065 今夜はヴィルナとマリオンが、泊まりに来る事になっていたんだ
「今夜はヴィルナとマリオンが、泊まりに来る事になっていたんだ」
インターホン越しに、「随分と早いじゃないか。夕食までは、まだ時間があると思うんだが」と、レギーナはヴィルナに言っていた。
ヴィルナとマリオンの仕事は、夕食前辺りの時間に終わる予定だったので、レギーナは二人が来るには、まだ早いと思っていたのだ。
「丁度良いから、今回は私達三人で相手をしよう」
レギーナは一応、ヴィルナの意志を確認する。
「構わないよね?」
ヴィルナは、レギーナの問いに頷く。
女性二人は平然と、複数で果敢の相手をする話を、まとめてしまう。
魔女の塔で、果敢がレベル5の呪いを身に受ける際、複数の女性が相手をするのは、当たり前の事になっているのだ。
その方が、呪術と呪印の研究の為のデータを取るレギーナにとって、都合が良いので。
レベル5の呪いが発動すると、近くにいる女性達は、呪いに巻き込まれ、果敢と身体の関係を持つ事になる。
当然、データを取ろうとするレギーナも、巻き込まれてしまう。
レギーナであっても、果敢の相手をしながら、データを集めるのは、かなり難しい。
でも、果敢の相手をする女性が複数であれば、他の女性が果敢の相手をしている時、レギーナはデータ収集に専念出来る。
逆に、レギーナが果敢の相手をしている時は、果敢の相手をしていない女性に、データ集めを頼む事も出来る。
データ収集の為には、複数の女性が果敢の相手をした方が、都合が良いのだ。
それ故、呪いがレベル5になってしまった果敢が、魔女の塔で呪いを発動させる場合、大抵は複数の女性が相手となる。
魔女の塔には、果敢の相手になっても構わない……というよりは、むしろ望んでいる女性が、何人もいるので、相手の調達には困らない。
相手となるのは、レギーナ本人に加え、レギーナと親しい魔女達で構成されていた、ラプンツェルス・フリューゲルにも参加していた魔女達や、トレイル・ブレイザーズのメンバー達である。
トレイル・ブレイザーズとは、果敢が最初にレベル5の呪いを身に受けた時、その相手となった女性パーティの名だ。
トレイル・ブレイザーズのメンバー達は、戦後はレギーナにスカウトされ、五人全員が魔女の塔に移籍していた。
最初に身体の関係を持ってしまった気楽さからか、トレイル・ブレイザーズの五人は、レギーナに次いで、相手をする事が多くなっている。
今現在、魔女の塔にいるトレイル・ブレイザーズのメンバーは、ヴィルナとマリオンの二人だけ。
他の三人は、仕事で魔女の塔を離れていて、不在なのだ。
「まぁ、とにかく……中に入り給え、歓迎するよ」
レギーナは果敢を、家の中に招き入れる。
「邪魔させて貰うよ」
そう言いながら、果敢は出入口から中に入る。
「それじゃ、まだ仕事があるから」
ヴィルナは家の中には入らず、果敢とレギーナに声をかける。
仕事中のヴィルナは、あくまでも果敢の付き添いの為、ここまで来ただけなので、仕事に戻るのだ。
レギーナの家は、何度も訪れた事があるので、別に案内が必要な訳ではない。
ただ、長であるレギーナの友人とはいえ、外部の人間が一人で塔内を移動する事は、魔女の塔では許されない為、果敢はレギーナの家まで、ヴィルナに付き添ってもらったのである。
「あと一時間くらいで、仕事終わるから……また来るよ!」
そう言うと、ヴィルナは発動したままのエアリアルで、宙に舞い上がる。
飛んで来た方向に向かって、ヴィルナは飛び去って行く。
果敢とレギーナは、ヴィルナを見送ってから、ドアを閉める。
玄関ホールを通り抜け、果敢はレギーナと共に、リビングルームへと移動する。
黒一色で無機質な感じの、建物の外観とは違い、内装は白壁に木製の家具が多い感じ。
一人暮らしなのだが、友人や部下が頻繁に泊まりに来るので、大家族が住める程度に、全体的に広々としている。
隣にあるダイニングキッチンの方から、シチューらしき甘い匂いが漂って来る。
「料理中だったんだ?」
「ま、大したもんじゃないが、マリオンとヴィルナが来る事になってたからね」
レギーナは付け加える。
「多目に作ったんで、カカンの分も余裕であるから、安心しなよ」
「それは有難い。今日は派手に戦ったからな、飛んで来る途中、一応は軽く食事したんだけど、腹減っているんだ」
「だったら、夕食前だけど、何か出そうか?」
いきなり押しかけて、食べ物を出して貰うのも悪い気がしたので、果敢は首を横にする。
「とりあえず、今は座りたい。ソファー借りるよ」
白いソファーに、果敢は腰かける。
激しい戦闘の後、長時間飛び続けたので、かなり果敢は疲れていたのだ。
果敢はクリケを呟き、魔術を解除する。
すると、果敢の肌や髪の色が、本来の日本人らしい色に戻る。
外見を偽装する必要が無くなったので、果敢は本来の姿に戻ったのだ。
レギーナの家を訪れた場合、果敢は大抵は本来の姿に戻る。
「やはり、その色の方が似合うな」
黒髪と色白の肌に戻った、果敢の姿の感想を述べつつ、果敢の左側に腰かけると、レギーナは訊ねる。
「それで……戦いの相手は、何者だったんだ? 疲れてるみたいだし、レベル5に達したって事は、強敵だったようだが」
「特級魔族だよ、かなり強かった」
「特級か……久し振りに出たな」
少しだけ驚いた風な表情で、レギーナは続ける。
「アスタロト・ファミリーの残党かい?」
「いや、ブレーメンのローゼンハイン侯爵が、魔界から召喚した奴だ」
「ブレーメンの貴族が? 何でそんな……馬鹿な真似を?」
今度は、かなり驚いた風な表情で、レギーナは問いかける。
「領内の平等派を潰すのに、利用していたんだ。騎士団にやらせようとしたら断られたんで、魔族に頼ったんだとさ」
「それは……救い難いレベルの下衆だな」
レギーナは呆れ顔で、感想を口にする。
「ローゼンハインと言えば、今は廃れてしまったが、昔は魔術の名門だったというのに、貧すれば鈍するという奴か……」
「アシェンプテルも言ってたな、ローゼンハインは昔は魔術の名門だったって」
この流れで、果敢がアシェンプテルの名を出したので、レギーナは大よその事情を察する。




