057 何を……そんな馬鹿な事を! 魔族が聖堂にいる訳がないでしょう!
(拙いな……出来れば、余り人目につきたくは、無かったんだが)
果敢は一度、身を隠すべきかどうか迷う。
(いや、アウラ・マーカーの効果は、そんなに長くはもたない。早く連中を、探さなきゃならないんだ)
果敢は身を隠さず、このまま魔族達とゴッドフリートの追跡を、続ける事にする。
空中停止したまま、果敢は目を閉じて、アウラを探る。
(分散していない……集まってる感じだ)
目を開くと、果敢はアウラを感じる方向に目をやる。
すると、町の中心部近くにある、古びた感じの大きな建物が、果敢の目に留まる。
二本の尖塔に挟まれた、大きなホールのような、白い建物だ。
尖塔の上には、円の中に十字が収められた、グリム聖教の紋章……円十字を象ったオブジェが、飾られていた。
「グリム聖教の……聖堂か」
果敢は驚きの表情を浮かべながら、グリム聖教の聖堂に向かって、急降下して行く。
聖堂の近くにいた住民達が、大騒ぎをしながら逃げ惑う。
自分達の領主のゲストハウスを、島ごと吹き飛ばすような戦いの当事者が、近付いて来たのだから、住民達が逃げ惑うのも当たり前だ。
果敢からすれば、逃げて遠ざかってくれた方が、都合は良いのだが。
古城のような趣を感じさぜる、グリム聖教の聖堂の正面に、果敢は降り立つ。
ローゼンシュタットの聖堂は、大聖堂に近い大きさがあるのだが、司教が置かれていないので、あくまでもただの聖堂だ。
建物の扉は開け放たれていたので、果敢は聖堂の中を調べるべく、出入り口に近付いて行く。
すると、通りにいた黒いキャソック風の祭服を着た、五十歳前後と思われる、厳めしい顔立ちの細身の男が、果敢の前に立ちはだかる。
(司祭か)
黒のキャソックを着ているのは、グリム聖教の場合は司祭なので、そう果敢は判断する。
果敢が判断した通り、その男は聖堂の司祭であった。
通りが大騒ぎになっていたので、司祭は様子を見る為に、通りに出ていたのだ。
司祭は通りにいた人々に、大騒ぎの原因を訊いた。
キール湖の辺りで、島を消し飛ばす程の戦いが行われ、その戦いの当事者らしき、血塗れのディアンドル姿の何者かが、ローゼンシュタットの上空に現れた……。
人々は司祭の問いに、そういった感じの答を返した。
すると、その血塗れのディアンドル姿の何者かが、聖堂の上空に現れ、地上に下りて来て聖堂に入ろうとしたので、司祭は慌てて、制止しようとしたのである。
「お待ち下さい、お嬢さん。そのような物騒な格好で、聖堂に立ち入られては困ります」
「この聖堂に、ローゼンハイン侯爵と……奴が引き連れた魔族達がいる筈だ。どこにいる?」
果敢に問いかけられ、司祭だけでなく、距離を置いて様子を見守っていた、野次馬の住民達は、驚きの表情を浮かべる。
「何を……そんな馬鹿な事を! 魔族が聖堂にいる訳がないでしょう!」
司祭は強い口調で、言葉を続ける。
「それに、侯爵が魔族を連れているなんて……」
「ローゼンハイン侯爵は、領内の平等派潰しをやらせる為、魔族を召喚した。私は魔族を狩る為に、派遣された者だ」
普段の一人称は「俺」なのだが、果敢は女装姿に合わせ、「私」にしている。
「侯爵が魔族を召喚? そんな……有り得ません! 侯爵はグリム聖教の教徒です、聖なる教えの教徒が、魔族の力を利用しようとする訳がないでしょう!」
「隠すと為にならない。人を大量に殺した魔族と、魔族を召喚したローゼンハイン侯爵を、隠すというのなら、相応の目に遭わせる」
脅しでは無く、果敢は本気である。
「隠してなどいませんよ。侯爵も魔族も、ここにはいません」
果敢の圧力にも怯まず、堂々と司祭は言い切る。
(嘘を吐いている感じでは無いな……)
そう判断した果敢は、司祭を押し退け、強引に聖堂の中に入る。
日本の学校の、体育館程の広さがある聖堂の中には、宗教画が描かれた高い天井に、カラフルなステンドグラスの窓、行儀よく並んでいる椅子に、祭壇などがある。
十字架が円十字となっている事を除けば、カトリック系のキリスト教の聖堂と、見た目は余り変わらない。
聖堂の中には、果敢と司祭、そして司祭の元に駆け付けた、二人の助祭しかいない。
「困ります、お嬢さん!」
司祭は声を上げるが、果敢は無視して、魔族達やゴッドフリートを探知する為、目を閉じて精神を研ぎ澄ます。
すると、地下の方から、自分のアウラの存在を、果敢は感じる。
果敢は目を開き、司祭に問いかける。
「この下の地下室に通じる通路は?」
「地下室? そんなもの、ありませんよ!」
司祭は驚き、地下室の存在自体を否定する。
「宿舎の地下になら、倉庫がありますけど……聖堂の地下には、何もありません!」
「教えないなら、床に穴を開けて、調べるだけの話だ! 知っているなら、さっさと教えろ!」
「だから、聖堂の下には、地下室なんてありません! 地下室が無いんですから、通路もありませんよ!」
(知っていて、惚けているという感じはしないが……訊くだけ無駄か)
司祭は嘘を吐いているように、果敢は感じられなかったが、確証がある訳ではない。
どちらにしろ、教えないというなら、相手にするだけ無駄だと、果敢は判断。
右手にアウラを集めて光らせながら、果敢は司祭と助祭に警告する。
「床に穴を開ける! 怪我したくなければ、離れていろ!」
問答無用と言わんばかりの、果敢の警告を聞いて、司祭達は慌てて逃げ出す。
司祭達が遠ざかったのを確認してから、果敢は石が敷かれた聖堂の床に右手を向けると、数発のアウラ・ショットを放つ。
爆発音を響かせながら、聖堂の床に大穴が穿たれ、大地震で崩落するかのように、床が崩れ始める。
聖堂の椅子の一部も、穴の中に落ちて行く。




