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054 地獄に落ちろ!

 実はタスラムには、超高熱を与えると、凄まじい爆発を引き起こす力がある。

 元々が、神が使った砲弾のような存在の一部であったらしく、超強力な爆弾のような能力を、タスラムは持っている。


 つまり、チキータはタスラムを起爆する為、残された魔力の殆どを費やし、身体を超高熱状態にしているのだ。

 ベーテ・アル・インフェルノとは、タスラムを利用した、自爆技なのである。


 ただ、自爆する寸前に、脳と心臓だけは、体内に仕掛けられた魔術道具の力を使い、安全な場所に転移し、すぐに身体が再生するようになっているので、チキータは死にはしない。

 ただし、持てる魔力の殆どを費やしてしまうので、戦闘継続は不可能になる。


 元々は英雄相手ではなく、同じタスラムを持つ魔族を倒す為、チキータが開発した、必殺の攻撃手段である(タスラム自体も、神の力を持つので、タスラムを持つ魔族を殺せる)。

 これで倒せなければ終わりという、まさにチキータにとっての奥の手といえる。


 そして、とうとうチキータの身体が、タスラムを起爆可能な温度に達した。

 起爆可能な温度に達した状態で、チキータが身体だけを残し、脳と心臓だけを、魔術で他所に転移させた直後、自動的に起爆して大爆発を起こすように、タスラムには魔術が仕掛けてある。


 ベーテ・アル・インフェルノの最終段階を前にして、チキータは勝ち誇った口調で、果敢に言い放つ。


「地獄に落ちろ!」


 チキータが残した言葉を、チキータの出身地の古い言葉に訳すと、ベーテ・アル・インフェルノになる。

 つまり、チキータは魔術名の意味と、同じ意味合いの言葉を、言い放ったのだ。


 直後、チキータの目から……意志の光が消える、チキータの脳と心臓が、何処かに転移したのである。


 脳と心臓の転移が終わると、タスラムに仕掛けられた魔術が発動。

 神の砲弾の一部と言われる、タスラムが起爆。


 地上に太陽でも落ちて来たかのような、強烈無比な光を放ちながら、チキータの身体ごと、タスラムは大爆発を引き起こす。

 閃光に飲み込まれながら、フラウエン島は吹き飛ばされ、周囲の湖水が一瞬で蒸発する。


 耳をつんざくような轟音が大気を震わせ、衝撃波が発生。

 蒸発を免れた湖水は津波となり、衝撃波と共に、キール湖の周囲の森林に殺到する。


 だが、エイセーラス・スクリーンの持つ、絶対防御能力により、ベーテ・アル・インフェルノの大爆発による被害は、全て打ち消されてしまった。

 同様に、ヘレン島もエイセーラス・スクリーンに守られ、大爆発による被害を、免れる事が出来た。


 凄まじい爆発は、フラウエン島を完全に消し飛ばし、湖水の半分近くを蒸発させ、湖底にも大穴を穿ってしまった。

 まさに地形が変わってしまう程の大爆発を、ベーテ・アル・インフェルノは引き起こした。


 だが、エイセーラス・スクリーンのお陰で、戦いに無関係な者達の命は守られた。

 そして、大爆発の直撃を受けた、果敢の姿は、爆心地にはなかった。


「今のは……ヤバかった、死んだかと思ったぜ」


 冷や汗を浮かべながら、果敢が呟いたのは、キール湖の畔である。

 大爆発の直前、果敢のアウラ・アーマーは最大出力に、何とかギリギリで達する事が出来た。


 それ故、大爆発には耐え切る事が出来たのだが、果敢は爆風に吹き飛ばされてしまった。

 キール湖の周囲に張られた、エイセーラス・スクリーンに叩き付けらる形で止まった為、果敢はキール湖の畔にいたのだ。


 耐え切れたとはいえ、さすがに無傷という訳にもいかず、果敢は身体中に、傷と火傷を負っていた。

 ディアンドルなどの着衣や装備は、既に再生されたのだが、身体の方の再生は、そこまで簡単にはいかないのである。


「痛ってーな……ここまでやられたのは、アスタロトの時以来だ」


 傷だらけの手足を見ながら、果敢は続ける。


「俺が来て良かった……他の連中なら、殺されていた」


 体内を流れるアウラを調整すれば、止血は出来る。

 本格的に治療するなら、聖魔術や魔術を使わなければならないが、その暇はない。


 何故なら、逃げた筈のチキータを、仕留めなければならないからだ。


(たぶん、あいつは身体だけ残して、本体を逃がした筈だ)


 果敢はチキータが、ただ自爆した訳ではない事に、気付いていた。

 チキータは「地獄に落ちろ!」と、勝ち誇ったように言っていた。


 その言い方は、勝利を確信していたように、果敢には受け取れた。

 故に、チキータの自爆は、共倒れを狙ったものではないと、果敢には判断出来た。


 そして、自爆の寸前、チキータの目から、意志の光が消えたのに、果敢は気付いた。

 故に、チキータの身体から、既に意志が抜けていた……つまり、脳が抜け出した可能性がある事に、果敢は思い至る事が出来た。


 実は、かって果敢が戦った魔族の中に、似たような真似をした、特級に近い上級魔族の強敵がいたのだ。

 自爆した訳ではなかったのだが、激戦の終盤……果敢に追い詰められた、その強力な魔族の目から、急に意志の光が消え、動きが鈍ったのだ。


 動きが鈍った魔族を、果敢は仕留めた……と思い込んでいた。

 だが、共に戦っていたレギーナが、戦いの決着に疑問を抱き、その魔族の死体を、魔術を駆使して調べた。


 結果、死体には脳と心臓の残骸が、一切残されておらず、転移を引き起こす魔術道具の残骸が、発見された。

 魔族は魔術道具を使い、脳と心臓だけを別の何処かに転移させ、やられたように見せかけて逃げ延びたというのが、レギーナの推測であり、その推測は当たっていた。


 この時の経験があるので、果敢はレギーナが同様の手段を、自爆技に応用している可能性に、思い至れたのだった。

 ちなみに、この時に仕留め損ねた魔族は、現在でも生き残っている。




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