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073 どうかな? 口ではそんな事を言いつつも、割と流され始めているように、私には思えるんだけど

 爽やかな朝の風が、魔女の塔の屋上を吹き抜ける。

 朝日に照らされた屋上は、飛行場のようにも見えるのだが、実際に飛行機や硬式飛行船の発着場としても、利用される場合がある。


 まだ早朝といえる時間帯にも関わらず、屋上の南端には人が集まっている。

 キュレーター島に戻る果敢を見送る為、魔女達が集まっているのだ。


 果敢は黒い戦闘服姿だが、見送りの魔女達は、まだ仕事前の時間帯なので、様々な私服に身を包んでいる。

 魔女の数は六人、夜中まで続いていた、レベル5の呪いの実験に参加していた、女性達である。


 実験を行う本人であるレギーナは当然、ヴィルナとマリオンだけでなく、他にも三人の魔女達が参加していた。

 いずれもラプンツェルス・フリューゲルのメンバーであり、レギーナが組もうとしているコビーナにも、参加する予定の魔女達だ。


 レベル5の呪いを身に受けた果敢が、魔女の塔を訪れる場合、キュレーター島に戻る前に、呪術と呪印に関するレギーナの実験に、付き合う事になる。

 大抵は何泊かした上で、レベル5の呪いの発動実験を、果敢は受けるのである。


 滞在日数は、特に決まっていない。

 実験は多忙なレギーナのスケジュールの影響を受けるので、レギーナが実験に時間を割けなくなる辺りで、果敢はキュレーター島に帰還するのだ。


 今回、果敢は魔女の塔に、三泊する事になった。

 今日からレギーナが、遺跡調査に向かう為、実験を行う余裕がなくなるので、今朝……果敢は魔女の塔を、発とうとしていた。


 魔女の塔を発つ時、レギーナからは毎回のように、飛行機を出すと言われるのだが、果敢は断る事にしている。

 飛行機を使えば、呪いを身に受けずには済むのだが、飛行機は他国の領空に入った場合、飛行能力を持つ国境警備隊などに、臨検を受ける場合がある。


 その際、可能性は低いとはいえ、自分が元英雄である事がばれてしまえば、魔女の塔に迷惑をかけてしまう。

 故に、果敢は飛行機を断り、自力で飛んで戻る事にしているのだ。


 外見を偽装する魔術を使い、既に果敢はクルトとしての外見になっている。


「見送らなくても良かったんだけど……わざわざ悪いね、朝早いのに」


 六人の魔女達に、果敢は申し訳無さそうに、言葉を続ける。


「あと、ホント……色々と有難う、実験に付き合ってくれて」


「礼は不要だよ、この世界が君から受けた恩義に比べれば、どうという事は無い恩返しに過ぎないんだ」


 言葉を返したのは、レギーナと同程度の年齢に見える、長い赤毛の魔女だ。

 普段は結い上げているのだが、今は起きたばかりの仕事前なので、髪は下ろした状態。


 魔女としては珍しく、白衣を好んでいて、今もジェヌカに白衣という出で立ちだ。

 ヴィルナと同程度の背の高さで、グラマラスな身体をしている。


 真面目そうな顔立ちの印象を裏切らず、糞が付く程に真面目な、研究者肌の魔女なのだが、戦闘力も高い。


「それに、私の場合は、仕事にも役立つからね」


 赤毛の魔女の言葉を、胸の膨らみが目立ち過ぎる黒いニットに、黒のカーゴパンツという出で立ちのヴィルナが受け継ぐ。


「ソフィーは呪術も、研究対象だからな」


 赤毛の魔女……ソフィー・カルティエは、魔女の塔で様々な術の研究を行っている。

 呪術も研究対象なので、ソフィーからすれば、レギーナが行う実験に参加するのは、研究上のメリットもあるのだ。


「毎回言ってる気もするけど、僕等も本音を言えば、カカンとの実験……楽しんでたりするから、余計な気は使わなくて良いよ」


 深い海を思わせる色合いのシャツと、ジェヌカという出で立ちのマリオンの言葉を、ヴィルナが受け継ぐ。


「まぁ、楽しむだけじゃなくて、既成事実作るのも、狙ってたりはするけどね。何せ……レギーナのあの魔術は、完璧って訳じゃないから」


 ヴィルナの言う「あの魔術」というのは、避妊用の魔術だ。

 厳密に言えば聖魔術の一種なのだが、ヴィルナの言う通り完璧ではなく、確率は低いが、妊娠してしまう可能性がある。


 魔女の塔で、果敢が女性達と身体の関係を持つ場合、部屋にはレギーナにより、避妊用の魔術が仕掛けられている。

 それ故、殆ど妊娠する可能性は無い。


 ただ、魔術の避妊能力は完全では無いので、ヴィルナの言うところの「既成事実」が作られてしまう可能性もあるのだ。

 そして、子供が出来てしまえば、果敢の性格上、日本に戻らなくなる可能性が高い。


 冗談のようにヴィルナが口にした、「既成事実作るのも、狙ってたりはする」という言葉は、本音なのだ。

 果敢の意思に反してまで、強引に子供を作る気は無いのだが、出来てしまったのなら、仕方が無い……といった、考えなのである。


 ヴィルナだけでなく、果敢をウィル・シャーリングとして、コビーナを作ろうとしている女性達は、基本的には似たような考えと言える。


「アシェンプテルの所には、寄るのかい?」


 黒いワンピース姿のレギーナが、果敢に問いかける。


「厄介事を片付けた事を、報告する必要があるから、寄るつもりだけど」


「たまには魔女の塔に顔を出せって、伝えておいてくれ」


 レギーナの頼みに、果敢は頷く。


「今度、果敢が魔女の塔に来た時は、参加する気があるなら、レベル5の呪いの発動実験に、招待するって事も」


「参加する訳無いの、分かってて言ってるだろ?」


「そろそろ頭の固いアシェンプテルでも、考えは変わったかもしれないじゃないか」


 レギーナは笑顔で、言葉を続ける。


「私は君をウィル・シャーリングにするのも、その上でアシェンプテルを、コビーナに加えるのも、諦めていないからね。誘える機会には、誘っておくさ」


「いや、出来れば……俺の方は、諦めて欲しいんだけど。なる気無いんだから」


「どうかな? 口ではそんな事を言いつつも、割と流され始めているように、私には思えるんだけど」


 レギーナの言葉に、果敢は言い返せなかった。

 流され始めている自覚が、果敢自身にも、無い訳では無かったので。


 言い返せぬまま、果敢は気まずそうに、別れの挨拶を口にする。


「それじゃ、またな!」


 果敢はエアリアルを発動すると、ふわりと宙に舞い上がる。

 そして、手を振るレギーナ達に手を振り返しながら、戦闘服に魔力を流し、青空と同じ色に変え、一気に高度を上げる。


 高度千メートル程の高さに達した辺りで、水平飛行に切り替えると、時速三百キロ程の巡航速度で、南に向かって飛び始めた。

 ラプンツェル島からは、ほぼ南にある、アリアンツ共和国を目指して……。



    ×    ×    ×





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