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067 助かった……口ではレギーナには、勝てっこないからな

 魔女の塔は女性社会であり、魔術を最優先とする魔女達が集まる為、レギーナのように魔術一筋に生きてしまう、魔女達が多い。

 故に、魔女達の多くは、恋愛や結婚と無縁で生きてしまう。


 そんな魔女達でも、子孫を残す事を望む場合がある。

 どうせ子孫を残すのであれば、魔力が強く、魔術の才能に恵まれた男性が良いと、子孫を望む魔女達の多くは考える。


 だが、並外れた魔力と魔術の才能を持つ、魔女の塔の魔女達が、子孫を残す相手として相応しいと思える程、魔力や魔術の才能に恵まれた男性というのは、殆ど存在しない。

 そして、ごく稀に存在する、そういった男性が現れると、魔女達の間で壮絶な奪い合いが、発生しかねない。


 超高度な魔術の使い手である、魔女の塔の魔女達が、本気で男性の奪い合いをすると、凄まじい被害が出てしまう。

 遠い過去には実際、そんな争いが何度も起こってしまい、大量の死者が出た事すらあったのだ。


 そこで、魔女の塔で生まれた制度が、ウィル・シャーリングである。

 ウィル・シャーリングはグリム大陸の古い言葉で、「共有の夫」といった感じの意味となる。


 有り体に言えば、一夫多妻制に類する制度といえる。

 男性を巡って争い、被害を出すなど馬鹿らしいので、魔力や魔術の才能に恵まれた男性は、独占せずに共有してしまおうという制度なのだ。


 子孫を残す事を望む魔女達は、親しい者達で集まり、コビーナというグループを作る。

 そして、コビーナの皆が、子孫を残す相手として相応しいと思える程の男性を見付けたら、ウィル・シャーリング……共有の夫にしてしまうのである。


 戦争も後半に入った頃、二十代の後半になったレギーナは、仲間の魔女達と、コビーナを作ろうという話をしていた。

 レギーナも戦争で、何度か死にそうな目に遭った結果、子孫を残したいと考えるようになったので。


 その際、レギーナと仲間達の間で、ウィル・シャーリングの候補として名が挙がったのは、果敢だけだったのだ。

 既にその頃、果敢は魔術こそ、レギーナ達には遠く及ばなかったが、魔力だけなら、レギーナに近い程になっていた。


 人並外れた魔力を持つだけでなく、レギーナと仲間達……ラプンツェルス・フリューゲルの者達は、皆が果敢と親しかったので、皆がウィル・シャーリングにするなら果敢だろうと、名を挙げたのだ。

 しかし、戦争が終われば、日本に帰ってしまう果敢を、ウィル・シャーリングにするのは無理なので、コビーナを作る話は実行には移されず、話だけで終わっていたのである。


 だが、アスタロトの呪いのせいで、果敢が当分は日本に帰れない事が、確定した状況になった。

 しかも、呪術と呪印の研究の為、レギーナとラプンツェルス・フリューゲルの面々は、果敢を相手に初体験を果し、継続的に身体の関係を持つ事になってしまった。


 その結果、レギーナ達の間で、再び果敢をウィル・シャーリングとした、コビーナを作ろうという話が持ち上がったのだ。

 今回はレギーナ達だけでなく、魔女の塔の所属となり、共に果敢の相手をしていた、トレイル・ブレイザーズの者達も加わる形で。


 女性達の間で話がまとまったので、代表者であるレギーナは、日本に帰るまでで良いので、自分達のウィル・シャーリングになって欲しいと、果敢に頼んだ。

 だが、その依頼は果敢に、断られてしまったのだ。


 ウィル・シャーリングという制度は、さすがに日本人としての常識から外れ過ぎていた上、何時かは日本に帰るので、この世界で彼女を作らないという、果敢の決意にも反していた。

 故に、世話になりっ放しになっているレギーナや、他の女性達の頼みであれば、なるべくなら断りたくはない果敢だったのだが、断ったのである。


 しかし、レギーナ達は諦めず、果敢をウィル・シャーリングにすべく、誘い続けているのだ。

 継続的に身体の関係を持ち続けた結果、レギーナ達の果敢に対するこだわりは、強まってしまった。


 呪いの為とはいえ、このまま身体の関係を続け、既成事実を積み重ねてしまえば、その内果敢も折れるだろうと、レギーナ達は画策中であったりもするのだ。

 その事を、果敢は知らないのだが。


 トレイル・ブレイザーズが仲間に加わった際、実はアシェンプテルにも、レギーナは仲間に加わるように、誘いをかけていた。

 アシェンプテルが、果敢に恋愛感情を持っていて、既に身体の関係があったのを、レギーナは知っていたので。


 だが、普通に恋愛した上で、結婚する事を望んでいたアシェンプテルは、レギーナの誘いを断った。

 アシェンプテルのように、ウィル・シャーリングを支持していない魔女も、魔女の塔にはいるのである。


 兎に角、こういった経緯で、果敢はレギーナ……というよりは、レギーナ達に、ウィル・シャーリングになるように誘われ続けては、断り続けているのだ。


「むしろ、君は私達のウィル・シャーリングになってこそ、男としての責任を果す事になると思うのだが……違うかな?」


 レギーナの問いに、どう言い返せば良いのか、上手い言葉が思い浮かばず、果敢は目線を泳がせる。

 その時、カウベルの音に似た、軽やかな呼び鈴の音が鳴る。


「ヴィルナかな?」


 壁にかけられた時計に、レギーナは目をやる。

 ちょうど、ヴィルナが仕事に戻ってから、一時間程が過ぎていたので、レギーナは来客がヴィルナだと思ったのだ。


 レギーナは立ち上がり、玄関の方に向かって歩き出し、リビングルームを出て行く。


(助かった……口ではレギーナには、勝てっこないからな)


 ウィル・シャーリングに関する会話が打ち切られたので、果敢は安堵し、溜息を吐く。

 年上であり、色々と世話になりっ放しであるレギーナに、果敢は頭が上がらない。


 しかも、レギーナは頭が良く、かなり弁も立つ。

 そんなレギーナに説得されると、果敢はウィル・シャーリングになる事を、自分の考えに反して、受け入れそうになってしまうのだ。


(ウィル・シャーリングの話は、始まったら……すぐに話題を変えるか、逃げた方が良さそうだ……)


 果敢は心の中で、そんな策を練る。





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