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055 女が服を着てる時に、部屋に押しかけるなんて、元英雄が……聖女達を辱めた卑劣漢だって話は、本当だったみたいだねぇ

 果敢から逃げ延びはしたが、心臓に大きなダメージを負った魔族は、この段階で戦争から手を引き、とある場所で療養生活を送っていた。

 その療養生活中、その魔族は「角無し」になっていた。


 角無しとは、魔族の角を消し、魔族では無くしてしまう魔術道具を使い、人族となった元魔族の事だ。

 魔族の時に持っていた、強力な魔力や魔術の大部分は、基本的には使えなくなってしまう。


 ただし、普通の人族よりは、遥かに強力な魔力を持つし、魔術の知識は豊富である為、大抵の角無しは、人並外れた魔術的能力を持つ事になる。

 しかも、短時間ではあるが、疑似的に角を再生し、魔族時代の力を使う事も可能だ。


 果敢から逃れた魔族は、偶然にも魔術道具を持つ角無しと出会い、その魔術道具を借りて、角無しとなった。

 そして、人族となって人族の世界で、戦後は気楽に暮らしている。


 ちなみに、角無しとなった元魔族が暮らしているのは、キュレーター島であり、クルトとなった果敢とは、同じ店の常連客である為、実は頻繁に顔を合わせている。

 だが、互いに見た目と名前を変え、正体を上手く偽装している為、どちらも相手の正体には、全く気付いていないのだが。


「本体は、どこに行きやがった?」


 果敢は目を閉じると、精神を研ぎ澄ましつつ、チキータの存在を感知しようとする。

 すると、果敢は程無く……チキータの存在を感知する。


「西か……」


 果敢はアウラ・アーマーの出力を、通常レベルまで落とすと、エアリアルを発動し、空に舞い上がる。

 西の空に向かって、果敢は高速飛行を開始。


 湖の上や周囲の森を通り過ぎ、果敢はチキータの存在を感じる方向に向かって飛び続ける。

 そして、田園の上を通り過ぎ、五キロ程飛び続けた果敢は、小さな森の上空に辿り着く。


「この辺りから、感じるんだが……」


 果敢は目を閉じ、再び精神を研ぎ澄まし、より正確にチキータの居場所を、感じ取ろうとする。

 そして、チキータがいる方向を、より正確に感じ取った上で、果敢は目を開き……感じ取った方向に目をやる。


 その方向に、果敢は小屋の存在を視認した。

 森の合間に、木々が無い広場のような部分があり、そこに小屋があったのだ。


 付近の木こりや農民などが、森の中で作業する際に利用する感じの、何の変哲も無いログハウス風の小屋である。


「あそこだ!」


 果敢は自信有り気に言い切ると、その小屋の前に向かって急降下し、地上に降り立つ。

 そして、アウラ・ブレードにした右手で、ログハウスのドアを、一瞬でバラバラに切り刻み、ブロックのような木片群に変えてしまう。


 既に戦える力は、チキータには残っていない筈だと、果敢は考えている。

 それでも、果敢は油断はせずに、出入口からログハウスの中に、足を踏み入れる。


 一応は、人が暮らせる家具が、一通り揃えられているのだが、普段は使われていないのだろう、生活感は無い。

 そんな部屋の中央には、チキータの姿があった。


 大爆発の直前、転移魔術を使い、非常時の為に用意しておいた、この潜伏用の小屋に、チキータは転移して来た。

 転移魔術が仕掛けられた、魔術道具が作り出す結界に、脳と心臓だけが、保護された状態で。


 残された魔力の全てを費やし、チキータは結界の中で、即座に身体を再生した。

 脳と心臓だけ残っていれば、特級魔族にとっては、残りの身体の再生など、簡単な事なのだ。


 身体の再生を終えたチキータは、すぐに逃亡する為、小屋に用意しておいた服を着始めた。

 果敢がログハウスに入って来たのは、服を着ている最中だったのである。


 まだ着替え終えていないので、チキータは黒い下着の上に、白いワイシャツを、ボタンも留めずに着ているだけの、肌も露な姿であった。


「女が服を着てる時に、部屋に押しかけるなんて、元英雄が……聖女達を辱めた卑劣漢だって話は、本当だったみたいだねぇ」


「本当じゃねぇよ! あれも、アスタロトの呪いのせいだ!」


 下着姿に近い、艶っぽいチキータの姿は、正視し難くはあったのだが、目を逸らせば逃げられる可能性があるので、果敢は目を逸らさない。

 油断してはいけない相手だと、果敢はチキータを認識しているので。


「どうして此処が分かった? 転移先が読める訳が無い魔術道具を、使った筈なのに」


 チキータが行った転移……瞬間移動は、体内に仕掛けてあった魔術道具で、行っていた。

 最大で数キロしか転移させられないのだが、転移先に関する情報を、決して残さない筈なので、自分の居場所を果敢に知られた事が、チキータは不思議だったのだ。


「お前達には、とっくの昔に……目印をつけておいたからな。目印を追って来ただけの話だ」


「目印? そんなもの……何時……何処で?」


 チキータは何時、そんな目印をつけられたのかを、思い出そうとする。

 そして、チキータは気付く……その時は意味が分からなかった、果敢の奇妙な行動こそが、その目印を付ける為の行動であった事に。


「あの時の、攻撃力の無いアウラは、不発ではなく……目印を付ける為だったのか!」


 チキータの言う「あの時」とは、果敢がチキータに蹴り飛ばされ、ゲストハウスの外に、吹っ飛ばされた時の事だ。

 あの時、果敢は吹っ飛ばされながらも、白く煌めくアウラの突風を、大広間に向けて放った。


「不発か?」


 攻撃力が無かったので、その時のチキータは、訝し気に自問したのだ。

 でも、その後に激戦が続いたので、攻撃力の無いアウラを、果敢が放った事の意味を、チキータは深く考える時間が無かった。


 だが、果敢に目印の話を出された今になって、あの時に果敢が放った攻撃力の無いアウラが、自分達に目印を付ける為のアウラであった事に、チキータは気付いたのである。



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