079 また、レギーナに付き合って、色んな女相手に……その……ああいう事してた訳?
「ところで、魔族とゴッドフリートを殺したのは、猫の仮面をかぶった、ディアンドル姿の少女だって報道されてるんだけど、どういう事?」
そんな感じのイラストが描かれた、新聞の紙面を、アシェンプテルは果敢に見せる。
「イラストまで載ってるのか!」
女装していた時の自分を、上手く描いたイラストを目にして、果敢は驚きの声を上げる。
ちなみに、クルトとしての生活を始めてから、果敢の禁写魔術は解除されているので、今は姿を普通に描けるようになっている。
下級の冒険者なのに、まともに写真が撮れなかったり、似顔絵が描けなかったりすると、その方が怪しまれてしまう。
故に、髪と肌の色を変え、クルトとなってからは、禁写魔術を解除してあるのだ。
ちなみに、果敢の禁写魔術は、レギーナがかけたものであった。
果敢は禁写魔術を、自分では使えないので。
「猫の仮面は、いつもかぶってる奴なんだろうけど、何なの……このディアンドル姿は?」
果敢が人助けの際、猫の仮面をかぶり、顔を隠している事を、アシェンプテルは知っていた。
でも、ディアンドル姿の方は、果敢とのつながりが、アシェンプテルには思い付かなかったのだ。
恐る恐る、アシェンプテルは訊ねる。
「まさか……女装趣味にでも、目覚めたの?」
(この質問、何度目だろう?)
げんなりとしながら、果敢は問いに答える。
「呪いだよ。二十四時間、女装し続ける呪いの最中だったんだ」
果敢が女装趣味に目覚めた訳では無いと知り、アシェンプテルは安堵の表情を浮かべる。
「私が頼んだせいで、今回も色々と……妙な呪いに、苦しめられたみたいで、悪かったね」
「気にするな、人助けにはなったんだから、構いはしないさ」
ほっとした風な顔をしてから、アシェンプテルは何かを思い出したかのように、いきなり厳しい表情になる。
そして、新聞に大きい文字で印刷された、「特級魔族」という文字を指差し、果敢に問いかける。
「呪いと言えば……特級魔族が出現したって事は、魔女の塔に……行ってたんだよね?」
気まずそうに、果敢は答を返す。
「それは、まぁ……そうだけど」
大きく溜息を吐いてから、アシェンプテルは口を開く。
「特級魔族が出たのなら、仕方が無いって言ったでしょ。魔女の塔に行った事なら、別に気にしてないから」
アシェンプテルの言葉を聞いて、果敢は安堵する。
「でも、新聞記事によると、三日前には片付いてたのよね?」
探るような口調で、アシェンプテルは続ける。
「うちの情報網でも、この事件が三日前に起こったのは、一昨日には掴んでいたから、間違い無い筈だよ」
「記事の……通りだよ」
「つまり、魔女の塔には、三泊した訳だ?」
「まぁ、そうなるね……」
「レベル5の呪いの処理があるから、一泊は仕方が無いとしても、残りの二泊というか、丸二日……魔女の塔で、何してた訳?」
「それは、その……」
言い難い事をしていたので、果敢は返答に困る。
「また、レギーナに付き合って、色んな女相手に……その……ああいう事してた訳?」
「いや、あれは……あくまでも呪術と呪印の、研究の為で……」
事実ではあるのだが、自身の性的なモラルからも外れた行為をしている為、果敢は後ろめたさを感じている。
そのせいで、果敢の目は、不自然に泳いでしまう。
「そんな事言って、ホントはカカンもレギーナ達も、実験を言い訳にして、楽しんでるだけじゃないの?」
訝し気な半目のアシェンプテルに問われ、果敢は即答する。
「楽しんでるだけの訳……無いだろ。日本には帰りたいし、帰る為の方法が見付かる手掛かりは、今の所……あの実験しか無いんだから」
果敢が日本に帰りたがっているのも、他に手掛かりが無いのも、アシェンプテルは知っている。
故に、それ以上の疑いの言葉を、アシェンプテルとしては、口にし難くなる。
そこで、アシェンプテルは攻め手を変える。
「でも、避妊魔術は完璧じゃないんだから、あんな実験に付き合い続けてると、その内……子供が出来て、日本に戻れなくなるでしょ」
アシェンプテルは、言い足す。
「子供が出来たら、堕ろさせたりは出来ないだろうし、子供を置いて日本に戻ったりは、出来ないもんね……カカンの場合は」
果敢は、言い返せない。
アシェンプテルの言う通り、わざわざ異世界に来て、命懸けで戦い続け、世界を救った程度には、正義感があるタイプの果敢の場合、そんな無責任は真似は出来ない。
誰かに子供が出来てしまった場合、この世界に留まり、父親としての責任を果たすつもりなのだ。
「レギーナ達は、そうなるのを狙ってるんじゃないのかな?」
「そんな事は……無いと思うけど」
「甘いのよカカンは、既成事実を積み重ねようとしてるに、決まってるじゃない」
既成事実と言う言葉を聞いて、果敢の頭に、ヴィルナの言葉が蘇る。
「まぁ、楽しむだけじゃなくて、既成事実作るのも、狙ってたりはするけどね。何せ……レギーナのあの魔術は、完璧って訳じゃないから」
(冗談って感じだったけど、あれ……本音だったりするのかねぇ?)
そんな疑問が、果敢の頭に浮かぶ。
「思い当たる節が、有るみたいじゃない?」
(ほんと……こういう事に関しては、女は勘が良いから困る)
半目のアシェンプテルに問われ、果敢は心の中で呟く。
ブラウ・バナーヌのウェイトレスに対して、似たような事を感じたばかりなのを、果敢は思い出す。




