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066 前から言っている事だが、君が日本に帰れる可能性は、かなり低い

「つまり、今回はアシェンプテルの依頼だった訳だね?」


 レギーナの問いに、果敢は頷く。


「昨日……キャンプしてたら、いきなり現れて、押し付けられたんだ。ローゼンハイン侯爵領に、強力な魔族が現れた可能性が高いって」


「もう片付いたのか?」


「片付いたよ。償還時の契約を果し終える前に、大元の召喚者である、ゴッドフリートを殺したからな……」


 果敢は答を、付け加える。


「仮に討ち漏らした魔族がいたとしても、魔界に戻された筈だ」


 魔族を魔界から召喚した場合、召喚時の契約を果し終える前に、召喚した人族が死ぬと、召喚された魔族は魔界に、強制的に帰還させられる。

 しかも、魔術の能力が半減するペナルティまで、受けてしまうのだ。


 ペナルティは、それだけでは無い。

 魔族が麾下召喚魔術を使っていた場合、呼び寄せた配下の魔族達までも、全て魔術の能力が半減した状態で、魔界に戻されてしまうのである。


 ローゼンハイン侯爵領の、平等派殲滅という召喚目的を、チキータが果たし終えていない段階で、召喚者であるゴッドフリートは殺された。

 故に、チキータは既に殺されていたが、チキータが麾下召喚を行った配下の魔族達は、生き残っていたとしても、魔界に戻された筈なのだ。


「昨日の今日で問題解決か、相変わらず仕事が速いな」


「運が良かっただけだよ」


 謙遜では無く、運良く情報が上手い具合に入手できたお陰で、問題が早々と片付いたというのが、果敢の認識だった。


「まぁ、とにかく……詳しい話を聞かせてくれ。この前会ってから身に受けた、他の呪いに関する話も含めて」


 レギーナの言葉に頷くと、果敢は今回の一件について、詳しく話し始める。

 今回の件とは無関係な、最近身に受けた呪いについても。


 謎が多過ぎる「月のルーレット」という呪術について、研究を進める為に、果敢が身に受けた呪いについてのデータを、レギーナは集めている。

 それ故、果敢はレギーナと遭った時は、自分が身に受けた呪いについて、なるべく詳しく話すのだ。


 危険な目に遭う冒険者達が多いキュレーター島では、果敢は割と頻繁に人助けをしてしまい、呪いを身に受ける羽目になっている。

 当然、呪いに関するエピソードには事欠かず、話は長引いてしまう。


 間に無関係な雑談や、近況報告なども含まれるので、今回の一件や、最近の呪いについての話が終わった頃には、一時間近くが過ぎていた。

 果敢の一連の報告が終わったので、レギーナは別の話題を切り出す。


「ところで……ウィル・シャーリングの件だけど、気は変わったかい?」


 果敢は気まずそうに、半目になり、レギーナに答を返す。


「悪いけど……変わらないよ」


「合理的に考えれば、私達のウィル・シャーリングになる話を、君は断るべきではないんだが……」


 不思議そうな顔で、レギーナは続ける。


「君は戦いに関しては、徹底して合理的に物を考えられるのに、女性や恋愛に関わる事だと、合理性の欠片も無くなるね」


「合理的かどうかという問題じゃなくて、男としての責任の問題で……」


「俺は日本に帰るから、この世界で誰かと付き合っても、いずれ別れる羽目になるんで、この世界では誰とも付き合う気はないとか、相変わらず非合理的な事を、考えているんだろう?」


「それは、そうだけど」


「前から言っている事だが、君が日本に帰れる可能性は、かなり低い」


 正直な認識を、レギーナは果敢に突き付ける。


「研究は進めているし、色々と分かって来た事もあるので、帰れる可能性が無い訳じゃないが、それが現実なんだ。戻れる可能性は低いし、戻れたとしても、かなり先の事になるだろう」


 レギーナは多少、言い訳染みた言葉を付け加える。


「誓って言うが、君に日本に帰って欲しくないから、研究に手を抜いている訳でも、嘘を吐いている訳でもない」


 そんな真似をしない人間なのは、果敢も知っているので、レギーナの言葉を疑いはしない。


「日本に帰るのを、諦めるなとは言わない。でも……この世界で長期間、暮らし続ける方向性に、考えを切り替えた方が……合理的で現実的、そして何より、君の為になると、私は思うんだがね」


「そういう判断を、しなきゃならない時が、何時かは来るのかもしれないけど、まだ……そんな気にはなれないよ」


 果敢は目線を落とし、言葉を続ける。


「それに、この世界で暮らす方向性に切り替えたとしても、ウィル・シャーリングになるというのは、俺には無理だって」


「何故だい?」


「日本の制度とは、余りにも違い過ぎて、さすがに……やっていける自信が無いというか……無茶過ぎる制度だとしか、思えなくて」


「無理も何も、今と大して、やっている事は変わらないだろう」


 レギーナは言い足す。


「君が今現在、曖昧な関係で相手にしている魔女達を、正式な関係になった上で、相手をするだけの話なのだし」


「いや、今は……呪いの為に、そういう関係になっているだけで……」


 気まずそうに言い訳をする果敢に、レギーナは言葉を返す。


「それでも、君が私達を抱いているのは、事実じゃないか。どうせ抱くのなら、正式な関係の相手となった上で抱く方が、無責任では無いと思うんだがね?」


 果敢は返答に詰まる。

 呪いがレベル5に達した時、相手をして貰ったり、呪いの研究の為、故意にレベル5の呪いを、共に身に受けて貰ったりする形で、果敢がレギーナ達を抱いているのは、ただの事実。


 レギーナ達の厚情や好意に甘え、世話になる形で、曖昧な関係のまま、身体の関係を続けるよりは、正式な関係となった方が、無責任ではないのかもしれないと、果敢も思う時がある。

 ただ、幾らレギーナ達が望んでの事だとはいえ、ウィル・シャーリングという制度は、果敢にとっての常識に外れ過ぎていて、容易には受け入れ難いのだ。


 果敢は以前より、自分達のウィル・シャーリングになるように、レギーナ達から頼まれているのだが、断り続けている。

 ウィル・シャーリングというのは、魔女の塔の変わった制度の名だ。




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