059 ま、待て! 貴様……領主である俺に、強制告解を受けさせる気か? そんな事は許されんぞ!
司祭以上の者達なら、大抵は使う事が出来る秘跡で、グリム聖教の洗礼を受けた者は、この秘跡を受けている間、決して嘘を吐けなくなるのである。
コンフェッショアネム・コアクトゥスは強制告解という、教徒に罪の告白を強制する場合にのみ使用され、教徒は強制告解を拒否出来ない。
軍用魔術である尋問魔術とは、問いに対し、嘘が吐けなくなるという点では共通しているが、似て非なる術である。
尋問魔術は相手に苦痛を与え、質問に答える事を強制する。
この秘跡の方は、質問に対して、正直に答えずにいる事が出来なくなるので、苦痛を与えたりする訳では無い。
ただし、グリム聖教の教徒相手にしか、使用出来ないという制限がある。
グリム聖教が禁ずる罪を犯した者は、グリム聖教の司祭以上であっても、秘跡を発動する事が出来ない。
コンフェッショアネム・コアクトゥスに限らず、罪を犯した者に、秘跡は使用出来ないのだ。
果敢はゴッドフリートが、グリム聖教の洗礼を受けた教徒であるのを、知っていた。
貴族の多くは、グリム聖教の権威を利用するので、教徒だろうとは思っていたのだが、先程の司祭の「侯爵はグリム聖教の教徒です」という発言で、裏も取れていた。
司祭がいるのであれば、グリム聖教の教徒であるゴッドフリートに、コンフェッショアネム・コアクトゥスを使う事が出来る。
果敢がゴッドフリートを、魔族と共に殺さなかったのは、司祭によるコンフェッショアネム・コアクトゥスを、ゴッドフリートに受けさせる為だった。
そうすれば、ゴッドフリートが魔族を召喚し、平等派潰しに利用させた事の、明確な証拠を残せる。
証拠を残さなければ、ゴッドフリートは殺人鬼に襲われ殺された、被害者扱いされてしまう可能性がある。
更に、司祭がゴッドフリートの協力者かどうかも、確認が出来る。
言動と印象から、司祭はゴッドフリート達が地下にいるのを、隠していた訳では無さそうなのだが、確認する必要があると、果敢は考えたのだ。
コンフェッショアネム・コアクトゥスという秘跡を発動出来るのなら、この司祭はグリム聖教が定義する罪を、犯していない事が分かる。
魔族召喚者への協力は、グリム聖教が定義する罪なので、もしも司祭が、故意に地下空間にいたゴッドフリート達を隠していたのなら、秘跡は使えなくなる。
つまり、果敢からすれば、司祭にコンフェッショアネム・コアクトゥスを、ゴッドフリートに対して使わせる事は、一石二鳥という訳なのだ。
「こんな屑は、さっさと片付けてしまいたいんだが……」
ゴッドフリートを一瞥してから、果敢は続ける。
「こいつの罪が事実かどうかを、コンフェッショアネム・コアクトゥスで確認するのなら、少しくらい待っても良いよ」
「その通りですね、そうさせて貰う事にしましょう」
司祭が果敢の意見に、同意する言葉を口にしたのを聞いて、ゴッドフリートは明らかな狼狽を見せる。
「ま、待て! 貴様……領主である俺に、強制告解を受けさせる気か? そんな事は許されんぞ!」
ゴッドフリートは声を上ずらせつつ、言葉を続ける。
「この聖堂を建てて寄進したのが、ローゼンハイン家だったのを忘れたか! 貴様、恩を仇で返す気か?」
「侯爵……我等が従うのは、教義のみです。どのような者であっても、特別扱いする事は有りません」
ドライな口調で、司祭は言い放つ。
ゴッドフリートの今の言葉により、司祭の中では、既に答が出てしまったのだ。
ただ、その答を確認する為、司祭はクリケを唱え……コンフェッショアネム・コアクトゥスを発動する。
すると、ゴッドフリートの真下、血塗れの聖堂の床に、直径三メートル程の、白く光る円十字が現れる。
この円十字は、グリム聖教の聖職者達が、秘跡を使う時に出現する、秘跡印である。
要は魔術印や聖魔術印の一種なのだが、グリム聖教では秘跡印と呼ぶのだ。
ゴッドフリートは秘跡印から、這い出ようとするが、出る事は出来ない。
既にコンフェッショアネム・コアクトゥスは発動しているので、洗礼を受けた者は、秘跡が終わるまで、秘跡印の上から逃れられないのである。
(秘跡が使えるという事は、司祭は白か……)
もしも司祭が、ゴッドフリートの悪事を知っていたのなら、秘跡を使う事は出来ない。
秘跡を発動出来た時点で、司祭は今回の件について、何も知らなかった事が、果敢には確認出来たのだ。
「侯爵……貴方が領内の平等派を潰す為、魔族を召喚したという話は、事実ですか?」
努めて平静な口調での、司祭の問いかけに、ゴッドフリートは両手で口を塞ぎ、答えまいと抵抗する。
しかし、そんな抵抗は通用せず、両手は口の前から、ゴッドフリートの意志に反して外れてしまう。
苦悶の表情を浮かべつつ、ゴッドフリートは口を開く。
「事実だ……」
既に予想出来ていた答とはいえ、ゴッドフリート本人の口から聞いて、司祭は目を伏せ、深い溜息を吐く。
だが、すぐに目を開き、司祭は質問を再開する。




