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060 お前は魔族にも劣る下衆だ、助ける価値は無い

「何故、そんな愚かな真似を?」


 答えたくなどないのだが、ゴッドフリートは司祭の問いに、正直に答えてしまう。


「領内で平等派の勢いが増して来たのでな、騎士団に潰させようとしたのだが、あの馬鹿共……命令を拒否しおったのだ! 罪の無い領民達に、そのような真似など出来ぬなどと言いおって!」


(俺の討伐隊に参加してるとはいえ、その程度のモラルはあった訳か、ここの騎士団連中には)


 心の中で、果敢は呟いた。


「騎士団に拒否されたから、魔族を召喚して、平等派を潰させたと?」


「その通り! 元英雄を見付け出せもしない騎士団よりも、魔族達の方が、余程役に立ってくれたぞ!」


 ゴッドフリートの言葉を聞いて、司祭は呆れ顔を浮かべる。


「こいつは特級魔族を召喚した、百人以上の人間が生贄にされた筈だ。生贄にした人間を、どこからどうやって集めたか、訊いてくれ」


 果敢の依頼に、司祭は頷くと、ゴッドフリートに問いかける。


「魔族の召喚に利用した生贄は、どうやって集めたのです?」


「クラセナー村に、密かに召喚用の魔術印を構築し、住民を全て……生贄にした」


(クラセナー村? 確か、朝飯あさめしを食べた店の人が、話していた村か!)


 果敢は朝食の際、耳にした話を思い出す。


「クラセナー村は、魔族に焼かれて全滅したと、聞いていたのですが?」


 司祭もレストランの女性と同様、クラセナー村の住民達は、魔族に焼かれて全滅したという話を、聞いていたのだ。


「魔族召喚魔術を発動した時に、住民達は既に全滅している、生贄として捧げられてな。召喚した魔族が、村を焼き払ったのは、その後だ」


「何と……酷い事を……」


 司祭は悲痛な面持ちで、胸の前で両手で輪を作ると、犠牲となったクラセナー村の住民達の為に、祈りを捧げる。

 両手で輪を作り祈るのが、グリム聖教の祈り方である。


「クラセナー村の住民達を、犠牲にすると知った上で、魔族召喚を手伝った者がいるかどうかも、訊いてくれ」


 祈りを終えた司祭は、果敢の依頼通りの事を、ゴッドフリートに訊ねる。


「俺一人でやった、情報が漏れると困るからな」


 魔術印を用意する為の道具を、クラセナー村まで運ぶ事など、ゴッドフリートは様々な作業を、業者や人に頼んでいた。

 ただし、頼まれた側は、魔族召喚の為だとは知らず、普通の仕事として行っていた。


 魔族召喚という最大の禁忌となれば、部下であっても情報漏洩は起こり得るので、ゴッドフリートは誰にも秘密を洩らさなかったのだ。

 廃れたとはいえ、ローゼンハイン侯爵家は、魔術の名門の家系。


 道具の輸送などの作業を除けば、ゴッドフリートは一人だけでも、大規模な召喚魔術を、行う事が出来たのである。


(だとしたら、他に片付けなきゃならない奴は、いないようだな……)


 果敢は魔族召喚に協力者がいるのなら、協力者も片付けておくつもりだった。

 それ故、召喚に必要な生贄などに関する話を、果敢は司祭に訊いてもらったのである。


 果敢の質問が途切れたので、自分が疑問に思っていた点について、司祭はゴッドフリートに問いかける。


「何故、聖堂の地下に居たのですか?」


「フラウエン島から地下道を通り、そこの猫の仮面をかぶった女から、逃げて来たのだ」


 ゴッドフリートは、説明を続ける。


「ヘレン島と……フラウエン島からの、非常用の地下道が、この聖堂の地下空洞に、繋がっているのでな」


 チキータの指示通り、魔族達はゴッドフリートを連れて、フラウエン島から地下道を通り、脱出していたのだ。


「何故、その地下道が……聖堂の下に?」


「二百年程前、ローゼンハイン家の当主が、この聖堂を建てた時、巨大な地下空洞を発見した」


(やはり、あれは元からあった、地下空洞だったんだな)


 地下空洞という言葉を聞いて、少し前に下りた地下空間を、果敢は思い浮かべる。


「聖堂の下にある地下空洞を利用し、地下道は作られたので、地下道のローゼンシュタット側の末端が、聖堂の地下にあるのさ」


 魔族達とゴッドフリートがいた地下空洞から、実は聖堂の庭園に通じる出口がある。

 ゴッドフリートと魔族達は、目立たぬ夜になってから、その出口から逃亡を図るつもりだったのだ。


 その点については、問われてはいないので、ゴッドフリートは口にしない。


「ゴッドフリートの罪は、既に明らかだろう。まだ続けるか?」


 果敢の問いに、司祭は首を横に振ると、クリケを唱えて、秘跡を解除する。

 床で光っていた、秘跡印が消え去る。


「では、片付けさせて貰う」


 出しっ放しにしていた、右手のアウラ・ブレードを振り上げた、果敢の姿を目にして、ゴッドフリートは哀願する。


「頼む! 命だけは……助けてくれ!」


 果敢を相手に、戦っても逃げても無駄なのは、既に分かり切っているので、ゴッドフリードに出来るのは、命乞いだけなのだ。


「何でもするから……金でも、我が一族に伝わる、貴重な魔術道具でも……何でもやるから、殺さないでくれ!」


「この期に及んで命乞いだと? お前が召喚した魔族は、命乞いなど……しなかったというのに」


 仮面の下で、呆れ顔を浮かべながら、果敢は続ける。


「お前は魔族にも劣る下衆だ、助ける価値は無い」


 そして、躊躇いもせずに、果敢は右手のアウラ・ブレードを振り下ろし、泣き喚いているゴッドフリートの身体を両断する。

 絶叫を上げる暇も無く、身体を袈裟懸けに真っ二つにされ、ゴッドフリートは絶命、屍となって床に転がる。


 以前であれば、悪党とはいえ人間を殺すと、果敢は罪悪感を覚えたものだった。

 だが、この世界に来て半年も過ぎた頃には、そうではなくなっていた。


 自分の利益の為に、罪無き人間の命を奪えるような悪党に、情けをかけたら、後で罪の無い者が、また被害を受けてしまうのが、この世界の現実なのだ。

 その現実を思い知っているので、罪無き人間を故意に殺したのであれば、果敢は人間であっても容赦はしないし、殺しても罪悪感を覚える事は、無くなっている。




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