東洋街路には、五十軒程の東洋人の店が並んでいる。


 日本風の食べ物や商品が手に入るので、果敢は良く東洋街路を訪れる。

 冒険者向けの店が数多い商店街の中で、果敢がミツイヤを使うようになったのも、果敢が東洋街路を良く訪れるからだ。


 果敢とジーナは牌楼を潜り、東洋街路に足を踏み入れる。

 入口辺りこそ、日本の中華街風だが、様々な東洋系の文化が入り混じっているので、足を進めると、より混沌とした雰囲気の通りに、目に映る光景は変わって行く。


 賑わう通りを歩いて行くと、建物が無い一角が姿を現す。

 フードスタンド・フェスティバルが催されている東洋広場に、果敢達は辿り着いたのだ。


 サッカー場程の広さがある東洋広場には、多数の屋台風の店……フードスタンドや、飲食用のテーブル席が用意されている。

 既に結構な数の客達が訪れていて、テーブル席の七割程は埋まっている。


 限られた範囲とはいえ、祭のような雰囲気は、訪れる客達の心を躍らせ、財布の紐を緩めさせる。

 客達の楽し気な声と、香ばしい食べ物の匂いが、広場には満ちていた。


 普段の東洋街路では見ないような、珍しい食べ物の店が、あちこちにある。

 果敢とジーナは、祭の出店を回るカップルのように、フードスタンドを見て回る。


 グリム大陸の影響が強いキュレーター島では、マイナーな存在である、米料理や米を使った酒などが、あちこちで売られている。

 汁につけて食べる麺類なども珍しく、扱いなれない割り箸で、不器用に食べている客達の姿が、あちこちで見られる。


「あれ? この匂いは……」


 そして、色々なフードスタンドを見て回る内、香ばしい懐かしい匂いを、果敢は嗅ぎ取る。

 匂いに引き寄せられ、果敢はジーナと共に歩いて行くと、そこには焼き鳥のフードスタンドがあった。


 果敢が知っている、日本の焼き鳥の屋台とは、かなり感じが違っていて、店舗自体は西洋風の、箱のようなフードスタンドだが、焼き鳥の匂いと見た目、調理法自体は、果敢が知っている焼き鳥と同じだ。

 商品名も、グリム大陸の言語で、「焼き鳥」と表示されている。


(やっぱ焼き鳥か! 懐かしいねぇ!)


 匂いに引き寄せられた客達に混ざり、果敢はフードスタンドを覗き込む。

 すると、フードスタンドの内側には、藍染の法被を着て、頭に捩じり鉢巻きをしているユウキがいて、焼き鳥を焼いていた。




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